私の思いと技術的覚え書き

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MT&クラッチのこと

2017-01-15 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 MTのことで記したら、予想を超えてコメントを多くもらい、感心を持たれてる方も結構いるのだと再認識した。そこで、クラッチと合わせ補足してみたい。

 コメントの中に、トラック系のMTで素早いシフトをしようとして入らないのは、回転系のマスがなせるとの意味あいが記されていたが正にその通りだ。例えば、3速から2速にシフトダウンする場合、クラッチを切って3速を抜き、2速のシンクロナイザーリングを介して2速ギヤを増速をさせる訳だが、2速ギヤに継続された、カウンターシャフト、インプットシャフト、クラッチディスクと各部品の回転イナーシャ(慣性)が大きい程、瞬時に増速を果たすことは困難となる。だから、特にトラックなどでは、シフトダウン頻度が多く回転差も大きくなりがちな、2速とか3速のシンクロナイザーリングの摩耗が起き易いことは、時々ちょっと古めのMT仕様のマイクロバスなどに乗っても感じるところだ。

 回転系イナーシャというのは、兼坂弘氏によればローで全力加速するトラックでは、その回転エネルギーの80%はフライホイールに吸収されてしまうということを記している。だから、レーシングカーでは小径で薄い軽量なフライホイールが使われる訳だ。しかし、市販車でこれをやるとクラッチミート時の回転落ちが凄まじく、いきおい回転を上げてのクラッチミートする他なくなる。ということは、クラッチが滑る頻度が多くなり、クラッチ寿命にも影響してくるし、そもそも静々とした発進が困難となる。

 初代MR2(AW10)が出た当時のモーターファンの記述だったと思うが、ベストな0-400を記録するためには、6,000rpmでクラッチミートした場合が最良だったと記してあり驚いたことを思い出す。ミッドシップは後輪接地加重が大きく、比較的トルクの小さいエンジンでは、ホイールスピンし難いため、ここまで高回転でクラッチミートしても、やっと後輪が軽くホイールスピンしかしないと云うことだろう。(制動および駆動共にスリップ率20%程度が最大のタイヤと路面間の摩擦係数が得られる)しかし、ここまで高回転でクラッチミートするとなると、幾らスパンとクラッチを離しても、滑る量はそれなりに多いだろうから、反復動作においては相当寿命に影響して来ることだろう。

 大型トラックなど大トルクエンジンでは、クラッチ板を複数持ったツインプレートクラッチが使用される場合がある。一方、乗用車でも、先のMR2みたいなシチエ-ションをたぶん考慮したんだろうと想像するが、初代NSXにはツインプレートクラッチが使用されていた。これにより、大トルクとかなりの回転差があっても、滑りを急激に押さえ込むことができるのだろう。

 F1用エンジンなど純レーシングエンジンでは、先にも記した様に小径フライホイールが使用されるが、これはイナーシャを小さくすると共に、エンジン重心を下げたいという思考からも生じて来る。そして、そこに組み付けられるクラッチも、4枚とかの小径多板クラッチの構成となり、小径故に同重量でもイナーシャ的には小さくなる。

 ところで、二輪車は詳しい方ではないが、スペース的に大径クラッチを使用できないから、小径多板クラッチが多い様だ。しかも、4輪では乾式だが二輪では湿式が多いと思われる。湿式クラッチというのは、オートマチックトランスミッション内部では多用されているが、寿命の点では乾式より有利となるであろう。しかし、クラッチを切っても、オイルの粘性で引きずりが生じる(ビスカスカップリング程強烈ではないが)から、二輪車でエンジン始動して、クラッチ切ってローへシフトするとガチンと音を出すのはそのためだろう。

 なお、二輪車の多くは、シンクロ機構を持たないドグクラッチ式である。これは車体が軽いことから、フライホイール(多くはマグネトー点火の永久磁石を併設している)も小径軽量だし、クラッチも小径多板で回転系イナーシャも小さくして問題は生じない。ということで、多少の回転差は粗いドグの噛み合いで吸収し得るのだろうと想像している。なお、シフトパターンが4輪車と異なり、1ダウン4アップとか、どちらかと云えばワークスラリーカー等で見るシーケンシャルシフトに類似する機構だが、シフトフォークを動かす独自の溝付きドラムを回転させることで、複数のシフトフォークを駆動している様だ。





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