私の思いと技術的覚え書き

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見積論とAI見積への杞憂

2020-10-01 | コラム
 見積とは何かと問えば、主に売買契約において、その内容や費用を前もって算出する行為と解すべきだろう。購入者は、その内容や金額の妥当性を思考し、場合によって媒介契約を締結するのか中止するのかを決断することになる。

 さて、拙人は事故や故障に関わる見積を業として30年を超えて行って来たのだが、昨今はAI見積などと云うものが喧伝される世になっているが、この評価は後に記すことにし、既存の見積動作について記してみたい。つまり云うところの見積技能のことだ。

 事故損傷の見積を行う場合、大局として以下の2つのステップを経ることになる。

①損傷診断
 何処がどの様に損傷していることを見極めるということだが、概観上見えない裏側もしくは内部の損傷を予測するところが肝になると思える。また、適切に構造を把握しているところも大切なことだろう。

②作業の想定
 損傷診断の結果を前提として、どの様に復元修理が行われるかを予測することだ。もっと云えば、どの様な機械工具、機器を使用し、一人もしくは複数以上の作業者がどの様な過程で作業を進めるかを予測することと云える。

 なお、予測する作業は、決して単一ではない。コストパフォーマンス優先の最下限の場合、高精度もしくは高品質を前提とした最上限の場合、作業工場もしくは作業者の技量や思想を加味した、各種作業予測の事例は無数にあるだろう。

 ただし、保険者が保険金を支払うに当たって評価する場合、世の一般的な、つまり標準的な作業としてという前提を欠かすことはできないだろう。

 以上が従来から行われて来た見積評価技能者としての思考だが、AI見積として、そのアルゴリズムを検討する場合どうなるだろうか。AI見積以前に類似のシステムとしてエキスパートシステムと呼ばれるものがあった。これは、人が認知、判断する動作をなぞり、実行するというものだが、AIシステムの思考は異なる様に思える。それは、損傷診断だとか作業の推定という動作を、アルゴリズムとして実行可能にするのは極めて困難だと思えるからだ。そこで、AI見積としての基本アルゴリズム上の順序は、概略として以下の様になると思える。

①画像解析により外面的な損傷を把握する。
②得られた損傷量や状態から、過去の類似損傷例にマッチする見積事例から近似した事例をリストアップする。
③リストアップされた見積事例を、その該当車のパーツリストその他のデータを参照し、適宜置き換え、削除もしくは追加し、それらしい見積書をアウトプットする。

 とかなりアバウトだが、この様な感じだろうと思える。ここには、従前技能者のスキルとして介在せざるを得なかった、損傷診断とか、作業の推定という要素は欠落せざるを得ない。ただ、そこにあるのは、外見上の損傷量もしくは状態と、そこから導き出せる過去データとしての統計的もしくは確率的な平均値ということになりはしないだろうか。

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