私の思いと技術的覚え書き

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寺子屋指南 その4 見積技法と損傷診断

2021-03-29 | 賠償交渉事例の記録
 第4回目の寺子屋指南となるが、如何に適正妥当な見積を作成するかというのが見積技法となり、それには的を得た損傷診断という動作が欠かせない。

 この損傷診断について個別に書き表すと、膨大な事案がありすぎるので、ここでは大局的なものの見方として記してみたい。

 これはクルマに限らずあることだと思えるが、とかく見積の素人というのは、損傷部位のみに着目しがちとなるのだが、まず車両全体を大きく観察してみるということは大事なことと思われる。具体的には、損傷部位を中心にクルマの廻りを一周しながら観察したり、ちょっと離れ気味から車体の損傷傾向として、前端部が下がっている傾向があるとかを把握することは、後ほど検討することになる車体の骨格部位の変形を判断するには絶対必要なこととなる。

 なお、フレーム付きのトラックなどは、そのフレームの変形には振れ、上下曲がり、捻れなどがある訳だが、これは極大きな局部的な座屈でもない限り、ある程度離れて見ないことには判断はできない。例えばトラック後方から離れて見て、トリイアングルと荷台の平行度が狂っているという場合は、場所が平坦だという前提においては、フレームに捻れが生じていると判断できる。

 この様な、損傷車からやや離れ気味で全体もしくは広く観察してみるという手法を、マクロ的な観察と呼んだりしている。見積における損傷診断としては、このいわゆるマクロ的な観察を意識して行った上で、個別損傷部のミクロ的な観察に移るというのがセオリーだろう。

 ところで、拙人は過去に本社の研修部とか現場でもマネージャー的立場から、他人の作った見積を見る機会は一般的な者より格段に多かったと回想する。そんな中で思うことは、調査員のしてはいわゆるカメラの視点であり、見積書に添付された写真が、如何に添えられた見積書の妥当性だとか納得性を得るには、その様なカメラアングルだとか工夫が込められているかということを繰り返し見て来た。端的に記せば、写真を見ただけで、その担当者が如何にいいかげんに仕事を流しているのか、しっかりと損傷車に正対して取り組んでいるのかは、たちどころに判断できた者だった。

 また、昨今の数とか処理件数だけを評価の対象にしたことの影響もあるのだろうけど、ジャッキアップしたりしての車両下部からの観察(つまり写真)が少なくなったという思いがしている。関連することとして、昔ある調査担当者と同行しての工場立会を行った際のことを思い出す。拙人は車両下部から、肝心要の損傷部を狙って観察したかったので、同行した担当者に「シャッキを借りて来て」と頼むが、何時まで経てもジャッキは来ないのである。「どうした?」と問えば、「今使用中らしくて空いているジャッキがない様です」との答えだ。その工場にはガレージジャッキが2台ほどしかない様だったが、当面ジャッキアップを続けるであろう方の作業者に、「ちょっとジャッキ貸して欲しいんだけど」と声を掛ければ、リジットラックなりを入れて、ジャッキを借りることができた。日頃、偉そうな口ぶりをしていて、工場とそんなコミュニケーションもできないのかと驚いたものだった。

 大破車が多頻度に入るレッカー業社などは、「悪いけどフォークで上げてくれる」なんて要望を気軽に受けてくれたものだった。

 それと、結構ベテラン調査員が、全分解しないと正確な見積は出せないという言い分を聞くことがあったが、一言付言しておきたい。だいたいにおいて、事故車の立会時に、すべて損傷部位が大幅に全分解されてしまっている場合、その見積作業は現車を行うより困難となることは知っておいた方が良いだろう。これは、いわゆるマクロ的観察が困難となり、すべてをミクロで見ていくしかなくなるからだ。

 それと、拙人は過去から、見積とは見える部分を見積もるのは素人ができる。外部から見えない隠れた部分をどうやって的確に想像しつつ見積するかがプロなのだと信じてきた。

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