プリウス50ドアロック機能調査
本調査は、日頃レッカー業(JAFの協力レッカー業者)を営む人物から、バッテリー上がりで出張した際、最近の乗用車において、メカニカルキーでの解錠が出来ない事案があるとの事象が増えていると云うことを聴取したことを問題と捉え、調査を行ったものだ。
同レッカー業運営者からは、このメカニカルキーによる解錠ができない車両としては、トヨタ系のプリウス30以降だとか、ヤリス、そしてダイハツタントなどがあったと云う。
なお、トヨタ系のメカニカルキー解錠不可能車は、ジャッキアップして12V電源をジャンプさせる場所がないかと試行したが、何れもHVであり、スターターやオルタネーターがなく、12Vジャンピングは不可能であったとのことだ。ただし、HVでない、タントの場合は、ジャッキアップしたところ、オルタネーターB端子が比較的接続可能な位置にあり、ここにジャンピングすることで、リモートキーでの解錠が可能であり、解錠してドアを開き、バッテリージャンプしてエンジン始動までが可能であったという。プリウスなどHV車ではどうしようもなく、リヤタイヤをドリーで上げつつ、レッキングで扱いディーラーへ搬送したと云うが、ディーラーでもどうしようかと困惑していたとのことだ。
1.本調査の流れと構成
まずは、本問題について、修理書やNet情報を確認したが、あまり有益な情報はなく、またメーカー修理書も見たが、まったく参考になる掲載はなかった。
そこで、まずは実物の確認を行ってみようという思いから、ヤフオクにてプリウス50の右フロントドアのロック機構と、それに連結するアウトサイドハンドル(ここにメカニカルキーシリンダーが付く)を入手した。
この入手できた、ロッキング機構を利用し、通常使用においては、バッテリーの給電に関係なく、メカニカルキーで解錠もしくは施錠とも問題なくできることを確認したのだった。
ただし、この内部にはモーターでのロックもしくはアンロック機構があり、その動作により異常が生じる可能性もあり得ることより、主にロッキングメカニズムを全分解しつつ、その内部のリンク機構の動作などを、様々な状態を想定して、メカニカルキーでのアンロックが可能かを試行しつつ確認してみた。
この調査研究により入手できた各情報は以下に細述するが、ここで結論を記すと、『このロッキングメカニズムは大きな欠陥を内在しており、メカニカルキーでの解錠ができない場合があり得る』という結論を得たことを明記しておきたい。
・・・ 途中は省略 ・・・
5.ドアロック・アンロック用モーターとカム機構
ここが本件のメカキーで解錠できない核心の部分となる。
補足
ウォームとカムギヤーの組み合わせは、ウォーム進み角40°程度であり、カムギヤからウォーム側への逆伝達も可能だが、その抵抗は大きい。それとカムの頂点から30°程度の角度範囲では、レバーのアンロック側への動きが規制されてしまう。
6.ドアロックメカニズム内のスイッチ
スイッチは2種類があり、SW1はメカニカルキーをアンロック(左廻し)、ロック(右廻し)した場合にのみONになる。その中間は、かなりの遊びがあるが、同SWはOFFとなっている。このスイッチは、長廻しによる、パワーウインドなどの開閉に利用されるもので、通常のインサイドロックレバーや電気的なロック、アンロック動作には関係しない。
SW2は1回路ノーマルOFFのマイクロSWだが、アンロックポジションでONとなる。ただし、かなりSWの動作としては余裕があり、ロックから完全にアンロック位置になる前にONになる様だ。このことは、逆にアンロックから完全にロック位置になる前にOFFになる。
7.まとめ(結論)
先の参照図(Fig12)で表した様に、この車両のロック・アンロックは、1モーターでその正逆回転を利用し、カムギヤに設置されたカムは3つの山を持つが、カム形状は緩やかな曲面の反対面は垂直な形状とされている。このカムの位相は、上面と下面で真逆に設定され、それぞれのカム面にレバーアームが接触する仕組みとなっており、アームを上下に回転させて動かす。
ただし、カムギヤ1周で3ヶのカムだから120°単位で、垂直なカム面に突き当たり、それ以上回転しない機構となっている。
これは概算値だから狂いがあるかもしれぬが、カムギヤの歯数は1周33歯で、ウォームギヤの歯ピッチは約3mmだ。従って、120°カムギヤを回転させるには、ウォーム(モーター軸)を約4回転させればよいということになる。
このモーターの起動もしくは停止を、最初はSW2のポジションSWで行っていると考えていたのだが、スイッチのON・OFF動作を検証しつつ、カム位置を比較すると、とてもこの機構では精度高い動作はできないということが判る。
パワーウインドの挟み込み検出みたいに電流検出でやっているのかとも思考したが、起動時のトルクも大きく(つまり電流値もピーク値がある)、そこからある程度短時間で拘束電流値として高まるのだが、そもそもこの小さいモーターで電流検出するというのもムリがありそうに思える。となると、想定だが500msとか一定時間のON信号での制御を行っているのではないだろうか。それと、アバウトながらポジションSWでの最終確認というアルゴリズムだ。
この方式で、カムの垂直面に突き当たり拘束される状態であれば良いのだが、リンク作動が重い、モーターやギヤの動きが重く規定時間でカム面に突き当たる前の中間状態(図Fig11)になり停止しているロック状態では、図Fig12の状態で、メカニカルキーではアンロックできない状態が再現されるのだ。
なお、この様な中途半端な停止位置になる理由で、各部の動作が重くなっていることを記したが、そもそもバッテリー電圧が低下している場合も想定されるところだ。
なお、このドアロックメカニズムの製造サプライヤは何処かとケースを見廻すと、この向かい合わせの半三日月がクロスした様なロゴマークが薄く金型に入れられていることが判った。今はインターネットで、画像で検索できる機能があるのだが、この薄っすらロゴを、別途の図形ソフトで簡易になぞり、明確にさせて検索すると、果たして以下のサプライヤだと判ったのだった。
https://www.act.mitsui-kinzoku.co.jp/
【従前記事】
レッカー業の方におたずね(バッテリー完全放電でメカニカルキーでもロック解除できないクルマのこと)
2021-12-16 | 車両修理関連
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/47903d9ae861f71b427aad8ebb6cd766
#プリウス50のメカニカルキーには重大問題あり
本調査は、日頃レッカー業(JAFの協力レッカー業者)を営む人物から、バッテリー上がりで出張した際、最近の乗用車において、メカニカルキーでの解錠が出来ない事案があるとの事象が増えていると云うことを聴取したことを問題と捉え、調査を行ったものだ。
同レッカー業運営者からは、このメカニカルキーによる解錠ができない車両としては、トヨタ系のプリウス30以降だとか、ヤリス、そしてダイハツタントなどがあったと云う。
なお、トヨタ系のメカニカルキー解錠不可能車は、ジャッキアップして12V電源をジャンプさせる場所がないかと試行したが、何れもHVであり、スターターやオルタネーターがなく、12Vジャンピングは不可能であったとのことだ。ただし、HVでない、タントの場合は、ジャッキアップしたところ、オルタネーターB端子が比較的接続可能な位置にあり、ここにジャンピングすることで、リモートキーでの解錠が可能であり、解錠してドアを開き、バッテリージャンプしてエンジン始動までが可能であったという。プリウスなどHV車ではどうしようもなく、リヤタイヤをドリーで上げつつ、レッキングで扱いディーラーへ搬送したと云うが、ディーラーでもどうしようかと困惑していたとのことだ。
1.本調査の流れと構成
まずは、本問題について、修理書やNet情報を確認したが、あまり有益な情報はなく、またメーカー修理書も見たが、まったく参考になる掲載はなかった。
そこで、まずは実物の確認を行ってみようという思いから、ヤフオクにてプリウス50の右フロントドアのロック機構と、それに連結するアウトサイドハンドル(ここにメカニカルキーシリンダーが付く)を入手した。
この入手できた、ロッキング機構を利用し、通常使用においては、バッテリーの給電に関係なく、メカニカルキーで解錠もしくは施錠とも問題なくできることを確認したのだった。
ただし、この内部にはモーターでのロックもしくはアンロック機構があり、その動作により異常が生じる可能性もあり得ることより、主にロッキングメカニズムを全分解しつつ、その内部のリンク機構の動作などを、様々な状態を想定して、メカニカルキーでのアンロックが可能かを試行しつつ確認してみた。
この調査研究により入手できた各情報は以下に細述するが、ここで結論を記すと、『このロッキングメカニズムは大きな欠陥を内在しており、メカニカルキーでの解錠ができない場合があり得る』という結論を得たことを明記しておきたい。
・・・ 途中は省略 ・・・
5.ドアロック・アンロック用モーターとカム機構
ここが本件のメカキーで解錠できない核心の部分となる。
補足
ウォームとカムギヤーの組み合わせは、ウォーム進み角40°程度であり、カムギヤからウォーム側への逆伝達も可能だが、その抵抗は大きい。それとカムの頂点から30°程度の角度範囲では、レバーのアンロック側への動きが規制されてしまう。
6.ドアロックメカニズム内のスイッチ
スイッチは2種類があり、SW1はメカニカルキーをアンロック(左廻し)、ロック(右廻し)した場合にのみONになる。その中間は、かなりの遊びがあるが、同SWはOFFとなっている。このスイッチは、長廻しによる、パワーウインドなどの開閉に利用されるもので、通常のインサイドロックレバーや電気的なロック、アンロック動作には関係しない。
SW2は1回路ノーマルOFFのマイクロSWだが、アンロックポジションでONとなる。ただし、かなりSWの動作としては余裕があり、ロックから完全にアンロック位置になる前にONになる様だ。このことは、逆にアンロックから完全にロック位置になる前にOFFになる。
7.まとめ(結論)
先の参照図(Fig12)で表した様に、この車両のロック・アンロックは、1モーターでその正逆回転を利用し、カムギヤに設置されたカムは3つの山を持つが、カム形状は緩やかな曲面の反対面は垂直な形状とされている。このカムの位相は、上面と下面で真逆に設定され、それぞれのカム面にレバーアームが接触する仕組みとなっており、アームを上下に回転させて動かす。
ただし、カムギヤ1周で3ヶのカムだから120°単位で、垂直なカム面に突き当たり、それ以上回転しない機構となっている。
これは概算値だから狂いがあるかもしれぬが、カムギヤの歯数は1周33歯で、ウォームギヤの歯ピッチは約3mmだ。従って、120°カムギヤを回転させるには、ウォーム(モーター軸)を約4回転させればよいということになる。
このモーターの起動もしくは停止を、最初はSW2のポジションSWで行っていると考えていたのだが、スイッチのON・OFF動作を検証しつつ、カム位置を比較すると、とてもこの機構では精度高い動作はできないということが判る。
パワーウインドの挟み込み検出みたいに電流検出でやっているのかとも思考したが、起動時のトルクも大きく(つまり電流値もピーク値がある)、そこからある程度短時間で拘束電流値として高まるのだが、そもそもこの小さいモーターで電流検出するというのもムリがありそうに思える。となると、想定だが500msとか一定時間のON信号での制御を行っているのではないだろうか。それと、アバウトながらポジションSWでの最終確認というアルゴリズムだ。
この方式で、カムの垂直面に突き当たり拘束される状態であれば良いのだが、リンク作動が重い、モーターやギヤの動きが重く規定時間でカム面に突き当たる前の中間状態(図Fig11)になり停止しているロック状態では、図Fig12の状態で、メカニカルキーではアンロックできない状態が再現されるのだ。
なお、この様な中途半端な停止位置になる理由で、各部の動作が重くなっていることを記したが、そもそもバッテリー電圧が低下している場合も想定されるところだ。
なお、このドアロックメカニズムの製造サプライヤは何処かとケースを見廻すと、この向かい合わせの半三日月がクロスした様なロゴマークが薄く金型に入れられていることが判った。今はインターネットで、画像で検索できる機能があるのだが、この薄っすらロゴを、別途の図形ソフトで簡易になぞり、明確にさせて検索すると、果たして以下のサプライヤだと判ったのだった。
https://www.act.mitsui-kinzoku.co.jp/
【従前記事】
レッカー業の方におたずね(バッテリー完全放電でメカニカルキーでもロック解除できないクルマのこと)
2021-12-16 | 車両修理関連
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/47903d9ae861f71b427aad8ebb6cd766
#プリウス50のメカニカルキーには重大問題あり