鹿児島県警を「訴える」 強制捜査されたニュースサイト代表が刑事・民事で県警と闘う決意
7/19(金) 16:32配信 AERA dot.
会見で頭を下げる鹿児島県警の野川明輝本部長
「藤井さんの刑事裁判は近く結果が出るでしょう。終われば、私が動く番です」
こう語るのは福岡県を本拠にするニュースサイト「ハンター」を主宰する中願寺純則氏(64)だ。
【写真】公判後、カメラに向かって頭を下げる藤井被告
鹿児島県警の元巡査長、藤井光樹被告(49)の初公判が7月11日に鹿児島地裁で開かれた。藤井被告は、県警が扱った事件の詳細が記載された内部文書「告訴・告発事件処理簿一覧表」を、中願寺氏に漏らしたとして地方公務員法違反(守秘義務違反)の罪に問われている。
藤井被告は公判で起訴内容を認め、警察情報を漏らした動機については、
「被害者の女性を不憫に思いました」
と語った。
ハンターは、2022年から鹿児島県で起こった強制性交事件について報じていた。鹿児島県警が被害女性の告訴状の受理をいったんは拒み、その後、被疑男性の父親が勤務する警察署で受理するなど、不可解な捜査を追及する記事だった。
裁判で、藤井被告は、この事件について中願寺氏から話を聞き、
「県警の捜査がおかしいという中願寺さんの主張に共感し、自分でも調べなければと思った。実際、捜査はおかしいと感じた。私より捜査に詳しい同僚もおかしいと言っていた」
と述べた。
犯行動機の一つに、警察組織への不信があったと言い、
「警察は不偏不党、公平でなければならない。警察の軸をずらしたもの。捜査機関としてあるまじき対応で、実情が明らかになり、組織体制が改善されることを期待した」
と訴えた。
また、藤井被告は自身が勤務していた県警志布志署でも、
「不十分な証拠管理で事件捜査をしていた」
とも暴露した。
ただし、自身の情報漏洩については「警察への信用失墜を招いた」と反省を述べ、
「今後は中願寺さんとは会いません」
と語った。
だが、藤井被告は法廷が終わってメディアに囲まれると、
「中願寺さんには申し訳ない」
と述べている。
■冒頭陳述の内容は「違っている」
法廷の内容を伝え聞いた中願寺氏は、
「藤井氏にも事情があるのだろう。古巣、鹿児島県警の顔を立てつつ、警察内部の真実、実情も知らせなきゃいけないという法廷だったような気がする。まじめで正義感の強い、藤井さんらしいなと感じる」
と話した。
そして、こう疑問を呈した。
「鹿児島県警と検察は、藤井さんが私に提供したという告訴・告発事件処理簿一覧表の現物を確認すらせずに立件している。藤井さんが私に送った中身が本当に告訴・告発事件処理簿一覧表だったのか、送付人として藤井さんの名前があったのか、まったく判明していないはずだ。よくこれで事件化したなと思います」
検察の冒頭陳述によると、藤井被告は中願寺氏に、告訴・告発事件処理簿一覧表を、
「2023年9月20日から10月20日頃までの間に、鹿児島市内の病院の敷地内で手渡した」
ということになっている。
しかし、中願寺氏は「客観的な証拠」があるとして、
「情報源の秘匿があるので詳しくは言えませんが、9月初め頃、すでに告訴・告発事件処理簿一覧表は私の手元にあった。場所についても、その時期、病院なんて行ったことがない」
とも語った。
藤井被告が逮捕されたのは4月8日。県警は同日、中願寺氏の自宅兼事務所を家宅捜索し、中願寺氏が使っていた携帯電話やパソコンを強制的に押収した。
■「令状を読む前に携帯電話を奪われた」
中願寺氏は言う。
「捜査状況から、そろそろガサ(家宅捜索)に来るんじゃないかと思っていたら、4月8日朝にインターホンが鳴った。『中願寺さん、鹿児島県警です』というのでドアを開けると、2人の刑事らしき男が見えた。『捜索差押の令状が出ている』というので見せろと言いました。刑事はそれを私の顔のところまで突き出した。私はメガネをかけており、視力はよくない。手に取って読ませるようにと令状に触れようとしたとき、『これだ』と私の右手をはたいて、持っていた携帯電話を奪い取りました」
中願寺氏は憤って続ける。
「きちんと令状も示しておらず、私も嫌疑の内容すら理解できていない。それに携帯電話を隠そうともしていないのに、暴力で差し押さえるというのは明らかに違法捜査だ。しばらく手の痛みも続いたが、その後連日続いた取り調べで、病院に行けなかった」
その後、県警は中願寺氏の取り調べを始めた。これまでAERA dot.で報じてきたように、心臓疾患の持病がある中願寺氏は、福岡県警福岡南署での取り調べ中に発作を起こして、床に昏倒したこともあった。だが、県警は救護措置もせず、その後も取り調べを続けた。
冒頭のように中願寺氏は藤井被告の訴訟がひと段落した後、携帯電話を強引に取り上げられたこと、心臓疾患にもかかわらず取り調べを強要されたことなどについて、県警の「違法捜査」として刑事と民事の両面で訴えをしていく考えだという。
■前生活安全部長は裁判で争う方針
一方、県警は「ハンター」から押収したパソコンにあったデータなどをもとに、警察情報を札幌市内のジャーナリスト、小笠原淳氏に郵送して漏らしたとして、県警の前生活安全部長、本田尚志被告(60)を国家公務員法違反容疑で5月に逮捕した。本田被告は、同法違反で起訴された。
ジャーナリストに内部告発をした情報を、メディアへの強制捜査で押収したデータから見つけ、それをもとに告発者を逮捕するというのは前代未聞だろう。
本田被告は鹿児島簡裁での勾留理由開示手続きで、
「県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかった」
と動機を述べ、今後の裁判も「公益通報だ」として争う構えを見せている。
中願寺氏は本田被告の事件について、
「メディアに強制捜査をかけて、証拠のデータを押収して立件する。こんなことは許されない。私が予定している刑事や民事の訴えでもその点を、追及したい」
と話す。
■県警についての新たな「内部告発」も
ハンターでは7月16日から、鹿児島県警についての新たな「内部告発」だとして、警察官のストーカー事件の報道を始めている。中願寺氏が言う。
「このストーカー事件は、藤井さんでも本田さんでもない人物からの内部告発であることがはっきりしている。寄せられた内部文書には野川本部長の決裁印まで押されていた。鹿児島県警は藤井さん、本田さんを逮捕して幕引きをはかったが、そうはならなかった。県警はどこまで腐っているのか」 (AERA dot.編集部・今西憲之)今西憲之
#鹿児島県警を「訴える」
7/19(金) 16:32配信 AERA dot.
会見で頭を下げる鹿児島県警の野川明輝本部長
「藤井さんの刑事裁判は近く結果が出るでしょう。終われば、私が動く番です」
こう語るのは福岡県を本拠にするニュースサイト「ハンター」を主宰する中願寺純則氏(64)だ。
【写真】公判後、カメラに向かって頭を下げる藤井被告
鹿児島県警の元巡査長、藤井光樹被告(49)の初公判が7月11日に鹿児島地裁で開かれた。藤井被告は、県警が扱った事件の詳細が記載された内部文書「告訴・告発事件処理簿一覧表」を、中願寺氏に漏らしたとして地方公務員法違反(守秘義務違反)の罪に問われている。
藤井被告は公判で起訴内容を認め、警察情報を漏らした動機については、
「被害者の女性を不憫に思いました」
と語った。
ハンターは、2022年から鹿児島県で起こった強制性交事件について報じていた。鹿児島県警が被害女性の告訴状の受理をいったんは拒み、その後、被疑男性の父親が勤務する警察署で受理するなど、不可解な捜査を追及する記事だった。
裁判で、藤井被告は、この事件について中願寺氏から話を聞き、
「県警の捜査がおかしいという中願寺さんの主張に共感し、自分でも調べなければと思った。実際、捜査はおかしいと感じた。私より捜査に詳しい同僚もおかしいと言っていた」
と述べた。
犯行動機の一つに、警察組織への不信があったと言い、
「警察は不偏不党、公平でなければならない。警察の軸をずらしたもの。捜査機関としてあるまじき対応で、実情が明らかになり、組織体制が改善されることを期待した」
と訴えた。
また、藤井被告は自身が勤務していた県警志布志署でも、
「不十分な証拠管理で事件捜査をしていた」
とも暴露した。
ただし、自身の情報漏洩については「警察への信用失墜を招いた」と反省を述べ、
「今後は中願寺さんとは会いません」
と語った。
だが、藤井被告は法廷が終わってメディアに囲まれると、
「中願寺さんには申し訳ない」
と述べている。
■冒頭陳述の内容は「違っている」
法廷の内容を伝え聞いた中願寺氏は、
「藤井氏にも事情があるのだろう。古巣、鹿児島県警の顔を立てつつ、警察内部の真実、実情も知らせなきゃいけないという法廷だったような気がする。まじめで正義感の強い、藤井さんらしいなと感じる」
と話した。
そして、こう疑問を呈した。
「鹿児島県警と検察は、藤井さんが私に提供したという告訴・告発事件処理簿一覧表の現物を確認すらせずに立件している。藤井さんが私に送った中身が本当に告訴・告発事件処理簿一覧表だったのか、送付人として藤井さんの名前があったのか、まったく判明していないはずだ。よくこれで事件化したなと思います」
検察の冒頭陳述によると、藤井被告は中願寺氏に、告訴・告発事件処理簿一覧表を、
「2023年9月20日から10月20日頃までの間に、鹿児島市内の病院の敷地内で手渡した」
ということになっている。
しかし、中願寺氏は「客観的な証拠」があるとして、
「情報源の秘匿があるので詳しくは言えませんが、9月初め頃、すでに告訴・告発事件処理簿一覧表は私の手元にあった。場所についても、その時期、病院なんて行ったことがない」
とも語った。
藤井被告が逮捕されたのは4月8日。県警は同日、中願寺氏の自宅兼事務所を家宅捜索し、中願寺氏が使っていた携帯電話やパソコンを強制的に押収した。
■「令状を読む前に携帯電話を奪われた」
中願寺氏は言う。
「捜査状況から、そろそろガサ(家宅捜索)に来るんじゃないかと思っていたら、4月8日朝にインターホンが鳴った。『中願寺さん、鹿児島県警です』というのでドアを開けると、2人の刑事らしき男が見えた。『捜索差押の令状が出ている』というので見せろと言いました。刑事はそれを私の顔のところまで突き出した。私はメガネをかけており、視力はよくない。手に取って読ませるようにと令状に触れようとしたとき、『これだ』と私の右手をはたいて、持っていた携帯電話を奪い取りました」
中願寺氏は憤って続ける。
「きちんと令状も示しておらず、私も嫌疑の内容すら理解できていない。それに携帯電話を隠そうともしていないのに、暴力で差し押さえるというのは明らかに違法捜査だ。しばらく手の痛みも続いたが、その後連日続いた取り調べで、病院に行けなかった」
その後、県警は中願寺氏の取り調べを始めた。これまでAERA dot.で報じてきたように、心臓疾患の持病がある中願寺氏は、福岡県警福岡南署での取り調べ中に発作を起こして、床に昏倒したこともあった。だが、県警は救護措置もせず、その後も取り調べを続けた。
冒頭のように中願寺氏は藤井被告の訴訟がひと段落した後、携帯電話を強引に取り上げられたこと、心臓疾患にもかかわらず取り調べを強要されたことなどについて、県警の「違法捜査」として刑事と民事の両面で訴えをしていく考えだという。
■前生活安全部長は裁判で争う方針
一方、県警は「ハンター」から押収したパソコンにあったデータなどをもとに、警察情報を札幌市内のジャーナリスト、小笠原淳氏に郵送して漏らしたとして、県警の前生活安全部長、本田尚志被告(60)を国家公務員法違反容疑で5月に逮捕した。本田被告は、同法違反で起訴された。
ジャーナリストに内部告発をした情報を、メディアへの強制捜査で押収したデータから見つけ、それをもとに告発者を逮捕するというのは前代未聞だろう。
本田被告は鹿児島簡裁での勾留理由開示手続きで、
「県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかった」
と動機を述べ、今後の裁判も「公益通報だ」として争う構えを見せている。
中願寺氏は本田被告の事件について、
「メディアに強制捜査をかけて、証拠のデータを押収して立件する。こんなことは許されない。私が予定している刑事や民事の訴えでもその点を、追及したい」
と話す。
■県警についての新たな「内部告発」も
ハンターでは7月16日から、鹿児島県警についての新たな「内部告発」だとして、警察官のストーカー事件の報道を始めている。中願寺氏が言う。
「このストーカー事件は、藤井さんでも本田さんでもない人物からの内部告発であることがはっきりしている。寄せられた内部文書には野川本部長の決裁印まで押されていた。鹿児島県警は藤井さん、本田さんを逮捕して幕引きをはかったが、そうはならなかった。県警はどこまで腐っているのか」 (AERA dot.編集部・今西憲之)今西憲之
#鹿児島県警を「訴える」