交渉事案の思い出その7・フェラーリ2
今回もフェラーリ360モデナの修理費協定案件です。若干長文となるが、興味を感じる方のみ見て欲しい。
損傷状態は、損傷写真を見てもらいたいが、結構酷い状態であるのが判ってもらえるだろう。ちなみに、このモデナ(現行のF430も同様)は、オールアルミボデー構造(米アルコア社製)らしいが、それに関わらずだが、この手のスポーツカーは衝突事故に対しては華奢なボデー構造であることが極普通のことだろう。添付ファイル(1)
さて、車両保険の付保額(アマントと呼ぶ)は1,640万円だが、入庫工場からの提示見積は1,500万円に近いという案件だ。そして、その修理費の協定作業を進めつつ仮協定するに至るのだが、その直後に驚愕の報告がなされ終幕を迎えたのだった。
1.工場見積の提示
総額1,480万円余ともなる工場見積の提示を受けた。工場見積は総ページ11ページにおよぶ手書き見積であるが、表紙ページのみを紹介する。 添付ファイル(2)
この内訳は、取替部品費が940万円であり、そして工賃が560万円というものだ。この工場見積書を見ていくと、各項目において直感的にも過剰ではないかと感じられる意見を持つ方も多いだろう。しかし、相手方と折衝して行くに際し、直感として割高である等という曖昧な理由では強い交渉は出来ない。見積の何処がどの様に割高なのかを論理的に整理して攻めて掛からなければ行けないだろうと思っている。
2.質問書の提示
先に述べた通り当方で過剰と判断する全項目について38項目として整理し、相手方への質問書として提示したのである。 添付ファイル(3)
なお、何時も述べていることだが、この様な質問書を出すことについて、相手方から「そんな質問には答えられない」等とした反発を恐れる必要は、まったくないということを再度強調しておきたい。鈑金修理という商品を買うのは、今回の場合は保険会社であり、その購入者の疑問に答えるのが販売者の説明責任となることだからなのだ。だから、もしも、拒否する工場があったとしたら、その工場は社会的に不利な立場にならざるを得ないことになるとも思っているところでもあるのだ。
また、この様な質問書を出すと、工場は返事を書く様な時間がないから等と言葉を濁して断ろうとして来るが、その様なとき私は工場に対して次の様に諭しているのだ。「あなたの意見を通したければ私共社内関係部署にその意見を伝える必要があり、そうでなければ修理代を決めることは出来ないのです」等と、質問への回答を促しているのだ。
3.事前買取査定の実施
本件は修理が実施されるかは定かでない様子が伺われる中、過剰とも感じられる工場見積が提示され、最悪の場合は協定不調となる可能性も想定されたのだった。協定不調の最悪の場合は、全損認定として引き上げてしまった方が、事故現状車の売却によりメリットが生じる場合も想定されることから、買取査定を実施して最悪の場合での見込額を把握して見ることとしてみた。
なお、この買取査定は、現車写真および一部のデータのみを示した事前査定として実施したのであるが、この結果300万円までの買取査定価格が得られたのだった。
4.協定交渉
①第1回訪問交渉(所要時間約2h)
質問文書に対して工場側から、口頭で説明したいとの返事を受けた。そこで、工場へ訪問して当方の質問書項目に沿って、工場側の言い分の聴取しつつ協定交渉を開始したのでだった。
工場からの聴取内容からは、工場側もすべての項目で妥当性があるとまでは主張していないことが伺われたのだった。工場側の意見としては、フロントトランク内のECUやリレー関係の部品が過剰な傾向があることは一定認めているのだ。しかし、例え一つのECUでさえ、十数万ともなる高額部品もあり、工場側の抱えるリスクも一定理解されるところではある。そんな交渉を進めた結果、部品費用については100万円の減額が可能なことが伺われたのだった。
次に工賃関係について聴取を進めるが、この工場主のフェラーリ車に関わる思い入れの深さを強く感じる意見の数々を聞くことになった。そして、工場側も譲歩の姿勢は示すものの、なかなか当方が満足をするような解答は得られないのだった。工場の思いとしては100万円程度の減額までしか減額を容認しないとのことが伝わってくるのであった。
②第2回訪問交渉(所要時間3h)
前回の訪問から、2週間程度を経て、第2回目の訪問交渉を実施しました。先に述べた通り、修理見積ベースとしては総額200万円程度の減額であれば協定は出来そうな様子が伺える。しかし、これでは当方意見として思う過剰感はとても払拭はできないものなのだ。
一方、工場との話の中で修理作業の実施は甚だ不透明であり、たぶん修理は行われない公算が大きいことが伝わって来た。以上のことから、現状買取額の話に誘導しつつ、300万円相当での買い取りが可能であり、場合によっては工場自体が買い取ってはどうかと打診したのであった。この結果、工場側として値段さえ合えば買い取っても良いとの返事も受けたのだった。そこで、修理協定額として1,200万円でどうかを打診したのである。この結果、工場側の返事として一定了解を得たのであるが、元請け工場の了解を取り付けたいというものであったのだった。
5.驚愕の終幕
先の仮協定がほぼ完了したのも束の間、以下の驚愕の報告がなされ、本件の終幕を迎える結果となったのだった。
本件協定交渉と平行して、社外調査機関による現場および状況等の調査が実施されていた。この調査内容から、本件事故の運転者が事故報告で申告された契約者の会社同僚ではなく、契約者本人であること。そして、契約者は飲酒によりその発覚を避けるために虚偽申告を行っていたことが発覚したのであった。
6.後記・雑感
①工場のこと
本件の入庫工場は、総員10名程度の町の板金工場さんであるが、ことフェラーリ車に関しての実績は大したものであると感じられます。入庫中のフェラーリ車を概観しても、現行モデルである360モデナや575Mマラネロ、そして旧モデルではF355、テスタロッサ、F40、そしてF50までも入庫しているという凄さなのです。当方など、F50等は初めて間近で見て感激してしまった次第なのです。
それはさておき、工場経営者(御年56才)のことであるが、確かに我々業務としての見積評価に関しては必ずしも意見は一致しないのだが、この方のフェラーリ車に対する職人としての情熱には、大変魅力を感じられる方であった。
工場は創業後約30年を迎えるとのことで、26才で独立して以来、フェラーリ車が好きで当時東京で著名であったW塗装(本ブログで力道山ロールスで記した工場)のという工場を目指して運営してきたことや、ディーラーであるC社との付き合いの興廃等々の興味ある話の数々を聞いてきた。そして、そのことは、現状で伺える入庫車のほとんどをフェラーリ車で占めるような工場は、並たいていの努力からでは成らぬことであろうことをからも確かさが感じられることなのであった。
この様な実績を積み上げて来た経営者には、ことフェラーリ車に関しては、相当のノウハウを持っているのは確かなことなのだと感じられる。その様な道のスペシャリストの意見は、他の類似車の交渉にとって、極めて大きな力になるものと感じらる。というころで、フェラーリのことでは、現在でも話しをお聞きできる付き合いを続けている。
②本仮協定方法について
本件における協定手法としては多少変則的な方法となったが、これも場合によりけりで止むないものであったと考えている。
しかし、だからといっていきなり事故現車を引き上げる等と強行に進めることは、厳に慎まなければならないのは当然のことだろう。本件も、契約者そして入庫工場の立場や思いを大事にしつつ、推移を促したのは当然のことなのだ。
③質問文書の提示について
当方は、今まで自己の判断と大きな乖離のある事案には、この様な質問文書を数多く提示し続けて来た。この中で、工場側の反応は「この様な文書の提示を受けたことは初めて」と聞くことがほとんどなのだ。これは、当方に取っては誠に嬉しい反応だと思っているところでもある。すなわち、それなりのインパクトを与えられたと思うからなのだ。
今回もフェラーリ360モデナの修理費協定案件です。若干長文となるが、興味を感じる方のみ見て欲しい。
損傷状態は、損傷写真を見てもらいたいが、結構酷い状態であるのが判ってもらえるだろう。ちなみに、このモデナ(現行のF430も同様)は、オールアルミボデー構造(米アルコア社製)らしいが、それに関わらずだが、この手のスポーツカーは衝突事故に対しては華奢なボデー構造であることが極普通のことだろう。添付ファイル(1)
さて、車両保険の付保額(アマントと呼ぶ)は1,640万円だが、入庫工場からの提示見積は1,500万円に近いという案件だ。そして、その修理費の協定作業を進めつつ仮協定するに至るのだが、その直後に驚愕の報告がなされ終幕を迎えたのだった。
1.工場見積の提示
総額1,480万円余ともなる工場見積の提示を受けた。工場見積は総ページ11ページにおよぶ手書き見積であるが、表紙ページのみを紹介する。 添付ファイル(2)
この内訳は、取替部品費が940万円であり、そして工賃が560万円というものだ。この工場見積書を見ていくと、各項目において直感的にも過剰ではないかと感じられる意見を持つ方も多いだろう。しかし、相手方と折衝して行くに際し、直感として割高である等という曖昧な理由では強い交渉は出来ない。見積の何処がどの様に割高なのかを論理的に整理して攻めて掛からなければ行けないだろうと思っている。
2.質問書の提示
先に述べた通り当方で過剰と判断する全項目について38項目として整理し、相手方への質問書として提示したのである。 添付ファイル(3)
なお、何時も述べていることだが、この様な質問書を出すことについて、相手方から「そんな質問には答えられない」等とした反発を恐れる必要は、まったくないということを再度強調しておきたい。鈑金修理という商品を買うのは、今回の場合は保険会社であり、その購入者の疑問に答えるのが販売者の説明責任となることだからなのだ。だから、もしも、拒否する工場があったとしたら、その工場は社会的に不利な立場にならざるを得ないことになるとも思っているところでもあるのだ。
また、この様な質問書を出すと、工場は返事を書く様な時間がないから等と言葉を濁して断ろうとして来るが、その様なとき私は工場に対して次の様に諭しているのだ。「あなたの意見を通したければ私共社内関係部署にその意見を伝える必要があり、そうでなければ修理代を決めることは出来ないのです」等と、質問への回答を促しているのだ。
3.事前買取査定の実施
本件は修理が実施されるかは定かでない様子が伺われる中、過剰とも感じられる工場見積が提示され、最悪の場合は協定不調となる可能性も想定されたのだった。協定不調の最悪の場合は、全損認定として引き上げてしまった方が、事故現状車の売却によりメリットが生じる場合も想定されることから、買取査定を実施して最悪の場合での見込額を把握して見ることとしてみた。
なお、この買取査定は、現車写真および一部のデータのみを示した事前査定として実施したのであるが、この結果300万円までの買取査定価格が得られたのだった。
4.協定交渉
①第1回訪問交渉(所要時間約2h)
質問文書に対して工場側から、口頭で説明したいとの返事を受けた。そこで、工場へ訪問して当方の質問書項目に沿って、工場側の言い分の聴取しつつ協定交渉を開始したのでだった。
工場からの聴取内容からは、工場側もすべての項目で妥当性があるとまでは主張していないことが伺われたのだった。工場側の意見としては、フロントトランク内のECUやリレー関係の部品が過剰な傾向があることは一定認めているのだ。しかし、例え一つのECUでさえ、十数万ともなる高額部品もあり、工場側の抱えるリスクも一定理解されるところではある。そんな交渉を進めた結果、部品費用については100万円の減額が可能なことが伺われたのだった。
次に工賃関係について聴取を進めるが、この工場主のフェラーリ車に関わる思い入れの深さを強く感じる意見の数々を聞くことになった。そして、工場側も譲歩の姿勢は示すものの、なかなか当方が満足をするような解答は得られないのだった。工場の思いとしては100万円程度の減額までしか減額を容認しないとのことが伝わってくるのであった。
②第2回訪問交渉(所要時間3h)
前回の訪問から、2週間程度を経て、第2回目の訪問交渉を実施しました。先に述べた通り、修理見積ベースとしては総額200万円程度の減額であれば協定は出来そうな様子が伺える。しかし、これでは当方意見として思う過剰感はとても払拭はできないものなのだ。
一方、工場との話の中で修理作業の実施は甚だ不透明であり、たぶん修理は行われない公算が大きいことが伝わって来た。以上のことから、現状買取額の話に誘導しつつ、300万円相当での買い取りが可能であり、場合によっては工場自体が買い取ってはどうかと打診したのであった。この結果、工場側として値段さえ合えば買い取っても良いとの返事も受けたのだった。そこで、修理協定額として1,200万円でどうかを打診したのである。この結果、工場側の返事として一定了解を得たのであるが、元請け工場の了解を取り付けたいというものであったのだった。
5.驚愕の終幕
先の仮協定がほぼ完了したのも束の間、以下の驚愕の報告がなされ、本件の終幕を迎える結果となったのだった。
本件協定交渉と平行して、社外調査機関による現場および状況等の調査が実施されていた。この調査内容から、本件事故の運転者が事故報告で申告された契約者の会社同僚ではなく、契約者本人であること。そして、契約者は飲酒によりその発覚を避けるために虚偽申告を行っていたことが発覚したのであった。
6.後記・雑感
①工場のこと
本件の入庫工場は、総員10名程度の町の板金工場さんであるが、ことフェラーリ車に関しての実績は大したものであると感じられます。入庫中のフェラーリ車を概観しても、現行モデルである360モデナや575Mマラネロ、そして旧モデルではF355、テスタロッサ、F40、そしてF50までも入庫しているという凄さなのです。当方など、F50等は初めて間近で見て感激してしまった次第なのです。
それはさておき、工場経営者(御年56才)のことであるが、確かに我々業務としての見積評価に関しては必ずしも意見は一致しないのだが、この方のフェラーリ車に対する職人としての情熱には、大変魅力を感じられる方であった。
工場は創業後約30年を迎えるとのことで、26才で独立して以来、フェラーリ車が好きで当時東京で著名であったW塗装(本ブログで力道山ロールスで記した工場)のという工場を目指して運営してきたことや、ディーラーであるC社との付き合いの興廃等々の興味ある話の数々を聞いてきた。そして、そのことは、現状で伺える入庫車のほとんどをフェラーリ車で占めるような工場は、並たいていの努力からでは成らぬことであろうことをからも確かさが感じられることなのであった。
この様な実績を積み上げて来た経営者には、ことフェラーリ車に関しては、相当のノウハウを持っているのは確かなことなのだと感じられる。その様な道のスペシャリストの意見は、他の類似車の交渉にとって、極めて大きな力になるものと感じらる。というころで、フェラーリのことでは、現在でも話しをお聞きできる付き合いを続けている。
②本仮協定方法について
本件における協定手法としては多少変則的な方法となったが、これも場合によりけりで止むないものであったと考えている。
しかし、だからといっていきなり事故現車を引き上げる等と強行に進めることは、厳に慎まなければならないのは当然のことだろう。本件も、契約者そして入庫工場の立場や思いを大事にしつつ、推移を促したのは当然のことなのだ。
③質問文書の提示について
当方は、今まで自己の判断と大きな乖離のある事案には、この様な質問文書を数多く提示し続けて来た。この中で、工場側の反応は「この様な文書の提示を受けたことは初めて」と聞くことがほとんどなのだ。これは、当方に取っては誠に嬉しい反応だと思っているところでもある。すなわち、それなりのインパクトを与えられたと思うからなのだ。