多くの日本人が気付いていない…世界的トップシェア企業「信越化学」が貫く「日本型経営」8つの「本質」
7/26(金) 6:04配信 現代ビジネス
消費者になじみが薄いが世界的大企業
トヨタ自動車の製品を「見たことが無い」読者はまずいないであろう。自分自身でトヨタ車を運転していなくても、「街中にあふれている」ことは言うまでもない。
【写真】「根回し」の何が悪いのか…日本型経営の「最大の長所」
実は、信越化学工業の製品も「街中にあふれている」のだ。信越化学HP「~きっと、どこかで、出会っています。~」を見れば、一目瞭然だ。自動車、カーナビ、エアコン、スマホ、携帯、パソコン、壁紙、タイヤ、電線、錠剤などほとんどありとあらゆる分野に「信越化学工業の製品」が存在する。
ただし、それらの製品にはトヨタ製の自動車のようなロゴや社名が入っているわけではない。多くの場合、他メーカーの完成品の一部としてひっそりと隠れているから気付かれないのである。
しかし、その目立たない信越化学工業が、時価総額では世界の化学工業メーカーの中で第4位(11兆9769億円、2023年12月末)である。
また、日本経済新聞 7月17日「時価総額上位」によれば、日本企業の時価総額において、第15位の東京海上、第14位の伊藤忠商事を上回る第13位(13兆4253億円)だ。
同1位のトヨタ自動車(51兆6388億円)との差はかなりあるが、信越化学工業が、日本を代表する世界的大企業であることは間違いが無い。
同社のHP「沿革と歴史」に詳しいが、1926年に創業。「『信濃の水』と『越後の石灰石』の 出会い」に起源がある。
そして、現在同社の代表的製品と言えるのが、ディールラボ 3月7日「シリコンウエハ業界の世界市場シェアの分析」【シリコンウエハの世界市場シェア】において、堂々の1位(34.61%)を獲得しているシリコンウエハである。ちなみに2位のSUMCO(27.81%)も日本企業であり、両社だけで世界市場の過半を占めている。
自動車が現代生活に不可欠であるのと同じように、今や半導体は(鉄に代わって)「産業のコメ」とさえ称される存在だ。その半導体製造の「基礎の中の基礎の材料」であるシリコンウエハ市場での独占的地位を信越化学が築いていることに注目すべきだ。
「日本型経営」の雄
それだけではない。「信越化学グループの事業」によれば、塩化ビニル樹脂世界シェアも1位である。
このように、同社が1926年の創業以来、おおよそ100年にわたって発展してきた理由は、トヨタ自動車同様「日本型経営」をベースにしてきたことにあると思う。
トヨタ自動車は「TPS」=「トヨタ生産方式」が有名だが、その基本は4月10日公開「トヨタ生産システムの根源『なぜなぜ分析』はバフェット流にも通じる『外野の意見に耳を傾けるな!』という鉄則」の「なぜなぜ分析」にある。
そして、その「なぜなぜ分析」を生み出したのは、「目先の小さな利益ではなく、長期的に大きな利益を大事にする『日本型経営』」なのである。
例えば、TPS(トヨタ生産)を始めとする具体的施策を、信越化学工業が(そのまま)取り入れているということではない。しかし、「日本型経営の『根幹』」は、両社に共通していると考える。
社長の器・小田切氏
現在のシリコンウエハと塩ビを中心軸にした優良企業に育ったのは、「信越化学工業 中興の祖 小田切新太郎 社長の器」の小田切新太郎氏の貢献が大きいであろう。
同氏は、6月15日公開「なぜ日本企業から『大物経営者』が出なくなったのか…この国をダメにした『4つの原因』」で述べた「小物経営者」とは対極に位置する「大物経営者」であるといえる。
分かりやすく言えば、トップダウンで現場のことまであれこれ細かく口を出すのに結局結果の責任をとらない、欧米型の「プレイングマネージャー」とは真逆であるということだ。
2021年8月17日公開「『何もしない上司』が実は優秀だった…?ドラッカーが説くマネジメントの『鉄則』」、2019年10月20日公開「『責任を取る』こそがドラッカーが指摘する現代組織のリーダーの要件」で述べたように、「現場の自主性を最大限に尊重する」=「部下に任せる」が、最後の責任をとる=「社長の器」ということである。
それでは、このような「社長の器」を備えた「大物社長」を生み出す「日本型経営の本質」とはどのようなものであるのだろうか?
日本型経営の「社長の器」8原則
前記「信越化学工業 中興の祖 小田切新太郎 社長の器」の事例も含めて、「日本型経営の本質」は概ね次の8原則にまとめられると考える。
1. 会社の資産としての人材を大事にする
2. 目先の利益にこだわらず長期的利益を求める
3. 会社の利益と個人の利益が一致するよう努力する
4. 企業を働く人間にとって快適な場所にする
5. 空論より現場を大事にする
6. 公平性を重視する
7. 長期的な人間関係の熟成
8. 人間が「多機能」(細分化していないから、リストラをしなくても配置転換で対応できる。また、顧客にとっても便利)である
1の「会社の資産としての人材を大事にする」は、いま最もないがしろにされている日本型経営の原則の一つだと感じる。
かつて「リストラ」を行う事は「経営者の恥」だとされた。安定した雇用を維持し、社員が「仕事以外のこと」=「次の職探しなど」に煩わされることなく、自らの本来行うべき職務に専念できるようにすることが、経営者の責務=「社長の器」である。
そもそも、リストラをしなければならないほど経営が悪化する責任は、明らかに社長を含む経営陣にある。その「最大の責任者」が、従業員の生活を犠牲にしているにもかかわらず、責任をとらずに居座っているのが、欧米化された多くの日本企業だ。
しかも、「リストラによって利益を得た」として多額のボーナスまでもらう。現在は、国際指名手配犯である、2020年1月12日「『経営者として三流、犯罪者なら一流』のゴーンは日本に何を残したか」、同7月20日公開「『プロ経営者』たちが、日本企業を次々に破壊しているというヤバい現実」で述べたカルロス・ゴーンが典型だ。彼は短期的利益を生む「首切り屋」としては一流であったかもしれないが、長期的展望を見据えて、企業の将来を見据える力は持っていなかったと言える。
目先ではなく将来を見る
2の「目先の利益にこだわらず長期的利益を求める」は、8原則のベースでもある。2021年6月7日公開「さらば『デフレ経済』…これから『伸びる日本企業』『消える日本企業』を全公開!」で述べた、過去のデフレ経済の下では、日ごとに価格が下がるという「資本主義の歴史の中では異常事態」によって、「目先を追いかける」こともある程度要求された。
しかし、資本主義の歴史で常態であるインフレ経済においては、「将来の価格上昇」を見据えて「長期ビジョン」によって行動する企業が勝者になる。
優秀な人材に、充分な時間と費用をかけて教育し「人材の価値を高める」ことも日本型経営の特徴である。ジョブ型(日雇い型)雇用は、市場にいる人材を拾い集めてくるだけで、(企業として)「人材の価値を高める」ことに貢献しない。
3の「会社の利益と個人の利益が一致するよう努力する」は、「性善説」が前提だ。例えば、日本以外の国々の多くでは、「職能(職業)別組合」が一般的であり、労働者と企業の経営陣が鋭角に対立する(相手を信じない)性悪説の組織である。
だが、日本でも戦後は労働争議が頻発したが、長年にわたる相互の信頼構築の努力により、企業別組合が一般的だ。対立する部分が無いわけではないが、自社の発展が双方の利益になるという点では歩み寄れる。
労使が激しく対立している企業と、「自社を発展させる」という点において強調することができる企業のどちらが、ビジネスにおける競争力を持つのかは言うまでもない。
「現場力」がカギ
4の「企業を働く人間にとって快適な場所にする」において、日本企業は手厚い福利厚生を始め「ぬるま湯」ともいえる環境を構築した。従業員がそれに甘えて堕落してしまう恐れはある。
だが、社内で「実力主義」による競争の結果による「足の引っ張り合い」が頻繁に行われ、隣の人間がいつライバル会社に転職するかもわからない環境で働くよりも、精神衛生上好ましいのは明らかだ。
5の「空論より現場を大事にする」については、6月15日公開「『根回し』の何が悪いのか…現場を知らないMBAホルダーがもたらす『悲惨な結果』と、日本型経営の『最大の長所』」、2022年5月17日公開「頭でっかちのエリートが会社を滅ぼす…日本企業をダメにする欧米流経営の大問題」などで述べた通りだ。
これはとくに製造業における日本企業の長所である。
「公平性」を維持する
6の「公平性を重視する」については、現在の米国企業が反面教師だ。日本経済新聞 6月18日「米CEO報酬、従業員の200倍に 格差は『騒乱警戒』水準」などにおいて、イーロン・マスク氏への560億ドル(約8.8兆円)の巨額報酬が株主総会で承認されたことが伝えられた。
建前は「実力主義」、「成果主義」であろうが、それは詭弁にしか過ぎない。「実力」や「成果」を客観的かつ正確に計測するのはほぼ不可能だからだ。マスク氏の約8.8兆円の報酬の根拠も不明である。
どのような企業でも、現場を含む多くの社員の努力によって企業業績が維持されている。特定の人間だけに巨額の報酬を支払うことは極めて「不公平」である。
7の「長期的な人間関係の熟成」においても、「公平な報酬」は大事である。経営幹部だけが巨額の報酬を手に入れ、一般従業員が安月給でこき使われていれば、社内における「長期的な人間関係の熟成」など到底できない。
また、企業経営において、報酬ばかりに着目していると「金で動く人間」しか集まってこない。「金銭的利益を越えた人間としてのつながりを持たない」組織は極めて脆いのだ。
8の「人間が『多機能』である」ことも、日本型経営の特徴だ。配置転換によってリストラを避けることができる。また、人間の能力を「狭い専門分野」に閉じ込める事が無いから、社員の潜在能力を発掘しやすい。
加えて、総合商社や総合リースを始めとする日本のお家芸の「総合化」も、人材が「多機能」だからこそ上手く機能する。人材が専門分野に特化してタコつぼ化している欧米企業で、真似しようとしても、同じ企業内での「有機的結合」が難しいのだ。
その点において、「米国的ではない米国企業」である、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、7月13日公開「五大商社『株式まとめ買い』のバフェットがいよいよ伊藤忠と協業開始…その対象となった、意外すぎる『衰退産業』」のように、総合商社の「シナジー」を学ぶ姿勢を見せたことは注目に値する。
「日本型経営」がこれからの日本を牽引
これまで述べてきた、トヨタ自動車や信越化学工業だけではない。総合商社、総合リースを始めとする「日本型経営」の先進企業が、これからの日本経済を牽引していくであろう。
これからは、「大原浩の逆説チャンネル<第1回・特別版>大乱の八つのテーマと対処法」で述べた、「大乱」がますます激化するであろうが、そのような波乱の時代にこそ、「人間同士の信頼関係」をベースにした「日本型経営」が実力を発揮するのである。
なお、実際の投資に当たっては、「大原浩の逆説チャンネル<第15回>バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわから無い人がほとんどだ。(バフェット流の真髄その1)」などを参照の上、自己責任で行っていただきたい。大原 浩(国際投資アナリスト・人間経済科学研究所・執行パートナー)
#世界的トップシェア企業「信越化学」
7/26(金) 6:04配信 現代ビジネス
消費者になじみが薄いが世界的大企業
トヨタ自動車の製品を「見たことが無い」読者はまずいないであろう。自分自身でトヨタ車を運転していなくても、「街中にあふれている」ことは言うまでもない。
【写真】「根回し」の何が悪いのか…日本型経営の「最大の長所」
実は、信越化学工業の製品も「街中にあふれている」のだ。信越化学HP「~きっと、どこかで、出会っています。~」を見れば、一目瞭然だ。自動車、カーナビ、エアコン、スマホ、携帯、パソコン、壁紙、タイヤ、電線、錠剤などほとんどありとあらゆる分野に「信越化学工業の製品」が存在する。
ただし、それらの製品にはトヨタ製の自動車のようなロゴや社名が入っているわけではない。多くの場合、他メーカーの完成品の一部としてひっそりと隠れているから気付かれないのである。
しかし、その目立たない信越化学工業が、時価総額では世界の化学工業メーカーの中で第4位(11兆9769億円、2023年12月末)である。
また、日本経済新聞 7月17日「時価総額上位」によれば、日本企業の時価総額において、第15位の東京海上、第14位の伊藤忠商事を上回る第13位(13兆4253億円)だ。
同1位のトヨタ自動車(51兆6388億円)との差はかなりあるが、信越化学工業が、日本を代表する世界的大企業であることは間違いが無い。
同社のHP「沿革と歴史」に詳しいが、1926年に創業。「『信濃の水』と『越後の石灰石』の 出会い」に起源がある。
そして、現在同社の代表的製品と言えるのが、ディールラボ 3月7日「シリコンウエハ業界の世界市場シェアの分析」【シリコンウエハの世界市場シェア】において、堂々の1位(34.61%)を獲得しているシリコンウエハである。ちなみに2位のSUMCO(27.81%)も日本企業であり、両社だけで世界市場の過半を占めている。
自動車が現代生活に不可欠であるのと同じように、今や半導体は(鉄に代わって)「産業のコメ」とさえ称される存在だ。その半導体製造の「基礎の中の基礎の材料」であるシリコンウエハ市場での独占的地位を信越化学が築いていることに注目すべきだ。
「日本型経営」の雄
それだけではない。「信越化学グループの事業」によれば、塩化ビニル樹脂世界シェアも1位である。
このように、同社が1926年の創業以来、おおよそ100年にわたって発展してきた理由は、トヨタ自動車同様「日本型経営」をベースにしてきたことにあると思う。
トヨタ自動車は「TPS」=「トヨタ生産方式」が有名だが、その基本は4月10日公開「トヨタ生産システムの根源『なぜなぜ分析』はバフェット流にも通じる『外野の意見に耳を傾けるな!』という鉄則」の「なぜなぜ分析」にある。
そして、その「なぜなぜ分析」を生み出したのは、「目先の小さな利益ではなく、長期的に大きな利益を大事にする『日本型経営』」なのである。
例えば、TPS(トヨタ生産)を始めとする具体的施策を、信越化学工業が(そのまま)取り入れているということではない。しかし、「日本型経営の『根幹』」は、両社に共通していると考える。
社長の器・小田切氏
現在のシリコンウエハと塩ビを中心軸にした優良企業に育ったのは、「信越化学工業 中興の祖 小田切新太郎 社長の器」の小田切新太郎氏の貢献が大きいであろう。
同氏は、6月15日公開「なぜ日本企業から『大物経営者』が出なくなったのか…この国をダメにした『4つの原因』」で述べた「小物経営者」とは対極に位置する「大物経営者」であるといえる。
分かりやすく言えば、トップダウンで現場のことまであれこれ細かく口を出すのに結局結果の責任をとらない、欧米型の「プレイングマネージャー」とは真逆であるということだ。
2021年8月17日公開「『何もしない上司』が実は優秀だった…?ドラッカーが説くマネジメントの『鉄則』」、2019年10月20日公開「『責任を取る』こそがドラッカーが指摘する現代組織のリーダーの要件」で述べたように、「現場の自主性を最大限に尊重する」=「部下に任せる」が、最後の責任をとる=「社長の器」ということである。
それでは、このような「社長の器」を備えた「大物社長」を生み出す「日本型経営の本質」とはどのようなものであるのだろうか?
日本型経営の「社長の器」8原則
前記「信越化学工業 中興の祖 小田切新太郎 社長の器」の事例も含めて、「日本型経営の本質」は概ね次の8原則にまとめられると考える。
1. 会社の資産としての人材を大事にする
2. 目先の利益にこだわらず長期的利益を求める
3. 会社の利益と個人の利益が一致するよう努力する
4. 企業を働く人間にとって快適な場所にする
5. 空論より現場を大事にする
6. 公平性を重視する
7. 長期的な人間関係の熟成
8. 人間が「多機能」(細分化していないから、リストラをしなくても配置転換で対応できる。また、顧客にとっても便利)である
1の「会社の資産としての人材を大事にする」は、いま最もないがしろにされている日本型経営の原則の一つだと感じる。
かつて「リストラ」を行う事は「経営者の恥」だとされた。安定した雇用を維持し、社員が「仕事以外のこと」=「次の職探しなど」に煩わされることなく、自らの本来行うべき職務に専念できるようにすることが、経営者の責務=「社長の器」である。
そもそも、リストラをしなければならないほど経営が悪化する責任は、明らかに社長を含む経営陣にある。その「最大の責任者」が、従業員の生活を犠牲にしているにもかかわらず、責任をとらずに居座っているのが、欧米化された多くの日本企業だ。
しかも、「リストラによって利益を得た」として多額のボーナスまでもらう。現在は、国際指名手配犯である、2020年1月12日「『経営者として三流、犯罪者なら一流』のゴーンは日本に何を残したか」、同7月20日公開「『プロ経営者』たちが、日本企業を次々に破壊しているというヤバい現実」で述べたカルロス・ゴーンが典型だ。彼は短期的利益を生む「首切り屋」としては一流であったかもしれないが、長期的展望を見据えて、企業の将来を見据える力は持っていなかったと言える。
目先ではなく将来を見る
2の「目先の利益にこだわらず長期的利益を求める」は、8原則のベースでもある。2021年6月7日公開「さらば『デフレ経済』…これから『伸びる日本企業』『消える日本企業』を全公開!」で述べた、過去のデフレ経済の下では、日ごとに価格が下がるという「資本主義の歴史の中では異常事態」によって、「目先を追いかける」こともある程度要求された。
しかし、資本主義の歴史で常態であるインフレ経済においては、「将来の価格上昇」を見据えて「長期ビジョン」によって行動する企業が勝者になる。
優秀な人材に、充分な時間と費用をかけて教育し「人材の価値を高める」ことも日本型経営の特徴である。ジョブ型(日雇い型)雇用は、市場にいる人材を拾い集めてくるだけで、(企業として)「人材の価値を高める」ことに貢献しない。
3の「会社の利益と個人の利益が一致するよう努力する」は、「性善説」が前提だ。例えば、日本以外の国々の多くでは、「職能(職業)別組合」が一般的であり、労働者と企業の経営陣が鋭角に対立する(相手を信じない)性悪説の組織である。
だが、日本でも戦後は労働争議が頻発したが、長年にわたる相互の信頼構築の努力により、企業別組合が一般的だ。対立する部分が無いわけではないが、自社の発展が双方の利益になるという点では歩み寄れる。
労使が激しく対立している企業と、「自社を発展させる」という点において強調することができる企業のどちらが、ビジネスにおける競争力を持つのかは言うまでもない。
「現場力」がカギ
4の「企業を働く人間にとって快適な場所にする」において、日本企業は手厚い福利厚生を始め「ぬるま湯」ともいえる環境を構築した。従業員がそれに甘えて堕落してしまう恐れはある。
だが、社内で「実力主義」による競争の結果による「足の引っ張り合い」が頻繁に行われ、隣の人間がいつライバル会社に転職するかもわからない環境で働くよりも、精神衛生上好ましいのは明らかだ。
5の「空論より現場を大事にする」については、6月15日公開「『根回し』の何が悪いのか…現場を知らないMBAホルダーがもたらす『悲惨な結果』と、日本型経営の『最大の長所』」、2022年5月17日公開「頭でっかちのエリートが会社を滅ぼす…日本企業をダメにする欧米流経営の大問題」などで述べた通りだ。
これはとくに製造業における日本企業の長所である。
「公平性」を維持する
6の「公平性を重視する」については、現在の米国企業が反面教師だ。日本経済新聞 6月18日「米CEO報酬、従業員の200倍に 格差は『騒乱警戒』水準」などにおいて、イーロン・マスク氏への560億ドル(約8.8兆円)の巨額報酬が株主総会で承認されたことが伝えられた。
建前は「実力主義」、「成果主義」であろうが、それは詭弁にしか過ぎない。「実力」や「成果」を客観的かつ正確に計測するのはほぼ不可能だからだ。マスク氏の約8.8兆円の報酬の根拠も不明である。
どのような企業でも、現場を含む多くの社員の努力によって企業業績が維持されている。特定の人間だけに巨額の報酬を支払うことは極めて「不公平」である。
7の「長期的な人間関係の熟成」においても、「公平な報酬」は大事である。経営幹部だけが巨額の報酬を手に入れ、一般従業員が安月給でこき使われていれば、社内における「長期的な人間関係の熟成」など到底できない。
また、企業経営において、報酬ばかりに着目していると「金で動く人間」しか集まってこない。「金銭的利益を越えた人間としてのつながりを持たない」組織は極めて脆いのだ。
8の「人間が『多機能』である」ことも、日本型経営の特徴だ。配置転換によってリストラを避けることができる。また、人間の能力を「狭い専門分野」に閉じ込める事が無いから、社員の潜在能力を発掘しやすい。
加えて、総合商社や総合リースを始めとする日本のお家芸の「総合化」も、人材が「多機能」だからこそ上手く機能する。人材が専門分野に特化してタコつぼ化している欧米企業で、真似しようとしても、同じ企業内での「有機的結合」が難しいのだ。
その点において、「米国的ではない米国企業」である、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、7月13日公開「五大商社『株式まとめ買い』のバフェットがいよいよ伊藤忠と協業開始…その対象となった、意外すぎる『衰退産業』」のように、総合商社の「シナジー」を学ぶ姿勢を見せたことは注目に値する。
「日本型経営」がこれからの日本を牽引
これまで述べてきた、トヨタ自動車や信越化学工業だけではない。総合商社、総合リースを始めとする「日本型経営」の先進企業が、これからの日本経済を牽引していくであろう。
これからは、「大原浩の逆説チャンネル<第1回・特別版>大乱の八つのテーマと対処法」で述べた、「大乱」がますます激化するであろうが、そのような波乱の時代にこそ、「人間同士の信頼関係」をベースにした「日本型経営」が実力を発揮するのである。
なお、実際の投資に当たっては、「大原浩の逆説チャンネル<第15回>バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわから無い人がほとんどだ。(バフェット流の真髄その1)」などを参照の上、自己責任で行っていただきたい。大原 浩(国際投資アナリスト・人間経済科学研究所・執行パートナー)
#世界的トップシェア企業「信越化学」