観音開きドアはメリットだけか?
この記事『[ガズー編集部](文:工藤貴宏 編集:木谷宗義+ノオト)』が記している内容は、クルマのモーターリゼーションと共に約半世紀(50年)活動して来た私の常識とかけ離れたメリットだけを礼賛している記事に読み取れる訳だが、強い違和感を感じる内容だ。
そもそも、観音開きというか、ドアヒンジがドア前方でなく後方にある自動車は、現在よりかなり昔のクルマに多かったと云えよう。それは、映画「ローマの休日」でグレゴリーペックとヘップバーンがローマを走り回って楽しむ風景を描いたのに登場するフィアット・トッッポリーノ(後のフィアット500の前期型に続く)も、後ろヒンジで乗り込む方式だったし、スバル360なども同様だ。
それが、現在の観音開きや2ドア車での後ろヒンジを採用しているクルマの占める率は、恐らく10%あるかどうか、かなり少数なものであることは現実として押さえておきたい。
では、なせ当初採用された後ろヒンジだとか観音開きドアが少数になるに至ったのか、そこにはこの論評ではメリットしか記していないが、なんらかのデメリットがあったからと推察するしかない。
最近の衝突試験で、車両の安全性を評価するテストは、各国、格機関で行われており、米NCAPとかユーロNCAP、日本のJNCAPなど多国・多機関で行われている。この衝突試験は、年毎にテスト条件を加えて、様々なクルマの衝突条件を変え、その安全性をさらに高めるという思考がなされている。その中で、従来のオフセットバリア試験(車幅の40%の運転席側をデフォーマブルバリア(バリア自体も変形する)に加え、通称名で微少オフセット試験(スモール・オーバラップ・テスト:車幅の20から25%をバリアに衝突させる試験)が始められている。
この微少オフセット試験だが、一見車体の少ない範囲が衝突するので、さほど厳しさは増さないという思うか方がいるかもしれないが、実は実に厳しい試験であり、従来のオフセット試験で好成績だった車両でも、愕然と低評価となる事例が結構多くある。この理由だが、従来のオフセット試験は、車幅の40%を当てるということで、必然的に車体前部の縦のつぶれ剛性を大きく支配するフロントサイドフレームのつぶれ剛性を高めることで対応ができた。しかし、微少オフセットだと、フロントサイドフレームには、直接的なつぶれ応力は働かないから、前輪をもぎ取り、フロントピラー前端を強く後ろに下げようという応力が直接的に働く。また、衝突にはいわゆる衝突の力が重心を通る心向き衝突と、重心を外れる偏心衝突があるが、従来のオフセットテストより微少オフセットの方が、さらに偏心度合いが大きくなる。そうなると、室内乗員の衝突時の挙動は、入力方向の180度真反対となるから、微小オフセットでは、エアバッグで頭部を受け止められなくなり、頭部がフロントピラーなどに直接当たり、ダミー頭部の設置された3軸(XYZ)の合成加速度から算出されるHIC(頭部障害率を示す値で1000以上で死亡確率が大)評価値が急激になる傾向があるのだ。
一方、この様なフロントピラー(Aピラー)を直接強く後退させると、連動してドアも後退し、ドアが開かなくなる可能性も大きくなる。衝突試験では、衝突後のドアを何ら機具を使用せず開閉性が良いか悪くなるかという評価も含んでいるので、ドア自体の変形も含め、高評価を得るのに車両メーカーは苦労しているのだ。さらに、フロントドアが後退すると、リアドアとオーバーラップするなどして、前後ドアの開閉性に支障が出る場合もあるのと、後部ドアが後ろヒンジの場合、余程にドアロック機構を補強などしておかないと、車体の変形と共に、後ろヒンジのドアが、ドアロックから外れ開放されてしまう可能性も出てくるのだ。
つまり、昔のクルマで今より多かった後ろヒンジ方式は、車体の変形でドアが開いてしまい易いと云うのが、車両の改良の歴史から生み出された必然であったといことだ。
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「観音開きドア」のメリットは? どんなクルマに採用されている?
2021.07.04 10:00 コラム・エッセイ デイリーコラム
[ガズー編集部](文:工藤貴宏 編集:木谷宗義+ノオト)
https://gazoo.com/column/daily/21/07/04/?fbclid=IwAR1F54lHemgfhWgOkU2ZwzL4dUWORQJIDbtOTovGgfkdj6ixYxfEu5qept8
この記事『[ガズー編集部](文:工藤貴宏 編集:木谷宗義+ノオト)』が記している内容は、クルマのモーターリゼーションと共に約半世紀(50年)活動して来た私の常識とかけ離れたメリットだけを礼賛している記事に読み取れる訳だが、強い違和感を感じる内容だ。
そもそも、観音開きというか、ドアヒンジがドア前方でなく後方にある自動車は、現在よりかなり昔のクルマに多かったと云えよう。それは、映画「ローマの休日」でグレゴリーペックとヘップバーンがローマを走り回って楽しむ風景を描いたのに登場するフィアット・トッッポリーノ(後のフィアット500の前期型に続く)も、後ろヒンジで乗り込む方式だったし、スバル360なども同様だ。
それが、現在の観音開きや2ドア車での後ろヒンジを採用しているクルマの占める率は、恐らく10%あるかどうか、かなり少数なものであることは現実として押さえておきたい。
では、なせ当初採用された後ろヒンジだとか観音開きドアが少数になるに至ったのか、そこにはこの論評ではメリットしか記していないが、なんらかのデメリットがあったからと推察するしかない。
最近の衝突試験で、車両の安全性を評価するテストは、各国、格機関で行われており、米NCAPとかユーロNCAP、日本のJNCAPなど多国・多機関で行われている。この衝突試験は、年毎にテスト条件を加えて、様々なクルマの衝突条件を変え、その安全性をさらに高めるという思考がなされている。その中で、従来のオフセットバリア試験(車幅の40%の運転席側をデフォーマブルバリア(バリア自体も変形する)に加え、通称名で微少オフセット試験(スモール・オーバラップ・テスト:車幅の20から25%をバリアに衝突させる試験)が始められている。
この微少オフセット試験だが、一見車体の少ない範囲が衝突するので、さほど厳しさは増さないという思うか方がいるかもしれないが、実は実に厳しい試験であり、従来のオフセット試験で好成績だった車両でも、愕然と低評価となる事例が結構多くある。この理由だが、従来のオフセット試験は、車幅の40%を当てるということで、必然的に車体前部の縦のつぶれ剛性を大きく支配するフロントサイドフレームのつぶれ剛性を高めることで対応ができた。しかし、微少オフセットだと、フロントサイドフレームには、直接的なつぶれ応力は働かないから、前輪をもぎ取り、フロントピラー前端を強く後ろに下げようという応力が直接的に働く。また、衝突にはいわゆる衝突の力が重心を通る心向き衝突と、重心を外れる偏心衝突があるが、従来のオフセットテストより微少オフセットの方が、さらに偏心度合いが大きくなる。そうなると、室内乗員の衝突時の挙動は、入力方向の180度真反対となるから、微小オフセットでは、エアバッグで頭部を受け止められなくなり、頭部がフロントピラーなどに直接当たり、ダミー頭部の設置された3軸(XYZ)の合成加速度から算出されるHIC(頭部障害率を示す値で1000以上で死亡確率が大)評価値が急激になる傾向があるのだ。
一方、この様なフロントピラー(Aピラー)を直接強く後退させると、連動してドアも後退し、ドアが開かなくなる可能性も大きくなる。衝突試験では、衝突後のドアを何ら機具を使用せず開閉性が良いか悪くなるかという評価も含んでいるので、ドア自体の変形も含め、高評価を得るのに車両メーカーは苦労しているのだ。さらに、フロントドアが後退すると、リアドアとオーバーラップするなどして、前後ドアの開閉性に支障が出る場合もあるのと、後部ドアが後ろヒンジの場合、余程にドアロック機構を補強などしておかないと、車体の変形と共に、後ろヒンジのドアが、ドアロックから外れ開放されてしまう可能性も出てくるのだ。
つまり、昔のクルマで今より多かった後ろヒンジ方式は、車体の変形でドアが開いてしまい易いと云うのが、車両の改良の歴史から生み出された必然であったといことだ。
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「観音開きドア」のメリットは? どんなクルマに採用されている?
2021.07.04 10:00 コラム・エッセイ デイリーコラム
[ガズー編集部](文:工藤貴宏 編集:木谷宗義+ノオト)
https://gazoo.com/column/daily/21/07/04/?fbclid=IwAR1F54lHemgfhWgOkU2ZwzL4dUWORQJIDbtOTovGgfkdj6ixYxfEu5qept8