「日産・ホンダ連合」が次に協業を狙う「老舗メーカー」とは?
4/11(木) 7:04配信 現代ビジネス
「互いに知見を持ち寄り、新たな価値を生み出していきたい」―国内2位と3位の自動車メーカーが同盟を結び、海外勢に出遅れたEV開発で巻き返しを図ると決断した。それは何を意味するのか?
前編記事『クルマの「スマホ化」が顕著に…「日産・ホンダ連合」誕生が意味する「勢力地図の変化」』はこちらから
【写真】在日中国人が「経済が発展しても中国に帰る気になれない」と語る納得の理由
三菱への接近を狙う
Photo by gettyimages
ソフトウエアと同様にEVのキーデバイスである電池の開発・生産にも莫大な投資がかかる。ホンダは'22年、韓国の電池大手LGエナジーソリューションと合弁で米国に電池工場を建設すると発表。その投資額は約44億ドル(約6600億円)にも上る。
日産が3月25日に発表した新中期経営計画では、北米地域で新たなアライアンスを活用する方針が示され、ホンダとLGの合弁プロジェクトに日産が参画する可能性が浮上してきた。電池プロジェクトの仲間が増えることは投資回収のための規模拡大につながり、ホンダにも利点がある。
「規模の利益」を求めるために、日産とホンダの協業検討ストーリーの中に入ってくるのが、三菱自動車を加えた「3社連合」の結成だ。新連合が誕生すれば、'23年のグローバル生産台数で約866万台となり、1152万台で世界1位のトヨタに迫る規模となる。
三菱自動車が強い領域の一つがプラグインハイブリッド車(PHV)。PHVはHEVに外部から充電できる機能を備えたもので、HEVとEVの中間に位置するような製品だ。前述した米国の新環境規制では、'32年時点でのEVの普及見通しを最大67%から同56%に下げた代わりにPHVを13%織り込んだ。米国では今後、PHVが売れ始めるだろう。
さらに、三菱自動車は、ピックアップトラックで使われている「フレームボディ」と言われる車体の開発、製造ノウハウを持つ。PHVや「フレームボディ」にホンダは弱いため、三菱のノウハウが欲しいと見られる。
ホンダは「ホンダジェット」を買う富裕層向けにマリン事業を強化したい考えだ。クルーザーなどを牽引する際に車体が頑丈な「フレームボディ」で大型SUVを開発する構想がある。
「ホンダが日産との協業に動くのは、日産傘下の三菱への接近を狙っているからではないか」(金融筋)と見る関係者もいる。実際、ホンダは三菱自動車への出資を狙っているようだ。
ホンダと三菱自動車の間でシナジー効果があると見られるのは、軽自動車の分野だ。固定費の高さからホンダの四輪事業は赤字寸前の時もあるほど、長年、低収益性に苦しんできた。国内で最も売れている「N-BOXシリーズ」を抱えていながら、ホンダは軽ビジネスの収益性が悪い。
一方、三菱自動車は'11年、日産と軽の共同企画開発会社「NMKV」を設立。コスト対応力のある三菱の水島製作所(岡山)で、両社ブランドの軽を造って効率性を高めている。ホンダには「NMKV」に加わりたいとの思惑もあると見られる。
「懐事情」は楽ではない
三菱自動車に20%出資し、三菱グループの「守役」である三菱商事にもホンダは近づいている。'23年10月には、ホンダと三菱商事はEVのエネルギーマネジメントなどで協業する覚書を締結した。
また、EVおよびPHV向け電池で三菱自動車、三菱商事、GSユアサは合弁会社「リチウムエナジージャパン」を設立していたが、今年1月に合弁を解消し、GSユアサが自動車と商事の保有株を買い取った。
一方で、GSユアサとホンダは'23年8月、EV向け電池の合弁会社「ホンダGSユアサEVバッテリー開発」を設立。三菱自動車は次世代EV向け電池を、この新合弁会社から調達する流れが強まっている。
こうした中で、日産が保有する三菱株34%のうち20%程度をホンダに譲渡する構想があると見られる。もし日産が譲渡すれば三菱の時価総額などから想定して、1500億円程度の現金を日産は得られることになる。
日産は「ゴーン経営」の拡大路線を軌道修正するため工場閉鎖などのリストラに追われ、'19年度、'20年度に巨額の最終赤字を計上した。
'20年9月には日産は80億米ドル、20億ユーロの総額で1兆円を超える外貨建ての社債を発行。アジア最大規模の社債額と言われ、日産の「懐事情」は楽ではないため、「ホンダとの協業を進めるうえでも大胆な投資に踏み込みにくいのでは」と見る業界関係者もいる。
激化する競争
「ゴーン経営」時代に不要な資産を売却した日産では手っ取り早く現金化できるものが少ない中、「虎の子」が三菱株なのだ。日産とホンダの協業の話が進めば、日産が一部を手放す可能性は高まるだろう。
自動車産業の競争が新興企業を巻き込んで激しくなる中、筆者は今のままでは日産とホンダが競争力を持ったまま生き残ることはできないと考える。両社の経営が弱体化した際に最初に窮するのは、自動車産業を階層的に下支えする部品や素材などの下請け企業だ。
自動車ビジネスを城郭にたとえるなら天守閣が自動車メーカーで、石垣が下請けである。石垣が壊れれば天守閣も傾くのは必定なのだ。
日産とホンダの協業の推進による「非トヨタ連合」の誕生は、サプライヤーの事業拡大にとっても利点がある。
さらに言えば、強い「トヨタ連合」と健全に競争できる連合が国内にもう一軸できると、日本の自動車産業は海外の新興企業にも十分に対抗できるはずだ。
日産とホンダの協業は、日本の自動車産業の競争力を残すためにも必要な一つの方策なのだ。「週刊現代」2024年4月6・13日合併号より
4/11(木) 7:04配信 現代ビジネス
「互いに知見を持ち寄り、新たな価値を生み出していきたい」―国内2位と3位の自動車メーカーが同盟を結び、海外勢に出遅れたEV開発で巻き返しを図ると決断した。それは何を意味するのか?
前編記事『クルマの「スマホ化」が顕著に…「日産・ホンダ連合」誕生が意味する「勢力地図の変化」』はこちらから
【写真】在日中国人が「経済が発展しても中国に帰る気になれない」と語る納得の理由
三菱への接近を狙う
Photo by gettyimages
ソフトウエアと同様にEVのキーデバイスである電池の開発・生産にも莫大な投資がかかる。ホンダは'22年、韓国の電池大手LGエナジーソリューションと合弁で米国に電池工場を建設すると発表。その投資額は約44億ドル(約6600億円)にも上る。
日産が3月25日に発表した新中期経営計画では、北米地域で新たなアライアンスを活用する方針が示され、ホンダとLGの合弁プロジェクトに日産が参画する可能性が浮上してきた。電池プロジェクトの仲間が増えることは投資回収のための規模拡大につながり、ホンダにも利点がある。
「規模の利益」を求めるために、日産とホンダの協業検討ストーリーの中に入ってくるのが、三菱自動車を加えた「3社連合」の結成だ。新連合が誕生すれば、'23年のグローバル生産台数で約866万台となり、1152万台で世界1位のトヨタに迫る規模となる。
三菱自動車が強い領域の一つがプラグインハイブリッド車(PHV)。PHVはHEVに外部から充電できる機能を備えたもので、HEVとEVの中間に位置するような製品だ。前述した米国の新環境規制では、'32年時点でのEVの普及見通しを最大67%から同56%に下げた代わりにPHVを13%織り込んだ。米国では今後、PHVが売れ始めるだろう。
さらに、三菱自動車は、ピックアップトラックで使われている「フレームボディ」と言われる車体の開発、製造ノウハウを持つ。PHVや「フレームボディ」にホンダは弱いため、三菱のノウハウが欲しいと見られる。
ホンダは「ホンダジェット」を買う富裕層向けにマリン事業を強化したい考えだ。クルーザーなどを牽引する際に車体が頑丈な「フレームボディ」で大型SUVを開発する構想がある。
「ホンダが日産との協業に動くのは、日産傘下の三菱への接近を狙っているからではないか」(金融筋)と見る関係者もいる。実際、ホンダは三菱自動車への出資を狙っているようだ。
ホンダと三菱自動車の間でシナジー効果があると見られるのは、軽自動車の分野だ。固定費の高さからホンダの四輪事業は赤字寸前の時もあるほど、長年、低収益性に苦しんできた。国内で最も売れている「N-BOXシリーズ」を抱えていながら、ホンダは軽ビジネスの収益性が悪い。
一方、三菱自動車は'11年、日産と軽の共同企画開発会社「NMKV」を設立。コスト対応力のある三菱の水島製作所(岡山)で、両社ブランドの軽を造って効率性を高めている。ホンダには「NMKV」に加わりたいとの思惑もあると見られる。
「懐事情」は楽ではない
三菱自動車に20%出資し、三菱グループの「守役」である三菱商事にもホンダは近づいている。'23年10月には、ホンダと三菱商事はEVのエネルギーマネジメントなどで協業する覚書を締結した。
また、EVおよびPHV向け電池で三菱自動車、三菱商事、GSユアサは合弁会社「リチウムエナジージャパン」を設立していたが、今年1月に合弁を解消し、GSユアサが自動車と商事の保有株を買い取った。
一方で、GSユアサとホンダは'23年8月、EV向け電池の合弁会社「ホンダGSユアサEVバッテリー開発」を設立。三菱自動車は次世代EV向け電池を、この新合弁会社から調達する流れが強まっている。
こうした中で、日産が保有する三菱株34%のうち20%程度をホンダに譲渡する構想があると見られる。もし日産が譲渡すれば三菱の時価総額などから想定して、1500億円程度の現金を日産は得られることになる。
日産は「ゴーン経営」の拡大路線を軌道修正するため工場閉鎖などのリストラに追われ、'19年度、'20年度に巨額の最終赤字を計上した。
'20年9月には日産は80億米ドル、20億ユーロの総額で1兆円を超える外貨建ての社債を発行。アジア最大規模の社債額と言われ、日産の「懐事情」は楽ではないため、「ホンダとの協業を進めるうえでも大胆な投資に踏み込みにくいのでは」と見る業界関係者もいる。
激化する競争
「ゴーン経営」時代に不要な資産を売却した日産では手っ取り早く現金化できるものが少ない中、「虎の子」が三菱株なのだ。日産とホンダの協業の話が進めば、日産が一部を手放す可能性は高まるだろう。
自動車産業の競争が新興企業を巻き込んで激しくなる中、筆者は今のままでは日産とホンダが競争力を持ったまま生き残ることはできないと考える。両社の経営が弱体化した際に最初に窮するのは、自動車産業を階層的に下支えする部品や素材などの下請け企業だ。
自動車ビジネスを城郭にたとえるなら天守閣が自動車メーカーで、石垣が下請けである。石垣が壊れれば天守閣も傾くのは必定なのだ。
日産とホンダの協業の推進による「非トヨタ連合」の誕生は、サプライヤーの事業拡大にとっても利点がある。
さらに言えば、強い「トヨタ連合」と健全に競争できる連合が国内にもう一軸できると、日本の自動車産業は海外の新興企業にも十分に対抗できるはずだ。
日産とホンダの協業は、日本の自動車産業の競争力を残すためにも必要な一つの方策なのだ。「週刊現代」2024年4月6・13日合併号より