「アイム・ノット・ギルティ」 少女を誘拐し、性的暴行を加えたとされる米兵の主張とは
7/20(土) 18:30配信 産経新聞
不同意性交とわいせつ誘拐の罪に問われた米兵が所属する米空軍嘉手納基地のゲート=沖縄県沖縄市(大竹直樹撮影)
私は無罪だ-。16歳未満の少女を誘拐し性的暴行を加えたとして、不同意性交とわいせつ誘拐の罪に問われた米空軍兵長の被告が起訴内容を全面的に否認すると、法廷にざわめきが広がった。事件は6月に地元民放の報道で発覚。その後も別の在沖縄米兵による性的暴行事件が明らかになり、沖縄では県民の反発が高まっている。公判を通じ、事件の真相はどこまで解明されるのか。
【写真】米軍キャンプ・シュワブのフェンス沿いで手をつなぎ「人間の鎖」をつくる人たち
■「年齢の認識」争点
今月12日、那覇地裁で開かれた初公判。米空軍嘉手納基地を拠点とする第18航空団に所属する米国籍のブレノン・ワシントン被告(25)は、長袖の白いワイシャツに黒っぽいズボン姿で出廷した。検察官が起訴状を読み上げる間、表情を崩さず、じっと聞き入っていたが、顔はやや紅潮しているように見えた。
起訴状によると、昨年12月24日、沖縄本島中部の公園で少女を自分の車に誘い、自宅まで誘拐。少女が16歳未満と知りながらわいせつな行為をしたとされる。
沖縄県警嘉手納署が今年3月11日に書類送検し、那覇地検が同27日に在宅起訴。日米地位協定に基づき身柄は日本側に引き渡されたが、後に保釈され、現在は米軍の管理下に置かれている。
罪状認否では英語で堂々と「アイム・ノット・ギルティ(私は無罪だ)」と述べ、「誘拐もしていなければ、レイプもしていない」と起訴内容を全面的に否認した。
特別背任などの罪で起訴され、中東レバノンに逃走中の日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(70)は5年前、東京地裁で行われた勾留理由開示の手続きで「アイ・アム・イノセント(私は無実だ)」と熱弁した。
一方、ワシントン被告は法的概念である「無罪」という言葉を使った。法廷の通訳人は「私は無実です」と訳したものの、両者のニュアンスは微妙に異なる。
ワシントン被告は被害少女への性的行為自体は認めている。ただ、被害少女と「同意」があったという主張だ。
もっとも、性犯罪規定を見直す改正刑法が昨年7月に施行され、性的行為への同意を自ら判断できるとみなす「性交同意年齢」は条件付きで13歳から16歳に引き上げられた。16歳未満の子供へのわいせつ行為は、同意があったとしても原則処罰の対象になる。
そこで問題となるのが、被告が被害少女を何歳と認識していたかという点だ。弁護側は、被告が少女に年齢確認を行い、「18歳と認識していた」と主張している。
公判では少女の同意の有無だけでなく、この年齢の認識が大きな争点になるとみられる。
■「自分は軍の特別捜査官」
検察側の冒頭陳述によると、被告は犯行前日に妻と口論。クリスマスイブの昨年12月24日夕、気晴らしのために公園へ向かった。被告は公園のベンチに座っていた少女に「あのー、大丈夫?」と声をかけ、翻訳アプリを使って少女が母親とけんかし公園に来たことを知ったという。
被告はこのとき「自分は軍の特別捜査官だから」などと発言していた。被告から年齢を尋ねられた少女は、両手の指を使ったジェスチャーを交え、日本語と英語で年齢を告げた。
「寒いから、車の中で話さない?」。被告はそう言って少女を自分の車に誘い、車中では「今週末、ここで会って、私の家に行って、料理をしたり、映画を見たりしない?」などと声をかけた。
少女を自宅に連れ込むと、寝室やリビング、バスルームを見せ、自分の軍服も見せたという。
少女は帰宅後、母親に被害を告白。母親はその場で110番通報した。
これに対し、弁護側は「(少女を)18歳と認識しており、誘ったのもわいせつ目的ではない。同意なく性的交渉をしたわけではない」と主張している。
8月23日の次回公判には被害少女と母親が証人として出廷する予定だ。
■辺野古移設の端緒になった事件も
在沖縄米兵の性的暴行事件が相次ぎ、沖縄県では政党や市民団体が連日、外務省沖縄事務所に抗議し、県庁前などで抗議集会を開く事態に発展している。
県警が被害者の「プライバシー保護」などを理由に事件を公表せず、外務省も被告が起訴された3月の時点で事件を把握しながら、6月に報道で事件が発覚するまで県などに情報を共有していなかったことも地元の反発を招く要因となった。
日米地位協定に基づく平成9年の日米合同委員会の合意では、外務省が米側から在日米軍が関係する事件などの情報を受けた場合、防衛省側に通報し、同省から県や関係自治体に伝えると定められていた。こうした日米の通報手続きが形骸化していた可能性が指摘されている。
平成7年9月に起きた米兵3人による少女暴行事件を引き合いに「米軍基地があるから解決されない」などと基地問題と結びつけた批判も目立つ。7年の事件では犯行に県民が強く反発し、反基地感情が高まった。
日米地位協定の見直しや基地の整理縮小を求める県民総決起大会には約8万5千人(主催者発表)が参加。「世界一危険」といわれる米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設問題の端緒になった。
今回の事件で情報共有の不備が指摘されたことを踏まえ、政府は今月5日、米軍が絡む性犯罪について例外なく県に伝達するよう情報共有の運用を見直したが、再発防止のためにも事件の真相究明は不可欠だ。
被害者のプライバシー保護に最大限配慮しつつ、事件に関する情報のうち何をどのように公開するか。情報公開や共有のあり方も改めて問われている。(大竹直樹)
#少女を誘拐し、性的暴行を加えたとされる米兵の主張とは
7/20(土) 18:30配信 産経新聞
不同意性交とわいせつ誘拐の罪に問われた米兵が所属する米空軍嘉手納基地のゲート=沖縄県沖縄市(大竹直樹撮影)
私は無罪だ-。16歳未満の少女を誘拐し性的暴行を加えたとして、不同意性交とわいせつ誘拐の罪に問われた米空軍兵長の被告が起訴内容を全面的に否認すると、法廷にざわめきが広がった。事件は6月に地元民放の報道で発覚。その後も別の在沖縄米兵による性的暴行事件が明らかになり、沖縄では県民の反発が高まっている。公判を通じ、事件の真相はどこまで解明されるのか。
【写真】米軍キャンプ・シュワブのフェンス沿いで手をつなぎ「人間の鎖」をつくる人たち
■「年齢の認識」争点
今月12日、那覇地裁で開かれた初公判。米空軍嘉手納基地を拠点とする第18航空団に所属する米国籍のブレノン・ワシントン被告(25)は、長袖の白いワイシャツに黒っぽいズボン姿で出廷した。検察官が起訴状を読み上げる間、表情を崩さず、じっと聞き入っていたが、顔はやや紅潮しているように見えた。
起訴状によると、昨年12月24日、沖縄本島中部の公園で少女を自分の車に誘い、自宅まで誘拐。少女が16歳未満と知りながらわいせつな行為をしたとされる。
沖縄県警嘉手納署が今年3月11日に書類送検し、那覇地検が同27日に在宅起訴。日米地位協定に基づき身柄は日本側に引き渡されたが、後に保釈され、現在は米軍の管理下に置かれている。
罪状認否では英語で堂々と「アイム・ノット・ギルティ(私は無罪だ)」と述べ、「誘拐もしていなければ、レイプもしていない」と起訴内容を全面的に否認した。
特別背任などの罪で起訴され、中東レバノンに逃走中の日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(70)は5年前、東京地裁で行われた勾留理由開示の手続きで「アイ・アム・イノセント(私は無実だ)」と熱弁した。
一方、ワシントン被告は法的概念である「無罪」という言葉を使った。法廷の通訳人は「私は無実です」と訳したものの、両者のニュアンスは微妙に異なる。
ワシントン被告は被害少女への性的行為自体は認めている。ただ、被害少女と「同意」があったという主張だ。
もっとも、性犯罪規定を見直す改正刑法が昨年7月に施行され、性的行為への同意を自ら判断できるとみなす「性交同意年齢」は条件付きで13歳から16歳に引き上げられた。16歳未満の子供へのわいせつ行為は、同意があったとしても原則処罰の対象になる。
そこで問題となるのが、被告が被害少女を何歳と認識していたかという点だ。弁護側は、被告が少女に年齢確認を行い、「18歳と認識していた」と主張している。
公判では少女の同意の有無だけでなく、この年齢の認識が大きな争点になるとみられる。
■「自分は軍の特別捜査官」
検察側の冒頭陳述によると、被告は犯行前日に妻と口論。クリスマスイブの昨年12月24日夕、気晴らしのために公園へ向かった。被告は公園のベンチに座っていた少女に「あのー、大丈夫?」と声をかけ、翻訳アプリを使って少女が母親とけんかし公園に来たことを知ったという。
被告はこのとき「自分は軍の特別捜査官だから」などと発言していた。被告から年齢を尋ねられた少女は、両手の指を使ったジェスチャーを交え、日本語と英語で年齢を告げた。
「寒いから、車の中で話さない?」。被告はそう言って少女を自分の車に誘い、車中では「今週末、ここで会って、私の家に行って、料理をしたり、映画を見たりしない?」などと声をかけた。
少女を自宅に連れ込むと、寝室やリビング、バスルームを見せ、自分の軍服も見せたという。
少女は帰宅後、母親に被害を告白。母親はその場で110番通報した。
これに対し、弁護側は「(少女を)18歳と認識しており、誘ったのもわいせつ目的ではない。同意なく性的交渉をしたわけではない」と主張している。
8月23日の次回公判には被害少女と母親が証人として出廷する予定だ。
■辺野古移設の端緒になった事件も
在沖縄米兵の性的暴行事件が相次ぎ、沖縄県では政党や市民団体が連日、外務省沖縄事務所に抗議し、県庁前などで抗議集会を開く事態に発展している。
県警が被害者の「プライバシー保護」などを理由に事件を公表せず、外務省も被告が起訴された3月の時点で事件を把握しながら、6月に報道で事件が発覚するまで県などに情報を共有していなかったことも地元の反発を招く要因となった。
日米地位協定に基づく平成9年の日米合同委員会の合意では、外務省が米側から在日米軍が関係する事件などの情報を受けた場合、防衛省側に通報し、同省から県や関係自治体に伝えると定められていた。こうした日米の通報手続きが形骸化していた可能性が指摘されている。
平成7年9月に起きた米兵3人による少女暴行事件を引き合いに「米軍基地があるから解決されない」などと基地問題と結びつけた批判も目立つ。7年の事件では犯行に県民が強く反発し、反基地感情が高まった。
日米地位協定の見直しや基地の整理縮小を求める県民総決起大会には約8万5千人(主催者発表)が参加。「世界一危険」といわれる米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設問題の端緒になった。
今回の事件で情報共有の不備が指摘されたことを踏まえ、政府は今月5日、米軍が絡む性犯罪について例外なく県に伝達するよう情報共有の運用を見直したが、再発防止のためにも事件の真相究明は不可欠だ。
被害者のプライバシー保護に最大限配慮しつつ、事件に関する情報のうち何をどのように公開するか。情報公開や共有のあり方も改めて問われている。(大竹直樹)
#少女を誘拐し、性的暴行を加えたとされる米兵の主張とは