「マイナンバー制度はプライバシー権の侵害」 神奈川で原告集会
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7/10(水) 9:10配信 週刊金曜日
5月30日の原告集会。今後の方針を話す小賀坂徹・神奈川訴訟弁護団代表(正面奥)。(撮影/稲垣美穂子
マイナンバー(個人番号)制度は憲法13条が保障するプライバシー権を侵害するとして、2015年以降に全国8カ所で市民が提起した違憲訴訟に関し、神奈川訴訟の原告団が5月30日、最高裁への上告に向けた原告集会を横浜市内で開催した。
このマイナンバー違憲訴訟では最高裁が23年3月に名古屋、福岡、仙台での各訴訟に対して上告棄却判決を下した。他地区の控訴審判決が出る前の突然の判決だった。東京・神奈川での訴訟についてはこの最高裁判決前に結審していたが、それから実に1年以上経った24年3月25日に、東京高裁で棄却判決が言い渡された。翌4月には金沢、5月には大阪訴訟に対し、最高裁がそれぞれ全員一致で上告棄却決定を出した。
そうした中で開催された今回の集会では、神奈川訴訟弁護団代表の小賀坂徹弁護士がまず同訴訟の控訴審判決に触れ「プライバシーをめぐり、本訴訟の中核である、自分の情報を誰とどこまで共有(シェア)するかを本人が主体的に決定できるという自己情報コントロール権には触れることなく、個人の情報は漏れなければいいとした60年前の解釈のまま」と批判。多発する漏洩事案については「国は『ヒューマンエラー』だとしてシステム上や法制度上の問題ではないとしているが、これほど漏洩事案が多発しているのは、むしろシステム上の欠陥そのもの。そうした原告の主張に対しても判決は国の主張をなぞった形式的な判断に終始してしまった」と解説し、原告が控訴審で強調した個人情報保護委員会の機能不全に関しても「表面的な判断にとどまり、まったく実態に立ち入っていない」と振り返った。
情報連携の範囲が事実上白紙委任となっている恐れに関する意見書を提出した實原隆志・南山大学法科大学院教授も、判決について「そもそも利用範囲を限定しなくてもいいと言ってしまっている。『委任の範囲を超えるものとは認められない』としながら、その理由を述べていない。せめて限定していると明記したうえで合憲判断を出すべき」だったと指摘した。
門前払いさせないために
そのうえで、前記した今年4月の最高裁による上告棄却決定の中で奇異に感じた点として弁護団は「原告側が原判決の憲法解釈の誤り、憲法違反を指摘しているのに、それに当たらないとして上告棄却したこと」だと説明。「ようするに昨年3月の最高裁判決で番号制度についての憲法判断は出されており、決着済みという意味なのではないか」と分析し、「最高裁に実質審理をして判決を出すように求めるところから始めなければならなくなった」と、対策の必要性を語った。
そこで神奈川訴訟では門前払いさせないための2策を検討中だ。
まず弁論再開をしなかったことの違法性を訴えることだ。同訴訟控訴審が結審してから4カ月後の6月には番号法に関する法改正が行なわれ、情報連携の分野も拡大した。これは最高裁判決が合憲とした根拠の一つが失われたことを意味しており、それを受けて弁護団も弁論再開を申し立て、法改正を踏まえた判断をするよう求めたものの、それを裁判所は結審から1年2カ月も放置したうえで判決を言い渡した。
しかも同判決はその点についてわざわざ「法令等が全て公布されたとも認められない現時点で、その合憲性を的確に審理・判断することは困難である」と不合理な弁明をしている。背景には、弁論再開をしなかったことが裁量権の逸脱にあたり違法だとした最高裁判例を意識していた可能性がある。そこで「弁論再開を認めなかったことにより控訴人らは別訴を提起しなければこの点について主張することさえ不可能になった。裁判所の裁量権の逸脱だ」との指摘も可能ではないか。そして2点目は番号制度、プライバシーをめぐる情勢は著しく変化し、同じ判断はできないと明確に主張することだ。
神奈川訴訟は176人が上告。8月末までには上告理由書を提出する予定だ。稲垣美穂子・フリーランスライター
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マイナンバー訴訟、最高裁はプライバシー権認めず
すべての高裁判決待たず判断
稲垣美穂子・フリーランスライター 週刊金曜日 2023年3月26日6:56AM
判決後の報告集会で発言する福岡訴訟原告の岸誠之助さん(中央)。3月9日、東京都千代田区で。(撮影/稲垣美穂子)
マイナンバー制度は憲法13条が保障する自己情報コントロール権(プライバシー権)を侵害するとして2015年以降、各地の住民らが国に個人番号の利用差し止めなどを求めた訴訟で最高裁が初の判断を下した。第1小法廷(深山卓也裁判長)は全国8カ所で起こされた訴訟中3件(仙台、福岡、名古屋の各高裁。いずれも原告敗訴で上告)につき弁論を開かないまま3月9日に上告を棄却した。
この判決について原告側では、福岡訴訟の武藤糾明弁護士が「原告らの懸念を正当と認めた上で、本制度が対象を3分野に限定すると明言したことは、昨今の政府の無限定な番号利用の拡大を十分牽制する意義深い判決」と評価。名古屋訴訟の加藤光宏弁護士は、マイナンバー利用範囲拡大に一応の歯止めをかけている点は評価しつつ「名古屋高裁判決では憲法13条が保障する内容に『個人情報をみだりに収集、利用、開示又は公表されない自由』があるとしたが、最高裁はそこに一切触れず『開示・公表されない自由』にとどめた。同制度の前身である住基ネットに関する15年前の最高裁判決の『漏れなければいい』という認識から少しも進んでいない」と批判した。
福岡訴訟原告の岸誠之助さんは「個人の自己決定の権利より行政の効率化が優先されるのはおかしい。法律が想定していないことを後から政令や省令で追加できたらやりたい放題では」と述べた。
東京、金沢、神奈川では各高裁の判決言い渡し日がまだ決まっていない。そうした中での最高裁判決に、神奈川訴訟の小賀坂徹弁護団代表は「非常にショック。影響は免れない」と語った。
政府は3月7日、税や社会保障、災害対策以外の行政事務でも法改正を必要とせず省令見直しのみでマイナンバー利用範囲拡大を可能とすることを閣議決定した。この最高裁判決を本当に「歯止め」にできるかは私たちにかかっている。(『週刊金曜日』2023年3月24日号)
#プライバシー権 #マイナンバー訴訟
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7/10(水) 9:10配信 週刊金曜日
5月30日の原告集会。今後の方針を話す小賀坂徹・神奈川訴訟弁護団代表(正面奥)。(撮影/稲垣美穂子
マイナンバー(個人番号)制度は憲法13条が保障するプライバシー権を侵害するとして、2015年以降に全国8カ所で市民が提起した違憲訴訟に関し、神奈川訴訟の原告団が5月30日、最高裁への上告に向けた原告集会を横浜市内で開催した。
このマイナンバー違憲訴訟では最高裁が23年3月に名古屋、福岡、仙台での各訴訟に対して上告棄却判決を下した。他地区の控訴審判決が出る前の突然の判決だった。東京・神奈川での訴訟についてはこの最高裁判決前に結審していたが、それから実に1年以上経った24年3月25日に、東京高裁で棄却判決が言い渡された。翌4月には金沢、5月には大阪訴訟に対し、最高裁がそれぞれ全員一致で上告棄却決定を出した。
そうした中で開催された今回の集会では、神奈川訴訟弁護団代表の小賀坂徹弁護士がまず同訴訟の控訴審判決に触れ「プライバシーをめぐり、本訴訟の中核である、自分の情報を誰とどこまで共有(シェア)するかを本人が主体的に決定できるという自己情報コントロール権には触れることなく、個人の情報は漏れなければいいとした60年前の解釈のまま」と批判。多発する漏洩事案については「国は『ヒューマンエラー』だとしてシステム上や法制度上の問題ではないとしているが、これほど漏洩事案が多発しているのは、むしろシステム上の欠陥そのもの。そうした原告の主張に対しても判決は国の主張をなぞった形式的な判断に終始してしまった」と解説し、原告が控訴審で強調した個人情報保護委員会の機能不全に関しても「表面的な判断にとどまり、まったく実態に立ち入っていない」と振り返った。
情報連携の範囲が事実上白紙委任となっている恐れに関する意見書を提出した實原隆志・南山大学法科大学院教授も、判決について「そもそも利用範囲を限定しなくてもいいと言ってしまっている。『委任の範囲を超えるものとは認められない』としながら、その理由を述べていない。せめて限定していると明記したうえで合憲判断を出すべき」だったと指摘した。
門前払いさせないために
そのうえで、前記した今年4月の最高裁による上告棄却決定の中で奇異に感じた点として弁護団は「原告側が原判決の憲法解釈の誤り、憲法違反を指摘しているのに、それに当たらないとして上告棄却したこと」だと説明。「ようするに昨年3月の最高裁判決で番号制度についての憲法判断は出されており、決着済みという意味なのではないか」と分析し、「最高裁に実質審理をして判決を出すように求めるところから始めなければならなくなった」と、対策の必要性を語った。
そこで神奈川訴訟では門前払いさせないための2策を検討中だ。
まず弁論再開をしなかったことの違法性を訴えることだ。同訴訟控訴審が結審してから4カ月後の6月には番号法に関する法改正が行なわれ、情報連携の分野も拡大した。これは最高裁判決が合憲とした根拠の一つが失われたことを意味しており、それを受けて弁護団も弁論再開を申し立て、法改正を踏まえた判断をするよう求めたものの、それを裁判所は結審から1年2カ月も放置したうえで判決を言い渡した。
しかも同判決はその点についてわざわざ「法令等が全て公布されたとも認められない現時点で、その合憲性を的確に審理・判断することは困難である」と不合理な弁明をしている。背景には、弁論再開をしなかったことが裁量権の逸脱にあたり違法だとした最高裁判例を意識していた可能性がある。そこで「弁論再開を認めなかったことにより控訴人らは別訴を提起しなければこの点について主張することさえ不可能になった。裁判所の裁量権の逸脱だ」との指摘も可能ではないか。そして2点目は番号制度、プライバシーをめぐる情勢は著しく変化し、同じ判断はできないと明確に主張することだ。
神奈川訴訟は176人が上告。8月末までには上告理由書を提出する予定だ。稲垣美穂子・フリーランスライター
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マイナンバー訴訟、最高裁はプライバシー権認めず
すべての高裁判決待たず判断
稲垣美穂子・フリーランスライター 週刊金曜日 2023年3月26日6:56AM
判決後の報告集会で発言する福岡訴訟原告の岸誠之助さん(中央)。3月9日、東京都千代田区で。(撮影/稲垣美穂子)
マイナンバー制度は憲法13条が保障する自己情報コントロール権(プライバシー権)を侵害するとして2015年以降、各地の住民らが国に個人番号の利用差し止めなどを求めた訴訟で最高裁が初の判断を下した。第1小法廷(深山卓也裁判長)は全国8カ所で起こされた訴訟中3件(仙台、福岡、名古屋の各高裁。いずれも原告敗訴で上告)につき弁論を開かないまま3月9日に上告を棄却した。
この判決について原告側では、福岡訴訟の武藤糾明弁護士が「原告らの懸念を正当と認めた上で、本制度が対象を3分野に限定すると明言したことは、昨今の政府の無限定な番号利用の拡大を十分牽制する意義深い判決」と評価。名古屋訴訟の加藤光宏弁護士は、マイナンバー利用範囲拡大に一応の歯止めをかけている点は評価しつつ「名古屋高裁判決では憲法13条が保障する内容に『個人情報をみだりに収集、利用、開示又は公表されない自由』があるとしたが、最高裁はそこに一切触れず『開示・公表されない自由』にとどめた。同制度の前身である住基ネットに関する15年前の最高裁判決の『漏れなければいい』という認識から少しも進んでいない」と批判した。
福岡訴訟原告の岸誠之助さんは「個人の自己決定の権利より行政の効率化が優先されるのはおかしい。法律が想定していないことを後から政令や省令で追加できたらやりたい放題では」と述べた。
東京、金沢、神奈川では各高裁の判決言い渡し日がまだ決まっていない。そうした中での最高裁判決に、神奈川訴訟の小賀坂徹弁護団代表は「非常にショック。影響は免れない」と語った。
政府は3月7日、税や社会保障、災害対策以外の行政事務でも法改正を必要とせず省令見直しのみでマイナンバー利用範囲拡大を可能とすることを閣議決定した。この最高裁判決を本当に「歯止め」にできるかは私たちにかかっている。(『週刊金曜日』2023年3月24日号)
#プライバシー権 #マイナンバー訴訟