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「横領した7億円はほとんど残っていなかった」逮捕されたのは

2024-05-07 | 事故と事件
「横領した7億円はほとんど残っていなかった」逮捕されたのは…“ギャンブルより怖い?”FXの落とし穴
5/6(月) 11:12配信 文春オンライン

〈「20人に1人というのは異常」「平均負債額は595万円」海外より衝撃的なほど多い、日本人の“ギャンブル依存症”の実態〉 から続く

 ギャンブル依存症は意志や根性ではどうにもならない、治療すべき病気である――。

 そう語るのは、「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表理事である田中紀子さんだ。田中さんは祖父、父、夫のギャンブルと借金に振り回される人生を送り、自分もまたギャンブル依存症になってしまった過去がある。

 ここでは、ギャンブル依存症が引き金となった事件をまとめた田中さんの著作『 ギャンブル依存症 』(2015年刊行、角川新書)から一部を抜粋して「伊藤忠関連会社社員7億円横領事件」について紹介する。(全3回の2回目/ 最初から読む )

◆◆◆

 伊藤忠商事からニュージーランドにある森林木材事業の関連会社に出向していた30代の経理担当元男性社員が、12年から14年のあいだに約7億円を横領していた事件。架空の請求書を作成するなどして、会社の口座から自分の口座に資金を複数回送金させていた。

 その全額をFX(外国為替証拠金取引)に注ぎ込んでいたが、社内監査が迫り、発覚は免れないと判断。自分から不正を会社に申告して懲戒解雇処分を受けている。

 その後、伊藤忠商事は、業務上横領容疑で警視庁に告発する方針を固めて、この事件を発表した。元社員は警視庁に逮捕されている。

エリートがはまる罠
 最近は私たちの会に寄せられる相談ではFXに関するものがトレンドのようになっています。

 FXをギャンブルにカテゴライズしていいのかという問題は別にして、FXをギャンブルに変えてしまう人たちがいるのは間違いないことです。

 FXに限らず、株や商品先物取引などでも同じです。

 ギャンブルとしてFXなどをやる人がなぜ増えているのかといえば、とにかく手軽だからです。家にいてインターネット上で操作するだけで取引できます。パチンコのように店舗に行く必要がないので、人目を気にする必要もありません。

 実際はギャンブルと変わらないようになっていながら、本人がそれを自覚しにくいのも問題です。

 エグゼクティブな感覚を伴った資産運用のつもりで始めても、いつの間にか、そんな余裕はまったくなくなります。そして借金を積み重ね、なんとか一発当てなければならないという深みにはまっていきます。

 ギャンブル以上にギャンブル性が高くなっていながら、本人はなお、それをギャンブルだとは意識しません。そういう状況がもっとも始末に負えないのです。

 FXなどの投資商品にハマってしまうのはエリートやそれに近いサラリーマンに多いのですが、この事件もそうだったといえます。

 この元社員は灘中、灘高から東大に入り、大学院まで進んでから伊藤忠商事に入社していたようです。しかも30代の若さで海外の関連会社に出向して、個人の裁量で多額の資金を動かせる地位に就いていたそうです。

 ギャンブル依存症に詳しくない人からみれば、エリートと呼ばれる人たちはこの病気にはもっとも縁がない存在に感じられるかもしれません。

 しかし、「病的賭博者100人の臨床的実態」をまとめた森山成彬先生も、ギャンブル依存症は「他の依存症にくらべて高学歴の人が多く、大学卒以上が42%」になると話しています。

 本当はエリートだろうと注意が必要なのに、本人は自分が依存症になっていることを自覚しにくく、周囲もそれを警戒しにくいというところに“罠”があります。

FXのおそろしさ
 この事件では、元社員が横領した7億円がほとんど残っていなかったというのも注目すべきところです。

 立場や収入から比較すれば、大王製紙の井川さんの106億8000万円に匹敵するか、それ以上の意味を持つ金額だともいえそうです。

 金融庁ではFXの倍率を25倍までに制限していますが、元社員は、海外業者を利用することでその制限を外し、数百倍の取引をしていたそうです。

 いちどギャンブル依存症を発症すると、思考という抑止力が働かなくなり、道徳心が失われていきます。そういう障害が脳に起きてくるので歯止めが利かなくなるのです。

 規模の大小はあっても、他の大手企業や銀行でも同様の事件が起きています。

 一見するとギャンブルとは無縁のようなエリートも、いつレールを踏み外してしまうかはわからないということです。

 私の身近でも、FXにハマって2か月で800万円の借金をつくったプログラマーがいました。

 その人の場合も過去にもギャンブルで借金をつくったことがありましたが、他のギャンブルにくらべても、FXに投入するお金はあっという間に大きくなっていきました。

 投資する額が大きければ、期待する額も大きくなります。そこでドーパミンも過剰に反応するようになると考えられます。FXや株にハマったサラリーマンが1000万円レベルの借金をつくってしまうと、自分ではどうにもならなくなります。そのため、横領などの犯罪にも手を出してしまうようになります。

 また私の伯父は、この手の取引にハマったことで、自殺未遂をしてしまうところまで追いつめられてしまいました。この伯父はエリート中のエリートで大手証券会社の取締役をつとめ、次期社長候補ともいわれていた人です。私たちの親族のあいだでは期待の星でした。

 伯父の場合は、時代的なこともあり、FXではなかったのですが、ゴルフ会員権や不動産取引にも手を出していました。それでバブルが弾けたときに大きな損失を出してしまったのです。

 06年に新会社法が施行されるまでは、自己破産をしていると、免責が確定するまで取締役にはなれない決まりになっていました。それで身動きがとれなくなってしまったのです。ある程度の地位に就いていると、それはそれでSOSを出しにくくなるものです。

 結局、伯父はこのときの痛手から立ち直れず、60代の若さで亡くなりました。

ポイントは「早期発見」「早期介入」
 FXにハマるような人は、もともとギャンブルをやっているという意識がないので、本人も家族もギャンブル依存症に結びつけることが難しいという問題があります。

 そのため、いよいよ窮地に陥ったときにも、本人ではなく家族が、いろいろな相談窓口を訪れ、その中でこの問題に詳しい人にたまたま出会ってはじめて、ギャンブル依存症にあたるのではないかと気がつくようなケースが多く見受けられます。ですから当然、遠回りになりがちで、むしろ答えにたどり着けたなら運がいいほうだともいえます。

 家族の方などが、ギリギリの段階で相談窓口に来た場合に私たちがよく勧めるのは、本人がお金を使えないようにすること、すなわち“兵糧攻め”です。

 そのため、相談者が当事者の奥様の場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる「婚姻費用分担請求」の制度を利用する場合もあります。

 これは夫婦のどちらかがどんどんお金を使ってしまうときなどに、婚姻生活を維持するために必要な費用(生活費、医療費、教育費など)をどのように分担するかを決めるものです。この調停によって法的効力がある給与の差し止めができます。

 給与差し止めとなれば、当然、会社に状況を知られるので、本人があわてて話し合いに応じて実際には調停まではいかず、ゆさぶりをかけた段階で回復に向き合うようになることもあります。

 それでも効かなければ、本当に差し止めをかけます。

 それくらいのことをしなければ、本人は依存症だと認めることができず、回復につながらないのです。依存症が“否認の病”といわれるゆえんです。

 ただ、こうした兵糧攻めには当然ですがリスクを伴います。

 ゆさぶりをかけた段階でキレて、やけくそになったり、兵糧攻めに入ったあとに、お金に窮して犯罪行為に手を染めたり、自殺の可能性もゼロではありません。

 そういった全てのリスクを話したうえで、究極の選択として、どうするかを決めます。

 家族が相談に来るような段階では、病気はかなり進行している場合がほとんどなので、断腸の思いで決断をしなければ、さらなる泥沼にはまっていくだけです。

 依存症はとにかく少しでも「早期発見」「早期介入」できるかどうかがポイントです。

 兵糧攻めにすると、本人が問題に直面することになるのでそこから回復へとつなげていくことができます。

自尊心とプライド
 ギャンブル依存症は、自尊心が低くてプライドが高い人に多いといえます。

 両者は混同されやすいところですが、自尊心は自信に由来していて、プライドは劣等感に由来するといわれます。

 わかりやすく分けるなら、自尊心は自分を大切にする気持ちで、プライドは他人の評価を気にする感情です。

 そのため、自尊心は当然必要ですが、間違ったプライドは捨ててしまったほうがよいのです。

 プライドが高くて、社会的な地位が高い人は、自分がギャンブル依存症であることを簡単には受け入れません。

 自助グループにつながったりカウンセリングを受けるような弱い自分を受け入れられず、自分の人生はおしまいだというくらいに考えがちなので、それが治療のネックになっています。

「エリート街道を歩んできている人」

「まじめで手堅いように見える人」

「経理などの堅い仕事でありながらお金を動かしやすい役職に就いている人」

「管理職や役員といった地位に就いている人」

 こうした人たちほど注意が必要になります。それもまたこの事件から得られる教訓のひとつです。

 ギャンブラーというと、信用のない、だらしない人間というイメージを持っている人も多いとは思いますが、そんな人間は役員などの地位にはなかなか就けません。地位があってこそ、大きなお金を動かせるのですから、常識では計り知れない病気がギャンブル依存症なのです。田中 紀子


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