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VR38エンジン・ブロック評価一人談義

2022-11-09 | コラム
VR38エンジン・ブロック評価一人談義
 今、日本の車両メーカーは世界の頂点にある様に見えるが、今後自動車というものがEVとか究極のASVすなわち自動運転の方向性が出て来ており、端的に云えば既存の車両メーカーではない新たなIT企業などが参入してくるのは確実視される中、将来に向けて安閑とはしていられない。特に日本の車両メーカーでは、ニッサン、三菱、ホンダ、そして最近大規模な不正でほとんど新車販売が停止している日野もだが、近未来の不安が増している様に思える。

 ただし、ニッサンというメーカーは、トヨタに大きな差を付けられてしまったが、かつては五分五分の規模を誇った。車両内外装の意匠性とか販売力とかトヨタが構築したジャストインタイムとか主要サプライヤを育てなかったという統合力のなさがこの結果を招いた様に感じている。しかし、予てその走りの良さとかエンジンにしてもシャシにしても、先進メカニズムを率先して取り込んできたメーカーであることは確かなことだろう。だから、海外レースでは今やトヨタのラリーカーが活躍しているらしいが、ニッサンは何十年も前に輝かしい戦績を出しているし、国内のツーリングカーとかスペシャルモデルレースでは、トヨタなどを遙かに超える戦績を残して来た。

 ここで私見となるが、ニッサンとは見てくれは悪いが性能はトヨタより上行く車両メーカーという思いを持つところだ。このVR38も、今やトヨタなどはその資金力にもの云わせ、スープラ現行型などはBMW車にZ4ベースの双子車として作らしているが、そのBMWの最スポーツモデルM3のエンジンより遙かに高性能かつ安いんではないだろうか。こういう事例はニッサンだけでなく対トヨタで云えば、マツダとかホンダも同じ傾向があるし、軽4車両メーカーで云えば、トップメーカーはダイハツになるのだろうが、スズキに似た様なモノがある様に感じる。

 さて、本論のVR38エンジンだがR35(GTR)の最高速300km/h出せる能力を持つニッサンのスペシャルエンジンだ。このVR38だが、登場は2007年だから、既に登場以来15年を経る訳だが、2007年モデル480ps、2008年485ps、2011年530ps、2016年570psと基本は同じだが、リファインされつつ経過している様だ。

 ところで、ヤフオクの出品写真とか、各事故車オークションの損傷車写真というのは、未だ実物を見たことないとか、こういう損傷は珍しいとか新たな発見があって興味は尽きないものだ。そこで、今回添付し評価の元となる写真は、ヤフオクの出品写真より拝借したものだ。なお、完成エンジン単体写真はウィキペデアより拝借した。

 wikiの説明によるとシリンダーブロックは金型を使用した鋳造という表現となっているが、シリンダーブロックの写真を見るとブロック上面の状態は、ダイキャスト成型の特徴となるオープンデッキでなく、いわゆるクローズドデッキというもので、これは砂型鋳造でなければ成立しないものだ。またVバンクの上面を写した写真では、機械加工されていない素の表面から明らかに砂型だと判る。ただし、クランクシャフトの主メタルを固定するキャップ部分は、いわゆるロワブロックを形成する全キャップが連結されたラダー構造となっているのだが、この辺りの機械加工されていない表面はツルンとしておりこれは金型を使用していると判断できる。故に本VR38は金型を使用したダイキャスト成型でなく、一部金型を用しつつ砂型とミックスして素型を生成していると判る。

【参考過去ブログ記事】
クローズドデッキとオープンデッキとは? 2019-05-21
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/0b28e618b6b6dd32a432192af510a52d


 今やエンジンもダイキャスト成型したものが市販車ガソリンエンジンとしては大勢を占めるが、ダイキャストで作る場合、その金型コストを吸収するためには、相当数のエンジンを作る上において成立するものだ。このVR38はニッサンでもGTR専用エンジンンなので、その製造機数もしれたものであろうし、ダイキャスト化するメリットはないだろう。それと、wikiでも記しているが、オープンデッキよりクローズドデッキの方が、ブロック剛性は高くできるのは事実だろう。



 それと、VR38はアルミ製ブロックで、シリンダー内面はライナーレスだが鋼をプラズマコーティングして0.2mmの鋼被膜を持つと記されている。このアルミブロックでライナーレス、鋼で内面を仕上げるというのは、相当以前からポルシェやベンツでニカシル(ニッケル、シリコンをメッキ処理)というのがあった。今回のプラズマコーティングとは、アーク放電熱で飛物となる鋼を溶かし、それを被塗物となるシリンダー内面に吹き付ける様に塗る(コーティングする)、いわゆる溶射の一種だろう。この吹き付ける要素としてはエアーを使用しているのか、高電位の電荷で飛ばしているのか(塗装の静電塗装の原理)不明だが、何れにしても塗り込んで鋼膜厚付けをしているのだろう。ただし、wikiで記している0.2mmの膜厚というのは、最終仕上がり状態でのことで、実際には平均膜厚で0.4mm程度をコーティングし、そこから軽いボーリングとホーニングと呼ばれる砥石による切削により最終仕上げとクロスハッチ付けを行い所要の内径寸法に追い込んでいるのだろうと想像する。

【参考過去ブログ記事】
クロスハッチとは何か? 2017-11-13
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/99429f2818a2b77dab626c479c457dc0

 というのは、これはボデー表面のペイントスプレー塗装においてもそうなのだが、吹きっぱなしの乾燥硬化(実際には重合硬化)では、塗表面にラウンドという微少な凹凸が生じて、正規のシリンダー内面として求める厳格な寸法精度とか表面状態まで追い込むことは不可能となるだろうという理由からの想像だ。

 ここでトヨタ市販車で随一の性能を持つと思えるレクサスLFAのLRエンジンでは、こちらはターボなしのNAエンジンだが排気量は4.8Lで560psと結構なスペックだが、ピークパワー回転数8700rpmでトルが約49kg/7000rpmだ。VR38はツインターボ加給で570ps/6800rpm、トルク65kg/3300-5800rpmと出力はほぼ同等でトルクはターボ付き故に強力だ。実際のところ、走らせたら車重はGTRの方が重いだろうが、LFAなどより問題としない速さだろうし、ニスモ仕様だと600psになるというぐらいのチューン余裕がある。聞いたことないがLFAのV10の高回転時のサウンドは良いだろうが、性能では桁違いにVR38が上であろう。


 という感じでVR38を評価しているのだが、先にも記した様に、外観意匠デザインという面では、GTRの概観および内装共に到底において筆者の好みではないし、エンジンの概観機能美という感じも薄い様に感じてしまうが、性能はピカイチのものを持つのは確かだろう。同じ価格でポルシェやベンツに作れと云っても、到底できないのがニッサンの本骨頂たるところだろうと思うというとこで締めくくりたい。


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