山雑誌が見たくて、本屋で偶然手にした
『ユリイカ 吉野弘の世界』、予定外の買い物です。
吉野弘は、酒田市出身で昨年1月に87歳で亡くなりました。
吉野弘の出身高酒田商業も統廃合となり
誰もいない校舎で、時計だけが現在を刻んでいます。
『伝道』という詩は、宗教の勧誘をする若い娘が訪れたときの詩です。
「 ここは重い鉄の扉ばかりの団地だ
君は、どの扉へも
神をしのびこませることができなかったろう
《中略》
娘さん、私は神が必要なのに
私は言った
買っても読まないでしょうと 」(吉野弘伝道より一部引用)
吉野の詩は、戦後派の幾人かの詩人たちと同様に、その時代の良き部分を表しています。それは、経
済成長と平和の中で育まれ、幻想のように社会をぼんやりと覆っている秩序を構成するものかもしれま
せんが、大切な気がします。娘さんの背景にある状況を抱合しつつ、しかし、「買っても読まないでしょうと」。
詩人の普通の市民社会への共感の眼差しは、差別とかヘイトに何かしら分があるように公然と語られる
世相とは対極にあるものです、吉野弘なき今も。
(わたしにも神は必要かもしれない?でも同情で買ったとしても読まないだろう。「世の中を、人をまっす
ぐ見つめる」娘さん、それがわたしのあなたへの最低限の礼儀だ、ただ扉を叩くだけの君への。でもわた
しは決して君の方へは行かないだろう)
吉野弘に代って勝手ながら呟いてみます。
2012.4.28
新井田川の土手、吉野の過ごした頃、桜並木はあったんでしょうか。
『吉野弘詩集』、持ってたと思ったがどこを探しても見つからん、さてさて。酒田に文学碑はたくさんある
が、吉野弘の文学碑も建ててくれよ酒田市民ではないけど、という気持ちです。