ちょっとシリアス目指してみました。
時間軸としては二部後かな?
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不覚。
あたしは両手足をふん縛られ、猿ぐつわまで噛まされていた。
あたしとした事が...──盗賊いぢめ、失敗。
一時間前、あたしはいつものように宿をこっそり抜け出し(ついでにガウリイを眠らし)、近くの森をねぐらとする盗賊団を襲った。
攻撃呪文をぱかぱか撃って、誘き出した盗賊を大体しばき倒した後、あたしは悠々と宝がありそうな所を探していた...のだが。
「──おい」
背後から響く低い声にびくん、とする。
振り返れば、そこには一人の剣士が立っていた。
年の頃なら二十歳過ぎ。黒い髪を長く伸ばした、長身の男。全身髪と同じく黒ずくめ。軽めの装備は、ガウリイと同じくライト・ファイタータイプ。
でもたぶん、ガウリイよりは小さい。
彼はなかなかのハンサムで、その顔には怒りの色が浮かんでいた。
あたしは一つ深呼吸して、言った。
「あのぅ、あたし、道に迷っちゃったんですけどー。ここ、どこだかご存知ありません?」
意識的に高い声を出し、目を潤ませる。
──秘技、ぶりっ子!
が、彼には効かなかったらしい。
「悪いが嬢ちゃん、俺はあんたがさっき火炎球(ファイヤー・ボール)やら爆裂陣(メガ・ブランド)やらぶちかましてる所を見たんでな」
「うっ...」
彼は既に抜き身の剣を構えていた。
「俺はこの盗賊団の用心棒だ。悪いがこのままあんたを帰す訳にはいかねえ」
あたしも慌てて腰に差したショート・ソードを抜き放った。
あたしの勘では、手を抜ける相手ではない。
「光よ(ライティング)!」
「ぐあっ」
不意討ちで目潰しをしかける。が、彼はそのまま真っ直ぐ突っ込んできた。
──速いっ!
ガキンッ
彼の一撃をショートソードで受け止める。
が、あたしは押されていた。一撃が重いのだ。
──こりはヤバいかもしんない。
...実際、ヤバかった。
というわけで、魔道ではこれっぽっちも負けるつもりは無いが、力負けしたあたしはあっさりうち据えられ、気が付いたら捕まって身動きが取れない状態になっていた。
まさか奴がこんなに強いとは思わなかった。戦闘力ならガウリイには及ばずとも、あたしには完全に勝っている。
──くくぅっ、あたしのお宝さんがっ!
なんて言ってる場合ではない。命の危機である。
...が、何故あたしはこんな風に捕まっているのだろうか。それが疑問だった。
あたしはお宝を盗んではいない。盗賊たちを大半やっつけた事への復讐なら、あの場で殺してしまえばいい。
冷たい地面からなんとか起き上がり、辺りを見回すと、ここはどうやら蔵か何かのようだった。
防具やら荷物やら、良くわからないものがごろごろ積んである。
「目が覚めたか?」
声をかけられ、あたしは顔をあげた。
憎まれ口でも返したかったが、猿ぐつわがあるから「ふぬふぬ」としか返せなかった。
そこにいたのは、やはりさっきの用心棒。あまり盗賊らしくはない見た目なので、短期で金で雇われているのかもしれない。
「嬢ちゃん、もしかしてリナ=インバースって名前か?」
「......」
名前を知られている。怖いので、『イエス』とも『ノー』とも取られないように、ただ彼の目を見つめ返した。
「俺は...マルクという」
「ふぬ...」
返事がちょっとカッコ悪いのは勘弁願いたい。
「あんたがもし『盗賊殺し(ロバーズ・キラー)のリナ』なら、あんたの連れに男がいるはずだ。剣士、ガウリイ=ガブリエフ...」
「...!」
あたしは思わず目を見開いた。
まさかここでその名前が出るとは思わなかったのだ。
なにせ、自慢じゃないがあたしの名前は有名だ。それも悪い方に。
...だけど、ガウリイはそうではない。いつも名が出るのはあたしの方。
「俺は奴に復讐する。だから盗賊なんぞに雇われ時を待っていた」
「ふぬぬう...」
──我ながら気が抜ける返事である。
しかし、また『復讐』とは難儀な。ガウリイ君、一体何をやらかしたのだろうか...。きっと何か事件に巻き込まれて逆恨み──...とか?
考えていると、マルクは小さく笑った。
「その様子じゃあ、あんたが奴の連れで間違いねえようだな。...それにしてもあんたみたいな嬢ちゃんが『盗賊殺し』ねえ...」
「......」
近付いてくるマルクにあたしはずりずりと後ずさる。手足が使えない上に猿ぐつわ。厄介だ。
睨むあたしに、マルクは囁いた。
「あんたは知っててあいつと一緒にいるんだろうな?...あいつは人殺しだ。奴は、俺の大事な人を殺した。...だから、俺は奴の前であんたを殺そう」
「...!」
憎悪に満ちた瞳を目前に、あたしはどうすることも出来なかった。
続く
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続いちゃいました。
時間軸としては二部後かな?
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不覚。
あたしは両手足をふん縛られ、猿ぐつわまで噛まされていた。
あたしとした事が...──盗賊いぢめ、失敗。
一時間前、あたしはいつものように宿をこっそり抜け出し(ついでにガウリイを眠らし)、近くの森をねぐらとする盗賊団を襲った。
攻撃呪文をぱかぱか撃って、誘き出した盗賊を大体しばき倒した後、あたしは悠々と宝がありそうな所を探していた...のだが。
「──おい」
背後から響く低い声にびくん、とする。
振り返れば、そこには一人の剣士が立っていた。
年の頃なら二十歳過ぎ。黒い髪を長く伸ばした、長身の男。全身髪と同じく黒ずくめ。軽めの装備は、ガウリイと同じくライト・ファイタータイプ。
でもたぶん、ガウリイよりは小さい。
彼はなかなかのハンサムで、その顔には怒りの色が浮かんでいた。
あたしは一つ深呼吸して、言った。
「あのぅ、あたし、道に迷っちゃったんですけどー。ここ、どこだかご存知ありません?」
意識的に高い声を出し、目を潤ませる。
──秘技、ぶりっ子!
が、彼には効かなかったらしい。
「悪いが嬢ちゃん、俺はあんたがさっき火炎球(ファイヤー・ボール)やら爆裂陣(メガ・ブランド)やらぶちかましてる所を見たんでな」
「うっ...」
彼は既に抜き身の剣を構えていた。
「俺はこの盗賊団の用心棒だ。悪いがこのままあんたを帰す訳にはいかねえ」
あたしも慌てて腰に差したショート・ソードを抜き放った。
あたしの勘では、手を抜ける相手ではない。
「光よ(ライティング)!」
「ぐあっ」
不意討ちで目潰しをしかける。が、彼はそのまま真っ直ぐ突っ込んできた。
──速いっ!
ガキンッ
彼の一撃をショートソードで受け止める。
が、あたしは押されていた。一撃が重いのだ。
──こりはヤバいかもしんない。
...実際、ヤバかった。
というわけで、魔道ではこれっぽっちも負けるつもりは無いが、力負けしたあたしはあっさりうち据えられ、気が付いたら捕まって身動きが取れない状態になっていた。
まさか奴がこんなに強いとは思わなかった。戦闘力ならガウリイには及ばずとも、あたしには完全に勝っている。
──くくぅっ、あたしのお宝さんがっ!
なんて言ってる場合ではない。命の危機である。
...が、何故あたしはこんな風に捕まっているのだろうか。それが疑問だった。
あたしはお宝を盗んではいない。盗賊たちを大半やっつけた事への復讐なら、あの場で殺してしまえばいい。
冷たい地面からなんとか起き上がり、辺りを見回すと、ここはどうやら蔵か何かのようだった。
防具やら荷物やら、良くわからないものがごろごろ積んである。
「目が覚めたか?」
声をかけられ、あたしは顔をあげた。
憎まれ口でも返したかったが、猿ぐつわがあるから「ふぬふぬ」としか返せなかった。
そこにいたのは、やはりさっきの用心棒。あまり盗賊らしくはない見た目なので、短期で金で雇われているのかもしれない。
「嬢ちゃん、もしかしてリナ=インバースって名前か?」
「......」
名前を知られている。怖いので、『イエス』とも『ノー』とも取られないように、ただ彼の目を見つめ返した。
「俺は...マルクという」
「ふぬ...」
返事がちょっとカッコ悪いのは勘弁願いたい。
「あんたがもし『盗賊殺し(ロバーズ・キラー)のリナ』なら、あんたの連れに男がいるはずだ。剣士、ガウリイ=ガブリエフ...」
「...!」
あたしは思わず目を見開いた。
まさかここでその名前が出るとは思わなかったのだ。
なにせ、自慢じゃないがあたしの名前は有名だ。それも悪い方に。
...だけど、ガウリイはそうではない。いつも名が出るのはあたしの方。
「俺は奴に復讐する。だから盗賊なんぞに雇われ時を待っていた」
「ふぬぬう...」
──我ながら気が抜ける返事である。
しかし、また『復讐』とは難儀な。ガウリイ君、一体何をやらかしたのだろうか...。きっと何か事件に巻き込まれて逆恨み──...とか?
考えていると、マルクは小さく笑った。
「その様子じゃあ、あんたが奴の連れで間違いねえようだな。...それにしてもあんたみたいな嬢ちゃんが『盗賊殺し』ねえ...」
「......」
近付いてくるマルクにあたしはずりずりと後ずさる。手足が使えない上に猿ぐつわ。厄介だ。
睨むあたしに、マルクは囁いた。
「あんたは知っててあいつと一緒にいるんだろうな?...あいつは人殺しだ。奴は、俺の大事な人を殺した。...だから、俺は奴の前であんたを殺そう」
「...!」
憎悪に満ちた瞳を目前に、あたしはどうすることも出来なかった。
続く
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続いちゃいました。