どもです。あきらです。
今回は、『原稿用に書いたはいいけどなんか本のイメージにあってなかったのでボツにしたSS』をサルベージ、の巻です。よかったら読んでくだされ。
原作2部終了後のガウリナです~。
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パチパチジュウジュウと高温の油で揚げられていく衣付きの鶏。甘辛いソースの香り。そんなものを目の前にして、買わないという選択肢なんてあたしには無いわけで。
「おっちゃん、その揚げた鶏さんの奴、二本頂戴」
手際よくそれを露天に並べていくおっちゃんに向かって声を掛けたあたしに、おっちゃんは嬉しそうに笑う。
「あいよっ、お嬢ちゃん美人だからオジサンまけちゃう!」
「やったー♡ ありがとおっちゃん!」
串に刺さったそれを二本、受け取ったあたしは颯爽と店を後にした。
「やっぱり市場でする食べ歩きは最高よね……」
言って、パリパリに揚がった鶏さんの皮に齧りつくあたしに、自称保護者ガウリイ君は呆れたように肩を竦める。
「さっき朝飯食べたばっかりだろうが」
「ガウリイだって食べてるくせに何言ってんのよ?」
「……まあ、旨いからなあ。せっかくだし」
朝。少し早めに起きたあたし達は、食堂でとりあえずの腹ごしらえを済ませてから街へと繰り出した。昼頃まで開いているというこの街の市場は、沢山の店と行き交う人々で活気に溢れている。今買った揚げた鶏だけでなく、ほくほくのポテトや甘くて冷たいスイーツなどなど、食べ歩きにも事欠かなさそうだ。
「目当てはマジックショップの露店なんだろ?」
「まあね。けどほら、こういうのは楽しんでナンボでしょ?」
――少し前の戦いで、だいぶ痛んでしまった防具やマント、その他諸々。立ち寄る街で少しずつ買い足してはいるものの、使い勝手の良さや丈夫さなど、理想に近いモノがあれば買い替えたい所だった。
「普通に店で買っても良いけど、マジックショップが市場で露店出してる時って、中古を安売りしてる時が多いのよね」
「ふうん?」
「そしてその中にお宝が混じってる時がある!!」
商売人の娘としては、そんなお得なチャンスを見逃すわけにはいかないのである。
「へえー」
「……絶対聞いてないわね」
生返事を繰り返すガウリイをジト目で睨むと、彼は慌てたように手を振って。……その手には、彼がぺろりと食べ尽くしてしまった、揚げた鶏さんの串がある。
「いや、そんな事ないって。……あ、ほらアレじゃないか?」
指さした先には、確かに目当ての店があった。
◇
「ありがとうございました……」
不愛想にぼそりと掛けられた声を背中に、あたし達は店を後にする。――まあ、商品を散々漁っておいて、安い小物を一点しか買わなかったので、それも仕方ないかもしれないけど。
「で、どうだったんだ?」
相棒の問いに、あたしはにまりと笑って見せる。
「ふふん、良い買い物したわ」
捨て値同然の価格で売られていたグローブは、一見安っぽいが手触りからして上等な素材を使っていた。これなら、少々荒っぽい魔法を使った所で、焦げて穴が空いたりはしないだろう。
「そっか、そりゃ良かったな」
にこりと笑って。ポン、と頭に置かれた手。あたしはそれに笑って。――それと同時に、どうしようもなく切ないような、苦しいような感情に襲われた。
明るく晴れた空。暑くも寒くもない、過ごしやすい空気。活気のある、危険の無い街。良い買い物が出来て、笑って隣を歩く相棒が居る。
その、あまりにも満ち足りた空気。それを今、あたしが持っているのは間違いなく、あたしが幸運だったからなのだ。……ただ、それだけ。
「……リナ。どうした?」
「ううん、なんでもない。じゃ、行きましょうか」
急に黙り込んだあたしを不審に思ったのか、覗き込んでくるガウリイに向かって、あたしは笑って首を横に振る。
――大丈夫。あたしは大丈夫。言い聞かせるみたいにして念じても、あたしの笑顔はきっと無理しているように見えたかもしれない。
魔族が居る、戦争がある。そんな世の中で、あたしが今生きているのは、確かにあたしが必死に勉強して、魔道を覚えたからで。戦う事だって覚えたからで。今目の前にあるモノがそんなあたしが掴み取ったモノなのは間違いが無い訳で。……だけど、だけど。その上で、あたしがミリーナでもルークでもなかったのは、ただ運が良かったから。ガウリイが居てくれたから。そのガウリイが生きているのも、また……——。
ふと、そんな事を考えるようになった。それも決まって、今みたいに、平穏で満ち足りた時に。
「なあ、お前さん」
暫くぶらぶらと市場を歩いていれば、不意に頭の上から言葉が降ってくる。あたしとした事が、少しぼうっとしていたらしい。いつの間にか露店の店構えが先ほどと変わっている。どれくらい歩いたのだろう。
「……ん、何?」
「ほら」
差し出されたのは小さなペンダント。丈夫そうな革紐に、シンプルながら陽光を受けて煌めく石が付いている。マジックアイテムじゃなくて、きっとこれはアクセサリー。
「どしたの、これ」
「さっき見かけてな。お前さんにやるよ」
微笑んだガウリイは、その指であたしの首元の辺りを指した。
「……ずっと着けてた奴、無くなって寂しくなっちまったからなあ」
ルーク、いや、魔王との戦いで失われたタリスマン。
――タリスマンによる魔力増幅の力は大きくて、それが失われた事はだいぶ痛手だ。……だから、この綺麗なペンダントは戦力としては全く代わりになんてならないだろう。
けど。心細さは、だいぶ楽になったかな?
「ありがとね、ガウリイ」
今度はちゃんと心から笑ってみせて、あたしは自称保護者の手を取った。
「ね、露店が閉まる前にフルーツジュースの店に行きましょ! さっき見たけど凄く美味しそうでね」
「おう、いいな」
軽快に石畳の地面を踏みしめていく。――あたしの足は、まだ先へ進める。自称保護者で、旅の相棒の、ガウリイが一緒に居れば、きっと大丈夫。
「おっちゃん、その揚げた鶏さんの奴、二本頂戴」
手際よくそれを露天に並べていくおっちゃんに向かって声を掛けたあたしに、おっちゃんは嬉しそうに笑う。
「あいよっ、お嬢ちゃん美人だからオジサンまけちゃう!」
「やったー♡ ありがとおっちゃん!」
串に刺さったそれを二本、受け取ったあたしは颯爽と店を後にした。
「やっぱり市場でする食べ歩きは最高よね……」
言って、パリパリに揚がった鶏さんの皮に齧りつくあたしに、自称保護者ガウリイ君は呆れたように肩を竦める。
「さっき朝飯食べたばっかりだろうが」
「ガウリイだって食べてるくせに何言ってんのよ?」
「……まあ、旨いからなあ。せっかくだし」
朝。少し早めに起きたあたし達は、食堂でとりあえずの腹ごしらえを済ませてから街へと繰り出した。昼頃まで開いているというこの街の市場は、沢山の店と行き交う人々で活気に溢れている。今買った揚げた鶏だけでなく、ほくほくのポテトや甘くて冷たいスイーツなどなど、食べ歩きにも事欠かなさそうだ。
「目当てはマジックショップの露店なんだろ?」
「まあね。けどほら、こういうのは楽しんでナンボでしょ?」
――少し前の戦いで、だいぶ痛んでしまった防具やマント、その他諸々。立ち寄る街で少しずつ買い足してはいるものの、使い勝手の良さや丈夫さなど、理想に近いモノがあれば買い替えたい所だった。
「普通に店で買っても良いけど、マジックショップが市場で露店出してる時って、中古を安売りしてる時が多いのよね」
「ふうん?」
「そしてその中にお宝が混じってる時がある!!」
商売人の娘としては、そんなお得なチャンスを見逃すわけにはいかないのである。
「へえー」
「……絶対聞いてないわね」
生返事を繰り返すガウリイをジト目で睨むと、彼は慌てたように手を振って。……その手には、彼がぺろりと食べ尽くしてしまった、揚げた鶏さんの串がある。
「いや、そんな事ないって。……あ、ほらアレじゃないか?」
指さした先には、確かに目当ての店があった。
◇
「ありがとうございました……」
不愛想にぼそりと掛けられた声を背中に、あたし達は店を後にする。――まあ、商品を散々漁っておいて、安い小物を一点しか買わなかったので、それも仕方ないかもしれないけど。
「で、どうだったんだ?」
相棒の問いに、あたしはにまりと笑って見せる。
「ふふん、良い買い物したわ」
捨て値同然の価格で売られていたグローブは、一見安っぽいが手触りからして上等な素材を使っていた。これなら、少々荒っぽい魔法を使った所で、焦げて穴が空いたりはしないだろう。
「そっか、そりゃ良かったな」
にこりと笑って。ポン、と頭に置かれた手。あたしはそれに笑って。――それと同時に、どうしようもなく切ないような、苦しいような感情に襲われた。
明るく晴れた空。暑くも寒くもない、過ごしやすい空気。活気のある、危険の無い街。良い買い物が出来て、笑って隣を歩く相棒が居る。
その、あまりにも満ち足りた空気。それを今、あたしが持っているのは間違いなく、あたしが幸運だったからなのだ。……ただ、それだけ。
「……リナ。どうした?」
「ううん、なんでもない。じゃ、行きましょうか」
急に黙り込んだあたしを不審に思ったのか、覗き込んでくるガウリイに向かって、あたしは笑って首を横に振る。
――大丈夫。あたしは大丈夫。言い聞かせるみたいにして念じても、あたしの笑顔はきっと無理しているように見えたかもしれない。
魔族が居る、戦争がある。そんな世の中で、あたしが今生きているのは、確かにあたしが必死に勉強して、魔道を覚えたからで。戦う事だって覚えたからで。今目の前にあるモノがそんなあたしが掴み取ったモノなのは間違いが無い訳で。……だけど、だけど。その上で、あたしがミリーナでもルークでもなかったのは、ただ運が良かったから。ガウリイが居てくれたから。そのガウリイが生きているのも、また……——。
ふと、そんな事を考えるようになった。それも決まって、今みたいに、平穏で満ち足りた時に。
「なあ、お前さん」
暫くぶらぶらと市場を歩いていれば、不意に頭の上から言葉が降ってくる。あたしとした事が、少しぼうっとしていたらしい。いつの間にか露店の店構えが先ほどと変わっている。どれくらい歩いたのだろう。
「……ん、何?」
「ほら」
差し出されたのは小さなペンダント。丈夫そうな革紐に、シンプルながら陽光を受けて煌めく石が付いている。マジックアイテムじゃなくて、きっとこれはアクセサリー。
「どしたの、これ」
「さっき見かけてな。お前さんにやるよ」
微笑んだガウリイは、その指であたしの首元の辺りを指した。
「……ずっと着けてた奴、無くなって寂しくなっちまったからなあ」
ルーク、いや、魔王との戦いで失われたタリスマン。
――タリスマンによる魔力増幅の力は大きくて、それが失われた事はだいぶ痛手だ。……だから、この綺麗なペンダントは戦力としては全く代わりになんてならないだろう。
けど。心細さは、だいぶ楽になったかな?
「ありがとね、ガウリイ」
今度はちゃんと心から笑ってみせて、あたしは自称保護者の手を取った。
「ね、露店が閉まる前にフルーツジュースの店に行きましょ! さっき見たけど凄く美味しそうでね」
「おう、いいな」
軽快に石畳の地面を踏みしめていく。――あたしの足は、まだ先へ進める。自称保護者で、旅の相棒の、ガウリイが一緒に居れば、きっと大丈夫。