ゆるい感じで。

「スレイヤーズ」のガウリナメインの二次創作ブログサイトです。原作者様、関係者様には一切関係ございません。

white veil(ガウリナ)

2019-02-24 22:39:51 | スレイヤーズ二次創作
昨年春コミで頒布したガウリナ本の書き下ろし短編、二作目です。

未来の二人。二人の幸せを夢見て。

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 ――それはまるで、夢を見ているみたいに現実感が無くて。ふわふわと足取りがおぼつかなくて、胸がいっぱいで。
 顔が熱い。なんだか涙腺が熱くて、悲しくもないのに泣きそうになって、なんとかそれを抑え込んで。……オレはどうやら、今、『幸せ』というやつに直面しているらしい。



 あたしの視界は今、ひらひらとした白でうっすらと滲んでいた。
 ステンドグラスから赤や青のカラフルな光が差し込んで、教会の床をきらきらと彩っている。静かで澄んだ空気がその場を満たして、いくつも感じる、喜びと好奇心を湛えた視線。神々しく祀られた、の像。
それらを全部、あたしは薄くて白いベールの向こう側に見ている。

 珍しく正装した父ちゃんの腕を取って、あたしは紅い絨毯の上をゆっくりと歩いた。着なれないまっ白なウエディングドレス、履きなれないヒールの靴に足元がおぼつかなくて、あたしはあたしのつま先を見つめる。
「――リナ」
 あたしにしか聞こえないような小さな声で、父ちゃんが囁いた。視線をつま先から目の前に移す。白いベールの向こう側で、笑顔の相棒が立っていた。
 白い手袋越しに、手を触れる。温かい手。ベール越しに見えるガウリイのブルーの瞳が、少しだけ潤んでいるように見える。

 神官様の言葉を聞きながら、あたしはずっとガウリイと出会った頃の事を考えていた。あの頃、あたしは今よりもずっと幼かった。年齢だけでなく、心もきっと、幼かった。彼と旅をするようになって、あたしは自分の未熟さを知ったし、人と共に生きる難しさと楽しさを知って。そうして気付かぬ間に得ていた、誰かに背中を預ける事が出来る幸せを、あたしは今になって噛みしめている。
 ――ばあちゃんの遺言なんだ。女子供には優しくしろってね。
 いまだに鮮明に思い出せる、彼の声。あたしは、初めて共に旅した人がガウリイで良かった。人を見る目には自信があった。それでも、共に旅しなければ分からなかった事が沢山あって。
 こんなにあたしを信じてくれた人を、こんなに「信じられる」と思えた人を。あたしは家族以外には知らない。

 指輪の交換に、ガウリイがあたしの手袋をそっと外した。冷たい空気に触れて、小さく肩を竦ませる。でもすぐに、温かいガウリイの手に守られる。すぐに、薬指に嵌めた銀色の指輪が輝いた。
「それでは、誓いのキスを――」
 向き合ったガウリイの、薄い葡萄色のタキシード。ゼフィーリアらしいと言ったのは姉ちゃんだっけ。……あああ、なんだか恥ずかしくなってきた。
「リナ」
 そっと、ガウリイが掠れた声であたしを呼んだ。
 そんな声で呼ばれてしまったら、あたしは顔を上げるしかない。――なんで貴方の方が、泣きそうな顔してんのよ。
 思わず苦笑してしまいそうになって、それと同時に、あたしも胸の奥が締め付けられて。ベール越しのブルーの瞳が揺れている。そんなガウリイに、あたしは分かりやすく口角を上げてにっと笑って見せた。ほら、晴れの舞台なんだから。

 彼がベールを外しやすいように、あたしはそっと目を伏せた。ゆっくりとベールを持ちあげる手の熱を、触れていないのに感じる。彼の傍にいると、安心する。
「……、」
 頬を撫でる風を感じて、あたしは瞼を開いた。すぐに目に映る、ガウリイの顔。さっきよりももっと鮮明に。鮮やかな金色と、潤んだ空色。
「――ガウリイ」
 小さく、小さく呼んで、あたしは目をもう一度閉じた。



 昨日までの雨が嘘だったみたいに、空が気持よく晴れている。世界がオレ達を祝福しているみたいだ。そう言ったら、たぶんリナは恥ずかしがって、照れ隠しに怒るのだろう。確かに、ちょっとらしくない言い回しかもしれない。
 隣で笑うリナの白いウエディングドレスは、今、淡いピンクやブルーの花弁でいっぱいになっていた。世界一綺麗だと思う。――ああ、オレ、今日は本当に浮ついているかも。
「おめでとう!」
 今日何度言われたかわからない言葉に、オレはまた返す。
「ありがとう!」
 それだけでまた一つ幸せになった気がする。我ながらなんて単純なんだどう。――でも、今日くらい、良いじゃないか。
「ねえガウリイ」
「どうした?」
 緊張と興奮でか少し上気した頬のリナが、これ以上ないくらい、輝く笑みを浮かべてオレの手を取った。
「ウエディングケーキ、セイルーンの職人に頼んで特注で作ってもらったんですって。食べに行きましょ!」
「……ああ、そりゃ楽しみだな」
 甘い匂いがする。隣で、ドレスがキツイからあんまり食べられないかも、なんて不満を口にするリナの横顔が眩しい。この日の為に来てくれた、知り合いの顔がケーキを囲む人々の中に見える。
 これ以上ないくらい、鮮やかな世界で。オレは、今確かに幸せを感じていた。

さよならモノトーン(ガウリナ)

2019-02-24 22:22:37 | スレイヤーズ二次創作
お久しぶりでございます。あきらです。皆さまご機嫌うるわしゅう!
すっかり更新ご無沙汰しておりまして、申し訳ございません。ブログタイトル通りゆるい感じの更新してるなーと我ながら呆れる遅さ……やれやれ。
さてさて、この度。昨年の春コミにて頒布したガウリナ本『君と見る世界は鮮やか。』にて書き下ろした短編二編を、一年経ったということで、公開してしまおうと思い立ちまして。

……というわけで、この記事と次回の記事で丸々公開致します。
頒布したガウリナ本自体はまだ在庫が少部数ありますので、こちらのブログのコメント欄かツイッターのDMあたりにご連絡頂ければ通販のご案内をさせて頂きますね!私に知られたくないけど本は欲しい…という方はこちらから通販ページに飛んでくださいませ。

ではでは、SSは追記からどうぞ。ちょい長いです。
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 ばあちゃんが死んだと聞かさたその日、オレの世界は一瞬にして色を失くした。

 すべてが白か黒か、そしてグレーに彩られた世界で。オレは兄貴から淡々と告げられたばあちゃんの死を、受け止めきれずにただ黙り込むことしか出来なかった。

「――まあ、イイお歳でしたしね。天寿を全うされたのよ」
 母さんも、親戚も、皆が口を揃えて似たような事を言う。そして、父さんはそんな言葉すらも口にはしない。ただ、何も言わずに葬式の手配をして、墓を作って。そしてそのまま世界はまたそれまでと同じように回り始めた。オレだけを取り残して。

 ばあちゃん、なんで死んだんだ。どうして。
 そんな事を思って一人、部屋で呆然とするオレは、家族の中では異端だったらしい。それがとても哀しくて、なんだか悔しくて。どうすればいいのかもわからないまま、オレは色を失くした世界で立ち尽くしていた。いつまでも、いつまでも……――。

「ガウリイ」
 ふと、聞きなれた声で名前を呼ばれた。少女らしく高いのに、凛として心地の良い声。名前を呼ばれると、安心して、それと同時に心が揺れる声。
「ガウリイってば!」
「……っ!」
 ぱちん、と頭の中で風船がはじけたみたいにして、オレは唐突に目を覚ました。
目に映った、眩しくて鮮やかな世界に頭が一瞬混乱する。まだ、枕に頭を持たせたままのオレを覗き込む、リナの顔。
 ――そうか。夢か。
「やっと起きた。なんか魘されてたみたいだけど、だいじょーぶ?」
 心配そうな顔をするリナに、オレは内心頭を掻いた。――やっちまった。
「ああ。大丈夫だ。ちょっと嫌な夢見てさ。――リナ、おはようさん」
 起き上がって、なんでもないと笑って見せる。ふわあと大きく欠伸と共に伸びをすれば、リナはやっと安堵したように笑った。
「うん。おはよ」
 パジャマ姿のオレとは違って、リナは既に旅の服に着替えている。
「朝飯、どうした?」
「まだ。早く食堂行きましょ、あたしもうお腹ぺこぺこなんだから」
 どうやらオレを待っていてくれたらしい。それになんだか嬉しくなりながら、オレは荷物から着替えを探した。窓から差し込む日差しは明るい。今日はよく晴れている。
「それじゃ、すぐ行くから先に食堂行っててくれよ」
「オッケー」
 早く来ないとガウリイの分もご飯食べちゃうからね。そんな事を言いながら、軽やかな足取りでリナはオレの部屋を出て行った。
 リナの栗色の髪がなびく背中を見送りながら、思う。――ばあちゃん。オレは、やっと白黒の世界から抜け出せたんだ。ばあちゃんを失ってからずっと、白黒だった世界から。


「ガウリイ、此処よ」
 食堂に降りたオレに声を掛けたリナは、既にテーブル席に頼んだメニューの皿を並べて、それを片っ端から平らげていた。これはオレも負けていられない。
 リナの向かいに座って、店員のおばちゃんを呼んだ。
 残念ながらバリエーションの少ない料理のメニュー表を開いて、その半分くらいを指差して見せる。まあ、文句を言う程でもない。宿屋に併設した食堂ならこれくらいが普通だろう。――ポタージュスープに、目玉焼きとウィンナー、スクランブルエッグと硬焼きのパン。それとコールスローのサラダ。コーヒーはサービスで。鶏と野菜のスパゲッティはこの時間だとまだやっていないらしい。
「こっからここまで、全部二人前で」
「にっ……!? いえ、承知しました」
 おばちゃんはぎょっとして、オレとリナを交互に何度か見つめてから、そのままカウンターの奥へと引っ込んだ。この反応も慣れっこだ。

 オレの注文が終わったのを見てとると、リナは食事が一段落着いたのかホットのミルクを小さく啜った。
「ね、聞いていい?」
 静かに、ちょっとだけ躊躇いがちに、リナは聞いた。聞いて良いのかわからないけれど、でも気になっているというような。そんな顔でオレを見詰める。
「何を?」
 なんとなく、何を聞かれるのかは分かっていた。
「今朝、どんな夢見たの?」
 やっぱり。でも、別に嫌ではなかった。リナになら、教えてもいいと思える。昔の夢。
「んー。ばあちゃんが死んだ日の夢」
 リナはオレの返事にちょっとだけ黙って、それからそっと頷いた。
「そっか」
「うん」
 それからすぐに頼んだ料理が運ばれてきたので、会話は中断される。ポタージュスープを啜ると、とても優しい味がした。

 リナと居ると、食事が美味しい。それは、リナと旅をすると体力を使うからかもしれない。……何故だかいつも変な事件に巻き込まれるし、魔族なんかと戦う時だってあるし。とにかく腹はよく減る。そして、リナは本当に美味そうに飯を食う。
 目の前で目玉焼きに齧り付くリナを見て、オレはしみじみとそう思う。
「……なによ?」
 オレの視線に不審な顔をして、リナは噛み切った目玉焼きを咀嚼する。そしてピンク色の唇に付いた、半熟卵の黄身をぺろりと舐めた。
「いや、美味そうだなーと思って」
 ――色んな意味で。
「あげないわよ」
「オレも頼んだからいらん」
「ならよし」
 今度はソーセージにフォークを突き刺したリナから視線を移して、オレはサラダをフォークでひと匙すくって口に運んだ。酸っぱい味付けのおかげで、目が覚める。
「……ガウリイのばあちゃんってさ、どんな人?」
 今度はパンを齧った所で、リナが不意にそう聞いた。オレはどう答えたものかと、考えながら口の中のパンを噛んで飲み込む。脳裏に浮かぶ懐かしい影。
「そうだな。怒ると怖くて、でも優しかった」
「へえ」
「それで、色んな事をオレに教えてくれたんだ」
 そこまで答えたら、リナはふと何かを思い出したように笑った。
「そういえば、初めて会った時。――女子供には優しく。それがばあちゃんの遺言……みたいなこと、言ってたわよね」
「そうだっけ?」
 そういえば、オレはそんなことをリナに言ったろうか。でも、それは確かにばあちゃんの遺言だ。出来る限り、オレはそれをずっと、守ってきたつもりだ。
「そうよ。……他には、なんかないの? ばあちゃんからの教え」
 なんだか妙に興味深げに聞いてくるリナに、オレはちょっとだけ焦る。いつもなら、『忘れた』と言ってしまえば済むのに、今回ばかりはそれが許されない気がして。――いや、オレがそうやって済ませたくないだけかもしれない。なんとなく。
 そうだ、今朝あんな夢を見たせいかもしれない。
「……強くなれ」
 ――強くなりなさい。守りたい人が出来た時に、その手でちゃんと守れるように。自分の弱さに後悔しないために。
 ばあちゃんの言葉の意味を、今になって強く噛みしめる。オレは、リナを守れる程に、強くなれているだろうか。
「強くなれ、かあ」
 考えるように何度か頷くリナは、何を思っているのだろうか。腕組をしてそんなふうに考え込むリナの姿は、何故だかばあちゃんにそっくりに見えた。
「そう。それに、好き嫌いせず食えってさ」
「……そっちの方は全然ダメじゃない。昨日もピーマン残して」
 にやりと笑って、リナはオレの頬をつんつん突く。やめい。
 仕方が無いので、オレはこほんと咳払いして、重々しく宣言した。
「約束とは、破られる為にあるのだ」
「えらそーに言うな!」


 今日も今日とて、また旅を続ける。新たな地に向かうために、足を進める。……まあ、オレは目的地とか、よく分かってないんだけどな。
「ガウリイ、次の目的地がどこか覚えてる?」
 そんなオレに、リナは決まってそう尋ねる。毎度毎度律義だなあ。
「はっはっは、覚えてるわけないじゃないか」
 朗らかに笑えば、リナはどこから取り出したのかわからないスリッパで、オレの頭を軽くはたいた。ぱしーんと軽快に響く音。
「はあ、もう。この脳みそ温泉たまご……」
「美味しそうだな」
「うーるーさいっ! 今日はヴェゼンディ・シティまで行くって昨日話したでしょーがっ」
「それじゃ覚えてないはずだ」
「……もー突っ込まないからね」
 いつものやりとりを終えて、また歩き出す。リナの隣を歩ければ、オレはなんだっていいのだ。それを言ったらリナは怒るかもしれないけど。
 明るい日差しが木々の間から差し込んで、リナの明るい髪の色を暖かそうに照らし出す。綺麗だな、と思う。いつか素直に、彼女にそう伝えられる日が来るだろうか。

「ガウリイ、見て」
 不意にリナが目の前を指差した。道の開けた先に、煌めくブルーの海が見えた。
「綺麗」
「……ああ」
 本当に、綺麗だ。リナと一緒にいると、世界がカラフルで、鮮やかで、そして綺麗に見える。例え、綺麗とは言えないような、酷い事があっても。辛い目にあっても。……それでも世界には綺麗なものがあると、ちゃんとそう思える。
 それは十分すぎる程幸せなんじゃないか? そう思ったら、なんだか不意に泣きそうになって、オレは慌てて頭を振った。
 何を感傷的になってるんだろう、オレは。

「――なあ、リナ。ゼフィーリアって、どんな所だ?」
「な、な、なによ急にっ!」
 この話題になると途端に顔を赤くするリナは、あたふたしながら歩くペースをちょっとだけ早める。オレは笑って、その後を追う。リナの黒いマントの裾が、風でひらひらとはためいた。
「……そうね、今の時期、緑が凄く綺麗な所よ」
「そうかあ。早く、見てみたいな」
 きっと、綺麗な所なんだろう。リナが育った故郷。そして、リナを育てた人達がいる街。知りもしないのに、想像の中でゼフィーリアは鮮やかに描かれる。
 ――ああ、ばあちゃん。
 頭の中まで、オレは。白黒の世界から抜け出せたみたいだ。