どもです。あきらです。
2019年8月25日のスレイヤーズプチオンリー『ドラスレ警報発令中!』にて【みけねこ本舗】様より頒布されたガウリナアンソロジー、『にこいち。』に寄稿させて頂いた作品を、この度掲載許可頂いたので、掲載しちゃいます…!
(説明が長くてすみません…笑)
こちら豪華作家陣の小説あり、漫画あり、美麗イラストあり、で最高のアンソロ本になっております。まだお買い求め頂けるようなので、気になる方はぜひ~!というわけで通販ページのリンクを貼るわよ!!→
ガウリナアンソロジー『にこいち。』素敵な企画に参加させて頂いてありがとうございました(∩´∀`)∩
ではでは、以下寄稿させて頂いた私の拙作です~。
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夜明けが近い。
まだ宵闇に染まる海沿いの街道を、あたしとガウリイは並んで歩いていた。活気のある昼間とは違って、ひとけのない道はしんと静かで、少しだけ肌寒い空気は澄んでいて綺麗だ。
こんな夜中なのにベッドに身を預けていないのは、少し前まで森の中を彷徨っていたからだった。
――勘違いしないで欲しいのは、別に森の中を彷徨っていたからと言って迷子になっていたわけでは無い。
決して、ちょーっと盗賊いぢめに精を出したら森の一部を丸焦げにして近隣住民から追い掛け回されたとか、あたしの鋭すぎる勘によって選ばれた分かれ道の一方が盛大に間違っていたとか、そんなことはない。……ないったら。
……まあ良い。そんなわけで、あたしたちはようやっと暗くてじめじめした森を抜けて、目的地へと向かう街道に出られたのである。さっきまでとっぷりと深い闇に沈んでいた道行きも、あと少しすれば朝日に照らされるだろう。うっすらと夜の闇が端からオレンジ色に溶け始めていた。
「……はぁー、腹減った」
「おなじく。あとお風呂入りたい。ふかふかのベッドで寝たい」
「右に同じだな……」
歩き通しでくたくたなあたしたちは、ぶつくさと現状への不満を口にしながら、重い足取りを一歩一歩前へと
動かしていく。――まあ、旅というものは大体こんなもんである。
「次の街まであとどれくらいだ?」
「そうね。森は出られたんだし、あと半日も歩けば街の港が見えてくるはずよ」
「半日……」
遠い目をする相棒の背中を無言でぱしりと叩いてやる。彼のぼさぼさと乱れた金髪は、なんだか雨に濡れた犬みたいな臭いがした。……あたしもきっと似たような物だろう。一晩森の中を歩き通しだったのだから仕方がない。
――ああ、早くお風呂で身体を清めたい。携帯食料は底をついてしまったし。路銀だけは、盗賊たちからたっぷり頂いたから困っていないけれど。ついでに徴収したクズ宝石の類は、重いから早く加工して売り捌いてしまいたいし。あ、そろそろマントも新調したいかもしれない。それから、それから……。
そうしてつらつらと思い浮かぶ考えに耽っていたあたしは、不意に、隣を歩いていた相棒がいない事に気が付いた。
「っ、ガウ……」
慌てて振り返れば、少し後ろで立ち止まって、海を眺める相棒の姿がちゃんとあって。あたしはそれにホッとする。そしてその横顔が、金色に照らされている事に気が付いた。
夜が明けたのだ。
「リナ」
海の方を向いたまま、彼があたしの名前を呼んだ。
「見ろよ、日が昇ってる」
眩しいくらいに輝く世界の中で、ガウリイがそんな当たり前の事を言う。彼が指さした方に目を向ければ、確かに今この瞬間、水平線から丸い光が徐々に浮かび上がる。深い紫色と金色のグラデーション。
――まるで、世界の始まりを見ているみたいだ。
なんとなく、そんな事を思った。
今、そんな静かで幻想的な空間に、二人ぼっち。
「綺麗だなあ」
「……そうね」
なんだか胸がざわざわして落ち着かなくて、あたしは苦笑する。雰囲気に呑まれるとはこういうことか。
――ロマンチック! なんてキャーキャー騒ぐのは柄じゃない。けれども、あたしだって乙女なのだから、仕方がない。うん。
「なあ、リナ」
昇っていく太陽を眺めていたガウリイが、不意にこちらを向いた。
「何?」
そのアイスブルーの瞳が、朝日を受けていつもより淡い色に輝いている。
「……愛してる」
いつもと同じ優しい声。そして柔らかい笑みにどきりとする。
「――はは、なんてな。急に恥ずかしい事言っちまった。柄じゃないな」
すぐにそう照れたように笑って、彼は片手でがしがしと自分の頭を掻いた。その困ったような笑顔に、あたしは胸がぎゅっとする。
嬉しい気持ちと、照れくささと、そしてほんの少しだけ切ないような、泣きたくなるような、そんな不思議な気持ち。
なんだかたまらなくなって、あたしは目の前の自称保護者に飛びついた。
「うわっ」
間の抜けた声を上げる相棒の腕に思い切り抱き着いて、彼の顔を見上げる。
「ほんと、なーに気障な事言っちゃってんのよ、ガウリイってば!」
「はは、ほんとにな。なんか、この景色があんまり綺麗だったからさ。雰囲気に流されちまったかな……」
苦笑する彼は、どうやらあたしと同じく、この雰囲気に呑まれてしまったようで。
――日の出。『マジックアワー』なんて言われるくらい、世界が美しく黄金色に輝く十数分。海までが光を反射して金色に揺蕩っている。それを眺めて、あたしは何か懐かしい光景を思い出しそうになって、頭を振る。今は、それはどうでもいい。
「なによう、じゃ、今の言葉は雰囲気に流されて出た嘘なわけ?」
口を尖らせたあたしの軽口に、彼は慌てたように首を横に振った。
「そんなわけないだろっ!」
その思いのほか必死な否定に思わず笑ってしまう。
――そっかそっか、そんなにガウリイ君はあたしの事が大好きか。そんなに言われちゃあ仕方がない。
「……へへ。じゃ、許す」
背伸びして、あたしは彼の頬に軽く触れるだけのキスをした。チュッと小さな音がして、少しだけこそばゆい。呆けたような顔をするガウリイに、あたしはにっと微笑んでみせる。
「あたしも。大好き」
言って、その瞬間あたしは彼の腕から手を離して駆けだした。
「あ、ちょっと、待てよリナっ」
「待たないーっ!」
彼の顔が見られない。一瞬前の自分の出来心に顔が熱くなって、気恥ずかしさに爆発しそうで、全速力でその場から逃走を図る。
金色に輝くマジックアワーの世界で鬼ごっこ。ロマンチックが台無しである。
でも、それでも良いのだ。
――だって、彼ならば、あたしを追いかけて来てくれると、信じているから。
走って、走って、時に歩いて、しんどくたって、ずっと傍にいる。
あたしたちの旅は、ずっとそうやって、これからも続くのだから。それで良い。
「ガウリイー!」
「なんだあーっ!?」
「先に街に着いた方が勝ち、ね!」
「急にそれはずるいぞリナっ」
後ろから聞こえる彼の情けない声に笑い声を上げる。
上がっていく息も、早くなる鼓動も。身体をなぶる冷たい風さえも、なんだか心地が良くて。あたしは緩んでしまう頬を抑えられずに、二人分の足音を耳にしながら
世界を駆けていくのだった。