privatterより再掲。ワンライ参加作品です。
コタツに鍋とハーゲンダッツ。社会人ガウリイと大学生リナ。
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ぴんぽーん。
古いせいで少し調子はずれなインターホンの音が響いて、あたしは読んでいた文庫本をぱたりと閉じた。――来た。
「はいはーいちょっと待って~」
立ちあがって、寒いので近くにあった上着を一枚羽織る。玄関のドアを開けたら、そこに居たのは予想通りガウリイだった。いつもの笑顔に見慣れたスーツ姿。そんな彼の吐く息は白い。――この寒いのにコートじゃなくてジャケットとマフラーで済ますだなんて、あたしとしては信じられない。
「よお、リナ」
「いらっしゃい。お疲れ様」
早く入って、と促せば彼は頷いて玄関に足を踏み入れた。少しの間ドアを開けただけなのに、外の冷気が玄関の温度を一気に下げる。けど、ガウリイのおかげで熱源が一人増えた。
「今日仕事だったんでしょ? 休みの日なのに御苦労な事ね~」
「年末はどうしてもなあ」
肩を竦めて笑って、彼は手に提げていたスーパーのビニール袋をあたしに差し出す。受け取ったそれは冷たい。
「アイス、買ってきたんだ。ハーゲンダッツ」
「なんでこの寒いのに!?」
驚くあたしをよそに、ガウリイはさっさと上着を脱いで部屋のこたつに入ってしまう。……そこ、さっきまであたしが座ってたとこなんですけど。
「冬にあったかい部屋で食うのが良いんだろ~。バニラと抹茶、好きな方選んで良いよ」
はああ、とこたつの熱に嬉しそうに溜息なんぞ吐くガウリイに、あたしは呆れて笑った。
「……じゃあ抹茶。ご飯、食べてからね」
「何作るんだ?」
「鍋!」
キューブをぽん、と人数分入れるだけで作れるお手軽鍋は一人暮らしにありがたい一品で――勿論具材は自分で切ったりするけど――最近のあたしのマイブームであった。そして今日は豆乳鍋。
「何か手伝う事あるか?」
「無いからゆっくりしててよ。テレビ勝手に観てて良いから」
むしろ気を遣うから一人の方が気が楽だったりする。
既に鍋の下準備は終わっていた。後は鍋に具材とキューブを入れて火を通すだけ。普段一人では使わないエプロンなんぞ着けてキッチンに立てば、そんなあたしをこたつの中で見上げるガウリイと目があった。
「……なによ?」
「なんか、良いなあって」
へにゃりと力の抜けた笑み。それがなんだか凄く可愛くて、ずるい。
*
「凄く美味かった……! 御馳走さん」
満足そうに言ってガウリイが両手を合わせる。その笑みはどうやら嘘ではないので、あたしは胸を撫でおろす。――まあ、ちゃんと美味しいって自信はあったけどね! 実際美味しかったし。
「お粗末さまでした」
あたしも両手を合わせて、洗い物に立とうとしたら引き留められた。
「それは後でオレも手伝うからさ……」
「ん、アイス食べたいのね?」
「一緒に」
まるで子供みたいな事を言う。……けどま、いっか。
こたつの中で、二人でカップのアイスを食べる。口の中は冷たいのに、鍋とこたつで身体はじんわりと温かい。……確かにこれは悪くないかも。
「リナ、バニラも一口いるか?」
「いる」
銀のスプーンに一口分掬われたバニラアイス。ほれ、と差し出されたそれにぱくついた。――うん、美味。
「ありがと。やっぱバニラも良いわよね~」
ミルク味も良いと思うけど、やっぱりバニラは王道だと思う。ああっ、でもチョコチップも好き……!
「オレにも一口抹茶くれないか」
ガウリイの期待に満ちた目。それがおかしくて、あたしはわざと口を尖らせる。
「だめ~」
「うっ、リナのケチ……」
「嘘よ嘘。ほら」
あーん、なんてこっぱずかしい台詞は言ってやらない。スプーンで掬った抹茶アイスを差し出したら、彼は嬉しそうにそれを食べた。年上の癖に、こういう所は子供っぽい。
「美味いなあ~。やっぱり抹茶も良いよなあ」
「一口だけだかんね」
「分かってるって」
くすくす笑って、ガウリイはこたつの上で頬杖をつく。ぽかぽかしたこたつの中で、冷たいアイス。今度は雪見大福が食べたい。
「リナ」
「何よ?」
「……こういうの、良いなあ」
へにゃり、と彼がまた力の抜けた笑みを見せて。こたつの中で互いの脚がぶつかった。
「よく分からないんですケド」
「ええ~?」
彼が何を言いたいのか、分かるような、分からないような。確かに、今の時間はなんだか、くすぐったくて心地よくて。もう少し、こんな時間が続けば良いなと思う。――そういう事?
「ずっと、こうして一緒にいたいなあって」
「なにそれ、プロポーズのつもり?」
冗談めかして尋ねたら。
「――もっと本気で真面目な奴は、もう少し待ってな」
そう言って笑う、彼の頬と耳が、赤い。
コタツに鍋とハーゲンダッツ。社会人ガウリイと大学生リナ。
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ぴんぽーん。
古いせいで少し調子はずれなインターホンの音が響いて、あたしは読んでいた文庫本をぱたりと閉じた。――来た。
「はいはーいちょっと待って~」
立ちあがって、寒いので近くにあった上着を一枚羽織る。玄関のドアを開けたら、そこに居たのは予想通りガウリイだった。いつもの笑顔に見慣れたスーツ姿。そんな彼の吐く息は白い。――この寒いのにコートじゃなくてジャケットとマフラーで済ますだなんて、あたしとしては信じられない。
「よお、リナ」
「いらっしゃい。お疲れ様」
早く入って、と促せば彼は頷いて玄関に足を踏み入れた。少しの間ドアを開けただけなのに、外の冷気が玄関の温度を一気に下げる。けど、ガウリイのおかげで熱源が一人増えた。
「今日仕事だったんでしょ? 休みの日なのに御苦労な事ね~」
「年末はどうしてもなあ」
肩を竦めて笑って、彼は手に提げていたスーパーのビニール袋をあたしに差し出す。受け取ったそれは冷たい。
「アイス、買ってきたんだ。ハーゲンダッツ」
「なんでこの寒いのに!?」
驚くあたしをよそに、ガウリイはさっさと上着を脱いで部屋のこたつに入ってしまう。……そこ、さっきまであたしが座ってたとこなんですけど。
「冬にあったかい部屋で食うのが良いんだろ~。バニラと抹茶、好きな方選んで良いよ」
はああ、とこたつの熱に嬉しそうに溜息なんぞ吐くガウリイに、あたしは呆れて笑った。
「……じゃあ抹茶。ご飯、食べてからね」
「何作るんだ?」
「鍋!」
キューブをぽん、と人数分入れるだけで作れるお手軽鍋は一人暮らしにありがたい一品で――勿論具材は自分で切ったりするけど――最近のあたしのマイブームであった。そして今日は豆乳鍋。
「何か手伝う事あるか?」
「無いからゆっくりしててよ。テレビ勝手に観てて良いから」
むしろ気を遣うから一人の方が気が楽だったりする。
既に鍋の下準備は終わっていた。後は鍋に具材とキューブを入れて火を通すだけ。普段一人では使わないエプロンなんぞ着けてキッチンに立てば、そんなあたしをこたつの中で見上げるガウリイと目があった。
「……なによ?」
「なんか、良いなあって」
へにゃりと力の抜けた笑み。それがなんだか凄く可愛くて、ずるい。
*
「凄く美味かった……! 御馳走さん」
満足そうに言ってガウリイが両手を合わせる。その笑みはどうやら嘘ではないので、あたしは胸を撫でおろす。――まあ、ちゃんと美味しいって自信はあったけどね! 実際美味しかったし。
「お粗末さまでした」
あたしも両手を合わせて、洗い物に立とうとしたら引き留められた。
「それは後でオレも手伝うからさ……」
「ん、アイス食べたいのね?」
「一緒に」
まるで子供みたいな事を言う。……けどま、いっか。
こたつの中で、二人でカップのアイスを食べる。口の中は冷たいのに、鍋とこたつで身体はじんわりと温かい。……確かにこれは悪くないかも。
「リナ、バニラも一口いるか?」
「いる」
銀のスプーンに一口分掬われたバニラアイス。ほれ、と差し出されたそれにぱくついた。――うん、美味。
「ありがと。やっぱバニラも良いわよね~」
ミルク味も良いと思うけど、やっぱりバニラは王道だと思う。ああっ、でもチョコチップも好き……!
「オレにも一口抹茶くれないか」
ガウリイの期待に満ちた目。それがおかしくて、あたしはわざと口を尖らせる。
「だめ~」
「うっ、リナのケチ……」
「嘘よ嘘。ほら」
あーん、なんてこっぱずかしい台詞は言ってやらない。スプーンで掬った抹茶アイスを差し出したら、彼は嬉しそうにそれを食べた。年上の癖に、こういう所は子供っぽい。
「美味いなあ~。やっぱり抹茶も良いよなあ」
「一口だけだかんね」
「分かってるって」
くすくす笑って、ガウリイはこたつの上で頬杖をつく。ぽかぽかしたこたつの中で、冷たいアイス。今度は雪見大福が食べたい。
「リナ」
「何よ?」
「……こういうの、良いなあ」
へにゃり、と彼がまた力の抜けた笑みを見せて。こたつの中で互いの脚がぶつかった。
「よく分からないんですケド」
「ええ~?」
彼が何を言いたいのか、分かるような、分からないような。確かに、今の時間はなんだか、くすぐったくて心地よくて。もう少し、こんな時間が続けば良いなと思う。――そういう事?
「ずっと、こうして一緒にいたいなあって」
「なにそれ、プロポーズのつもり?」
冗談めかして尋ねたら。
「――もっと本気で真面目な奴は、もう少し待ってな」
そう言って笑う、彼の頬と耳が、赤い。