どもです~。お久しぶりに更新です。
Twitterでお世話になっているみつきさんとのガウリナ交換企画!
ということで、「美味しそうなリナちんをはむはむするガウリイ」という、嬉し恥ずかしなお題でSS書きました。
いえーい!
それでは続きよりどうぞ。※原作寄り、コイビトな二人。
------------------------------------------------------
フリルのついたエプロン。短いスカート。二ーハイソックス。色んな所に沢山付いたリボンにレース。……そんな、普段のあたしだったら絶対に着ないようなコスチュームを身にまとって。
――あたしは今、引きつり笑顔を浮かべて立っていた。
「いらっしゃいませぇ~☆」
何度繰り返したか分からない台詞を店内に響かせて、あたしはその場を足早に歩き回る。くれぐれも、走るのは禁物。右手にはケーキを載せたお盆、左手には注文票を持って。
「お姉さん、注文お願いしまーす」
「ねえねえ、おねーちゃん的にはどれがオススメなの?」
「リナさーん、ちょっとこっちお願いできますかあー?」
四方八方から、勝手な声があたしを追い立てる。
――ちょっとは空気読んで待ちなさいよ!
……と、言いたい所をぐっと堪えて。あたしは精一杯に明るい声と笑顔を振りまいた。
「はぁーい、リナちゃん今行きまーすっ!」
……どうしてこんな事になったのか。それには深くて深くてふかぁ~い理由があるわけで。
「――つまり、お前さんが甘いモン食べ放題で食い過ぎて店潰しそうになったから、お詫びに店の手伝いするってことで良いのか?」
…………あまりに身も蓋もないガウリイのまとめにあたしは絶句した。しかし否定できないのがとても哀しい。
だって。『低価格で制限時間内美味しいスイーツ食べ放題』という、とっても魅力的な誘い文句にあたしは抗えなかったのである。そしてちょっとだけやり過ぎた。
凄く凄く美味しかったケーキとシュークリームとマカロンと。店にあるもの全部食べ尽くしたら、お怒りのオーナーがやってきた。
――彼いわく。このままこの店に出入り禁止になるのが嫌なら、店を手伝え! との事で。
横暴だ! ちゃんとお金払ったのに何だその言い草は! と、思わなくもないのだけれど。もう二度とこの店のスイーツを食べられないというのは、あたしにはちょっとつらかった。それほどまでに、この店のスイーツは美味だったのである。
「……だからって、これは無いと思うのよねえ」
一息ついて、あたしは内心溜め息をついた。一応、あたしも商売人の娘である。だから店の手伝いをするのは特に苦ではなかった。
――とはいえ。このふりふりの衣装は頂けない。
故郷のねーちゃんのウエイトレス衣装よりも更にふりふりだ。それに、スカートの丈が短くて動き辛い。いくらあたしが美少女だからって、こんな恥ずかしい衣装は御免こうむりたかったのだが。いかんせん、あたしたちに拒否権は無いのがツライ所で。
……それに。
あたしとは違って、至極地味な制服姿のガウリイが。フロアを掃除するためにキッチンの奥から出て来る度に、客席に座る女の子達の視線が揃って彼に向くのが……凄く、面白くなかった。
中にはきらきらした目で声を掛ける女の子も居て。それに、困った顔をしつつも笑顔で応対するあたしの自称保護者。――ああーもう、面白くないったら!
*
――まったくもって、面白くない。
キッチンで洗った食器を拭きながら、オレは小さく溜め息をついた。
リナのやらかした事に巻き込まれるのは、日常茶飯事なので別に構わないのだが。それはそうと、あのリナの衣装はどうかと思うのだ。
――……いくらなんでも、あのスカートは短すぎやしないか……?
それに、太腿を強調するようなあの長い靴下。フリルやリボンがとても可愛らしく子供っぽいのに、その露出の多さが酷くアンバランスで目を引いて……。
オレはもやもやしながら、ふるふると頭を振った。掃除の為にフロアに出る度に、男の客が増えているような気がしてならない。いや、実際増えている。
確かに、一つの店を潰す程食い過ぎたリナはちょっとやりすぎだし、出入り禁止になりたくなければそれ相応の弁償を、というのは理解出来る。……だからって、あんな風にリナが客寄せパンダにされるのは、オレとしてはあまり面白くない。
――リナが、オレ以外の無遠慮な男の視線に晒されるのは。
「ガウリイさん」
不意に呼びかけられて、オレははっとして顔を上げた。洗い物の手はすっかり止まってしまっている。
「ああ、えっと……」
「ジャックです」
苦笑しながら名乗ってくれた青年は、この店の専属のパティシエだと聞いていた。今も彼の手には生クリームの付いた泡立て器が握られている。
「もうしばらくお客さんも来なさそうですし、今、ちょっとイイですか?」
言われて、オレは素直にジャックに従った。
**
――ひどく甘い匂いがする。それに加えて、少しだけほろ苦い匂いもまた。
閉店後やっと仕事を全て終わらせて、バックヤードに足を踏み入れたあたしはその濃厚な匂いに目を見張った。
さっきまでもずいぶんと店の中の甘い匂いに閉口していたのに、此処はさらに凄い。――いくら大好きなスイーツの匂いでも、ずっと嗅いでいれば気分も悪くなる。
「ああ、リナさん! お疲れ様です」
「おー。リナ」
奥でテーブルを囲んでいた男二人、ガウリイとパティシエのジャックがあたしに気付いて声を上げた。他の店員は居ないらしい。
「……何やってるわけ?」
あたしが必死で頑張っていたときに。……とまでは言わないけど。
「ガウリイさんに試食をお願いしてたんですよ」
あたしの問いににこやかに答えたジャックの手には、小さなチョコレートがいくつか並んだ銀の盆があった。さっきから漂っている濃厚な香りは、どうやらこれが原因らしい。……他にも、テーブルの上の空のグラスも気になる所だけど。
「試食?」
「ええ、今回はちょっと大人向けの菓子を作りたくて」
……大人向け?
「『お酒に合うチョコレート』と言う事で、チョコ自体にもほんの少しリキュールが入ってるんですが、ウイスキーと一緒に食べると美味しいんですよ」
ガウリイさんは大人の男性なので、食べて感想を頂きたくて。そう言って、ジャックは一つあたしにも勧めてくれた。一口齧ると、ほろ苦くて、でも優しい甘さが口の中に広がった。――うん、確かにこれは大人の味だ。
「チョコ自体の方はもうアルコールが飛んでるので、子供が食べても大丈夫なんです」
「へえ」
「でも、確かにこれは酒が進むチョコだよ」
銀の盆に手を伸ばして、もう一つを口に放りこみながらガウリイは笑った。ぷんと漂う甘苦い匂い。これは明らかにチョコだけじゃない。
「――ということは、飲んだのね?」
じとり、と横目で睨めば、自称保護者はあははと笑った。
「まあ、良いじゃないか」
――…………。
「良くないーっ!! なによなによ、こっちはこんな恥ずかしい格好で仕事してたってえのに!」
そっちは呑気に飲んで食べてたのかーっ! 許すまじっ!
「ま、まあまあリナさん。それ、凄くお似合いですよ」
呑気な声で言うジャックをぎらり、と睨みつけたら、彼はびくんとその場で飛び上がった。
「……えーと。良かったら差し上げますからそれ。……それでは、お疲れさまでした~。――あ、オーナーにはちゃんと言っときますんで!」
「え、あ、ちょっと!」
あたしの爆発した怒りに驚いたのか、ジャックは引きつり笑顔でそれだけ言うと逃げるように行ってしまった。
――まさに脱兎のごとく。
そしてしんとした部屋に残されたあたしたち。……なんだかとってもむなしい。――何しろ今回は弁償だから報酬無しだし。うーみゅ、タダ働き程虚しいもんはない。
「……」
「……」
「――んじゃ、オレ達も宿に戻るか。お疲れさん、リナ」
「……うん」
ぽんぽんとあたしの頭に手を置くガウリイに、あたしはふくれっ面で返事を返した。
***
「……で、まだ機嫌は直らないのかー?」
宿屋の一室。隣に座りつつも返事を返さないあたしに、ガウリイは笑って手を伸ばした。まだ着替えていないのでひらひらエプロンとミニスカートのまま、あたしは彼に引き寄せられる。その引き寄せ方がいつもより少し強引で、小さなリボンが一つほどけた。
「ガウリイ、酔ってるでしょ」
ジト目で問うたら、彼はへらりと笑って頷いた。
「おう。だから今夜の事は多分明日すっかり忘れてるぞ」
「得意気に言うなっ!」
部屋のスリッパでツッコミを入れようとしたら、その手を掴んで止められる。
「だってあのチョコ、凄く美味くてさ。ウイスキーも美味くて……、」
少しだけとろんとした目でそう言うガウリイからは、さっきと同じ甘くて苦い匂いがする。そのまま彼の顔が近づいてくるので、あたしはそっと目を閉じた。
……のだけど。待っていたキスはやって来なくて。その代わり。
はむ。
「……っひぁっ!?」
ガウリイがあたしの耳を甘く噛んでいた。彼の吐息が、口の中の温度が。耳を伝って脳まで浸透しそうになって、ぞぞぞくううっとあたしの背筋を得体のしれない何かが走った。
慌てて彼の頭を両手で掴む。けど、上手く引き離せなくて、ガウリイはそのままあたしの耳を食んでいる。時折ぺろり、と舌でなめられてあたしはびくりと肩を震わせた。
「んっ、ちょっと、ガウリイっ! やめてっあっ」
「んー?」
――んー? じゃ、ないっ!
「あ、たしはっ、食べ物じゃないわよっ! ひあっ」
やっとあたしの耳を食べるのをやめたガウリイは、ふう、と小さく溜め息をついて。何故か拗ねたみたいな顔であたしを見やる。
「だって、リナが」
「……ガウリイ?」
彼は今度はあたしの腕にかぷりと噛みついて。痛くはないけど、なんだかじんじんする。
「こんなに甘い匂いさせて」
溜め息混じりの言葉は、それ自体甘い匂いがする。
「それはアンタも同じでしょーが」
あたしのツッコミを無視して、彼はあたしのエプロンのリボン結びをするりとほどいた。白い布は、あっけなくベッドの下に落ちてしまう。
「――それに、そんなやらしいカッコして」
「や、やらしい……!?」
言葉の響きにショックを受けるあたしをよそに、ガウリイはあたしをぎゅっと抱きしめた。その手の温度がいつもよりも少し高い。
「……リナが美味そうなのが悪いんだ」
そう言って、あたしを見つめるアイス・ブルーの瞳が。熱に浮かされたみたいに潤んで、そのくせお腹のすいた子供みたいに素直で。
「もう、そんな格好させたくないな……」
――他のやつに見せたくないんだ。耳元で囁かれた言葉は、今のあたしには少し甘過ぎた。でも、そのくすぐったさが嬉しくて。
いつの間にやら、怒っていた事も忘れてしまう。
「なあ、リナ。食べたい。……だめか?」
そんな風に言われたら。もう。
「…………だめ、じゃ、ない」
降参して、あたしは素直に彼に食べられてあげる事に決めたのだった。
おしまい。
Twitterでお世話になっているみつきさんとのガウリナ交換企画!
ということで、「美味しそうなリナちんをはむはむするガウリイ」という、嬉し恥ずかしなお題でSS書きました。
いえーい!
それでは続きよりどうぞ。※原作寄り、コイビトな二人。
------------------------------------------------------
フリルのついたエプロン。短いスカート。二ーハイソックス。色んな所に沢山付いたリボンにレース。……そんな、普段のあたしだったら絶対に着ないようなコスチュームを身にまとって。
――あたしは今、引きつり笑顔を浮かべて立っていた。
「いらっしゃいませぇ~☆」
何度繰り返したか分からない台詞を店内に響かせて、あたしはその場を足早に歩き回る。くれぐれも、走るのは禁物。右手にはケーキを載せたお盆、左手には注文票を持って。
「お姉さん、注文お願いしまーす」
「ねえねえ、おねーちゃん的にはどれがオススメなの?」
「リナさーん、ちょっとこっちお願いできますかあー?」
四方八方から、勝手な声があたしを追い立てる。
――ちょっとは空気読んで待ちなさいよ!
……と、言いたい所をぐっと堪えて。あたしは精一杯に明るい声と笑顔を振りまいた。
「はぁーい、リナちゃん今行きまーすっ!」
……どうしてこんな事になったのか。それには深くて深くてふかぁ~い理由があるわけで。
「――つまり、お前さんが甘いモン食べ放題で食い過ぎて店潰しそうになったから、お詫びに店の手伝いするってことで良いのか?」
…………あまりに身も蓋もないガウリイのまとめにあたしは絶句した。しかし否定できないのがとても哀しい。
だって。『低価格で制限時間内美味しいスイーツ食べ放題』という、とっても魅力的な誘い文句にあたしは抗えなかったのである。そしてちょっとだけやり過ぎた。
凄く凄く美味しかったケーキとシュークリームとマカロンと。店にあるもの全部食べ尽くしたら、お怒りのオーナーがやってきた。
――彼いわく。このままこの店に出入り禁止になるのが嫌なら、店を手伝え! との事で。
横暴だ! ちゃんとお金払ったのに何だその言い草は! と、思わなくもないのだけれど。もう二度とこの店のスイーツを食べられないというのは、あたしにはちょっとつらかった。それほどまでに、この店のスイーツは美味だったのである。
「……だからって、これは無いと思うのよねえ」
一息ついて、あたしは内心溜め息をついた。一応、あたしも商売人の娘である。だから店の手伝いをするのは特に苦ではなかった。
――とはいえ。このふりふりの衣装は頂けない。
故郷のねーちゃんのウエイトレス衣装よりも更にふりふりだ。それに、スカートの丈が短くて動き辛い。いくらあたしが美少女だからって、こんな恥ずかしい衣装は御免こうむりたかったのだが。いかんせん、あたしたちに拒否権は無いのがツライ所で。
……それに。
あたしとは違って、至極地味な制服姿のガウリイが。フロアを掃除するためにキッチンの奥から出て来る度に、客席に座る女の子達の視線が揃って彼に向くのが……凄く、面白くなかった。
中にはきらきらした目で声を掛ける女の子も居て。それに、困った顔をしつつも笑顔で応対するあたしの自称保護者。――ああーもう、面白くないったら!
*
――まったくもって、面白くない。
キッチンで洗った食器を拭きながら、オレは小さく溜め息をついた。
リナのやらかした事に巻き込まれるのは、日常茶飯事なので別に構わないのだが。それはそうと、あのリナの衣装はどうかと思うのだ。
――……いくらなんでも、あのスカートは短すぎやしないか……?
それに、太腿を強調するようなあの長い靴下。フリルやリボンがとても可愛らしく子供っぽいのに、その露出の多さが酷くアンバランスで目を引いて……。
オレはもやもやしながら、ふるふると頭を振った。掃除の為にフロアに出る度に、男の客が増えているような気がしてならない。いや、実際増えている。
確かに、一つの店を潰す程食い過ぎたリナはちょっとやりすぎだし、出入り禁止になりたくなければそれ相応の弁償を、というのは理解出来る。……だからって、あんな風にリナが客寄せパンダにされるのは、オレとしてはあまり面白くない。
――リナが、オレ以外の無遠慮な男の視線に晒されるのは。
「ガウリイさん」
不意に呼びかけられて、オレははっとして顔を上げた。洗い物の手はすっかり止まってしまっている。
「ああ、えっと……」
「ジャックです」
苦笑しながら名乗ってくれた青年は、この店の専属のパティシエだと聞いていた。今も彼の手には生クリームの付いた泡立て器が握られている。
「もうしばらくお客さんも来なさそうですし、今、ちょっとイイですか?」
言われて、オレは素直にジャックに従った。
**
――ひどく甘い匂いがする。それに加えて、少しだけほろ苦い匂いもまた。
閉店後やっと仕事を全て終わらせて、バックヤードに足を踏み入れたあたしはその濃厚な匂いに目を見張った。
さっきまでもずいぶんと店の中の甘い匂いに閉口していたのに、此処はさらに凄い。――いくら大好きなスイーツの匂いでも、ずっと嗅いでいれば気分も悪くなる。
「ああ、リナさん! お疲れ様です」
「おー。リナ」
奥でテーブルを囲んでいた男二人、ガウリイとパティシエのジャックがあたしに気付いて声を上げた。他の店員は居ないらしい。
「……何やってるわけ?」
あたしが必死で頑張っていたときに。……とまでは言わないけど。
「ガウリイさんに試食をお願いしてたんですよ」
あたしの問いににこやかに答えたジャックの手には、小さなチョコレートがいくつか並んだ銀の盆があった。さっきから漂っている濃厚な香りは、どうやらこれが原因らしい。……他にも、テーブルの上の空のグラスも気になる所だけど。
「試食?」
「ええ、今回はちょっと大人向けの菓子を作りたくて」
……大人向け?
「『お酒に合うチョコレート』と言う事で、チョコ自体にもほんの少しリキュールが入ってるんですが、ウイスキーと一緒に食べると美味しいんですよ」
ガウリイさんは大人の男性なので、食べて感想を頂きたくて。そう言って、ジャックは一つあたしにも勧めてくれた。一口齧ると、ほろ苦くて、でも優しい甘さが口の中に広がった。――うん、確かにこれは大人の味だ。
「チョコ自体の方はもうアルコールが飛んでるので、子供が食べても大丈夫なんです」
「へえ」
「でも、確かにこれは酒が進むチョコだよ」
銀の盆に手を伸ばして、もう一つを口に放りこみながらガウリイは笑った。ぷんと漂う甘苦い匂い。これは明らかにチョコだけじゃない。
「――ということは、飲んだのね?」
じとり、と横目で睨めば、自称保護者はあははと笑った。
「まあ、良いじゃないか」
――…………。
「良くないーっ!! なによなによ、こっちはこんな恥ずかしい格好で仕事してたってえのに!」
そっちは呑気に飲んで食べてたのかーっ! 許すまじっ!
「ま、まあまあリナさん。それ、凄くお似合いですよ」
呑気な声で言うジャックをぎらり、と睨みつけたら、彼はびくんとその場で飛び上がった。
「……えーと。良かったら差し上げますからそれ。……それでは、お疲れさまでした~。――あ、オーナーにはちゃんと言っときますんで!」
「え、あ、ちょっと!」
あたしの爆発した怒りに驚いたのか、ジャックは引きつり笑顔でそれだけ言うと逃げるように行ってしまった。
――まさに脱兎のごとく。
そしてしんとした部屋に残されたあたしたち。……なんだかとってもむなしい。――何しろ今回は弁償だから報酬無しだし。うーみゅ、タダ働き程虚しいもんはない。
「……」
「……」
「――んじゃ、オレ達も宿に戻るか。お疲れさん、リナ」
「……うん」
ぽんぽんとあたしの頭に手を置くガウリイに、あたしはふくれっ面で返事を返した。
***
「……で、まだ機嫌は直らないのかー?」
宿屋の一室。隣に座りつつも返事を返さないあたしに、ガウリイは笑って手を伸ばした。まだ着替えていないのでひらひらエプロンとミニスカートのまま、あたしは彼に引き寄せられる。その引き寄せ方がいつもより少し強引で、小さなリボンが一つほどけた。
「ガウリイ、酔ってるでしょ」
ジト目で問うたら、彼はへらりと笑って頷いた。
「おう。だから今夜の事は多分明日すっかり忘れてるぞ」
「得意気に言うなっ!」
部屋のスリッパでツッコミを入れようとしたら、その手を掴んで止められる。
「だってあのチョコ、凄く美味くてさ。ウイスキーも美味くて……、」
少しだけとろんとした目でそう言うガウリイからは、さっきと同じ甘くて苦い匂いがする。そのまま彼の顔が近づいてくるので、あたしはそっと目を閉じた。
……のだけど。待っていたキスはやって来なくて。その代わり。
はむ。
「……っひぁっ!?」
ガウリイがあたしの耳を甘く噛んでいた。彼の吐息が、口の中の温度が。耳を伝って脳まで浸透しそうになって、ぞぞぞくううっとあたしの背筋を得体のしれない何かが走った。
慌てて彼の頭を両手で掴む。けど、上手く引き離せなくて、ガウリイはそのままあたしの耳を食んでいる。時折ぺろり、と舌でなめられてあたしはびくりと肩を震わせた。
「んっ、ちょっと、ガウリイっ! やめてっあっ」
「んー?」
――んー? じゃ、ないっ!
「あ、たしはっ、食べ物じゃないわよっ! ひあっ」
やっとあたしの耳を食べるのをやめたガウリイは、ふう、と小さく溜め息をついて。何故か拗ねたみたいな顔であたしを見やる。
「だって、リナが」
「……ガウリイ?」
彼は今度はあたしの腕にかぷりと噛みついて。痛くはないけど、なんだかじんじんする。
「こんなに甘い匂いさせて」
溜め息混じりの言葉は、それ自体甘い匂いがする。
「それはアンタも同じでしょーが」
あたしのツッコミを無視して、彼はあたしのエプロンのリボン結びをするりとほどいた。白い布は、あっけなくベッドの下に落ちてしまう。
「――それに、そんなやらしいカッコして」
「や、やらしい……!?」
言葉の響きにショックを受けるあたしをよそに、ガウリイはあたしをぎゅっと抱きしめた。その手の温度がいつもよりも少し高い。
「……リナが美味そうなのが悪いんだ」
そう言って、あたしを見つめるアイス・ブルーの瞳が。熱に浮かされたみたいに潤んで、そのくせお腹のすいた子供みたいに素直で。
「もう、そんな格好させたくないな……」
――他のやつに見せたくないんだ。耳元で囁かれた言葉は、今のあたしには少し甘過ぎた。でも、そのくすぐったさが嬉しくて。
いつの間にやら、怒っていた事も忘れてしまう。
「なあ、リナ。食べたい。……だめか?」
そんな風に言われたら。もう。
「…………だめ、じゃ、ない」
降参して、あたしは素直に彼に食べられてあげる事に決めたのだった。
おしまい。