ゆるい感じで。

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自覚の引金 I miss you.(ゼルアメ)

2023-02-05 00:52:48 | スレイヤーズ二次創作
どもです、あきらです!
あけましておめでとうございます~(*´▽`*)
昨年10月に頒布した無配(ネップリ)のゼルアメSS、すっかり時間が経ってしまいましたがここで公開したいと思います。
原作2部後の時間軸、というイメージ。
マシュマロのお題より「恋心を自覚するお話」ゼル視点。

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 ――白魔術都市、聖王都セイルーン。
 六芒星を意識した整然とした街並みは、この街の荘厳さと文化レベルの高さを伝えてくる。……だが、久しぶりに足を踏み入れたこの街は、以前と変わらず明るい活気に溢れていた。駆け回る子供たちや、露店商の声でそれなりに騒がしい。
 この街のこの『明るさ』は、セイルーン王家の人間の人柄が影響しているのだろうか。――少々暑苦しい顔見知りの王女の顔を思い浮かべて、俺は小さく苦笑した。
「……さて、まずは何処へ向かうか」
 アメリアと手紙のやり取りは時々していたものの、セイルーンに直接来るのは久しぶりだ。
 基本的に、セイルーンのような大きな街や平和な街では、俺の外見は目立ちすぎる。好奇の目に晒されるのも警戒される事も慣れてしまったが、それでもあまり気持ちの良いものではない。だからセイルーンのような大きな街に立ち寄る事は滅多に無い、のだが。
 俺は季節が一巡する間に二、三度程度の頻度でこの街に足を踏み入れている。――セイルーンの王立図書館は魔道書の種類が豊富であるし。大都市だけあって情報も集まりやすい。時々立ち寄るには良い街なのだ。
 明るい陽射しの眩しさに目を細めながら、俺はひとまずセイルーンの城へと足を向ける事にした。



「ゼルガディスさんお久しぶりです! お会い出来て嬉しいわ」
 面会に用意された席には、値の張りそうなティーセットが並んでいた。俺の顔を見るなり立ち上がってこちらに駆け寄ろうとするお姫様だが、横で給仕役のメイドに慌ててその場に留められている。
「変わらず元気そうだな。……今回も手土産も何も無くてすまないが」
「わざわざ会いに来てくださっただけで嬉しいですよ。……ここまで来るの、大変だったでしょ?」
 彼女の向かいに腰掛け、俺は小さく苦笑した。
「……まあ、そうだな」
 毎度の事だが、やはり一国の王女との面会にはそれ相応の面倒さがある。門前では城の衛兵に睨まれ、俺を知る者になんとか取次ぎを願ってやっとアメリアとの面会の許可を得て。城に入ってからも、彼女の臣下達から好奇の目でジロジロ見られるのは、慣れているとは言え落ち着かない。――だが、彼女の立場を思えばそれは当たり前の事だ。
「ごめんなさいね。ゼルガディスさんの事、知らない人たちも多いから」
「構わん、慣れている。……むしろ、俺みたいなのをそのまま怪しまずに通す門番なんか居たら、即刻お払い箱にした方がいいぞ」
 自分の外見が普通の人間と比べて明らかに異質な事くらいは、俺自身理解している。俺が城の人間の立場であっても、こんな見た目の人間が大事な姫に近づいてくれば警戒の目を向けるだろう。当然だ。
 俺の言葉に彼女もまた苦笑いをして。
「――それでも、どうしたって嫌な気持ちにはなると思うの。だから、そんな思いをしてでもわたしに会いに来てくれたのだから、それはどんな手土産なんかより嬉しいわ」
「……そうか」
 アメリアの言葉は、まっすぐで時々眩しい。
「――こちら、紅茶とスコーンでございます。サワークリームはお好みで」
「あ、ああ。すまない」
 返事に窮した俺をフォローするように、さっと給仕されたスコーンと紅茶。
 一礼してさっと離れた位置に戻るメイドは、去り際に俺に向かって小さく微笑んで見せる。……あのメイドにとっては、俺はどのように映っているのだろう。王女に近づく悪い虫か、それとも。なんだかむず痒いような気持ちになって、俺はそのよく分からない感覚を振り払うようにスコーンに手を付けた。
「む。……旨い」
「そうでしょう! このサワークリーム、絶品なんですよねえ」
 嬉しそうに言うアメリアは、既にスコーンを半分以上平らげている。

 黙って出された紅茶に口を付けながら、俺はふと不思議な気持ちになった。――言われてみれば。どうして俺は、こんな思いをしてまでこうしていつもアメリアに会いに来るのだろう。
 互いの近況は、手紙を通して知っている。王立図書館への立ち寄りにしても、彼女にわざわざ許可を取る必要はない。それなのに、この街に来たのなら一度はアメリアの顔を見ておこうと、わざわざ城に足を向けてしまうのは。セイルーンに立ち寄りながら、彼女に合う時間が無いと何か物足りないような気持ちになるのは。――……一体何故?

「ゼルガディスさん、さっきから黙ってどうしたの?」
 きょとんとした顔の王女様に、ぼうっとしていた俺はつい口を滑らせた。
「いや、……俺はどうして、こんなにあんたに会いに来てるんだろうと思ってな」
「え?」
 言ってしまってから、俺ははっとした。――わざわざ本人に向かって言う事でもなかろうに。
 だが、その黒目勝ちな瞳をまん丸に見開いた彼女は、気を悪くした風でもなく。……むしろ、何がおかしいのかクスクスと笑いだす。
「なんだ。何がおかしい」
 訝しげな俺に向かって、彼女は一瞬傍に控えるメイドを気にしてから、そっと俺に耳を貸すよう手招きした。
 テーブル越しに耳を寄せる俺に、彼女は小さく囁く。愉快そうな、どこか悪戯な声。
「……ゼルガディスさん、自分で気付いてなかったんですか?」
「――は?」

「ゼルガディスさんて、実はわたしの事、貴方が思ってるより大好きなんですよ?」

 さらり、と告げられたその台詞。思ってもいなかったそれに、俺はその場で固まった。