ゆるい感じで。

「スレイヤーズ」のガウリナメインの二次創作ブログサイトです。原作者様、関係者様には一切関係ございません。

自覚記念日。(ガウリナ)

2020-06-01 21:20:25 | スレイヤーズ二次創作
前回記事に続いて、折り本企画で期間限定登録していたガウリナSSの二作目公開です。いえーい。

無自覚だった気持ちを「自覚」するリナさんです。

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 ――最近のあたしは、なんだかおかしい。
 何がどうおかしいのかと問われると、それはなんとも言葉にし辛いのだが。とにかく、おかしいったらおかしいのだ。急にむしゃくしゃしてやけ食いしたくなったり、訳もなく不安になったり。……そして、不意に胸が苦しくて、早鐘を打つ心臓の音に動揺したりする事もある。
 それは一体何故なのか。その理由が、あたしにはなんとなく分かるような、だけど分かりたくないような。そんな、複雑な気持ちに苛まれているのだ、今のあたしは。

「リナ」
 そのとき、不意に頭の上から降ってくる声。
「っひゃい!? ……な、なによガウリイ」
 その聞き慣れたはずの声に、物思いに耽っていたせいか驚いてやけに大きなリアクションを返してしまって。あたしはなんだか妙な気恥ずかしさで顔が熱くなった。
 ――一体なんだってえのよ……。
「いや、なんかさっきからぼ~っとしてるから。……腹でも減ったのか?」
 小首を傾げた自称保護者の失礼な物言いにムッとする。
「あのね。あなたと一緒にしないでくれる?」
 ジト目で言い返せば、彼は朗らかに微笑む。
「はっはっは……失礼だぞリナ」
「どっちがよ!?」
 思わず懐からツッコミ用スリッパを取り出したあたしに、ガウリイは噴き出してくすくすと笑い出す。
「すまんすまん、冗談だって。――ほら、髪に枯れ葉が付いてるぞ?」
 この男の冗談は分かりにくい。
「葉っぱ? ああ、さっき森を抜けたから……、っ」
 自然とあたしに向かって伸ばされた手に、気が付いたら息を呑んでいた。
「どうした?」
「ん。なんでも、ない」
「そうか」
 触れたのは一瞬で。ひょいとあたしの髪から枯れ葉を摘まんで離れていった彼の指先は、その葉っぱをすぐに風に乗せて飛ばしてしまう。その何げない仕草から、何故だかあたしは目が離せない。
 ――なんでこんなに。あたしはドキドキなんてしているのだろう。

 二人旅の道中。日差しに照らされた小道を歩き始めてから、それなりの時間が経っている。そろそろ次の街が見えてきても良さそうなものなのだが。まあ、文句を言っても仕方がないので、時々休憩を挟みながらも、あたしたちは歩みを止めない。
 ――二人旅。
 あたしとガウリイが『旅の連れ』となってから、もう何年経ったのだろうか。誰かが隣を歩くのを、誰かに背中を預けて戦うことを、あたしはいつの間にか当たり前みたいに感じてしまっている。
 彼はあたしの大事な旅の相棒で、だけど相変わらず彼は『自称保護者』。ずっと変わらない関係性。それがとても心地が良くて、それで良いと思っている。……はず、なんだけど。
「……ガウリイ」
「どうした?」
 あたしの声に振り返ったガウリイは、相変わらず能天気そうな顔をしている。――なのに。そのアイスブルーの瞳が綺麗だな、とか。太陽の日差しに照らされた金色の髪に触れたいとか。良く分からない感情が次々に湧いてきて、あたしはなんだか堪らなくて顔を俯けた。
「ごめん、なんでもない……」
 けど、そんな返答にあたしの『自称保護者』が黙っているわけがない。
「リナ」
 顔を上げられないのに、彼の今しているであろう表情が分かってしまう。心配そうな顔、しているに違いない。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。どうしたら良いのか分からなくて。
「あの、さ……」
 何かを言わなくてはいけない。そんなあたしの頭に、ぽふりと大きな手が触れた。そのままくしゃりと撫でられて、それに余計に胸が苦しくなった。
「無理しなくていい。何か悩んでるんなら教えて欲しいけど……言いたくないなら、聞かないから」
 優しい声にぎゅっと唇を噛む。触れた掌の暖かさに涙がでそうな程に安心する。それなのに、その指先が触れた部分が熱くて堪らない。
「……ん、」
 やめて欲しいのに、もっとして欲しい。子供扱いされるのは嫌で、だけどきっと心が離れたら泣きたい程哀しくなるのだろう。そんな複雑な感情の名を、あたしはきっと知っている。

 ――ああ、そうか。そうなのだ。
 すとん、と急に納得がいった。顔を上げれば、ガウリイは微笑んだ。……あたしは、その笑みが好きだ。
「あのね、ガウリイ」
 好き。あたしの『保護者』を自称する、この天然で優しくて、だけど誰よりも頼りになる相棒の事が、あたしは好きなのだ。――勿論、ずっと人間として、相棒として彼の事が好きだったけど、それだけじゃなくて。『恋』という感情を、あたしは今理解した。……いや、『自覚』したのだ。この気持ちを。近すぎて、直視出来ていなかった、この感情の正体を。
「……あたし、あなたの事が好きみたい。それに、今気づいたの」
 気が付いたら、するりと口から言葉が滑り出た。それに驚いたのはあたしの方で。――なんでこんなすぐに言っちゃうかな!? 
 慌てるあたしを前に、ガウリイもまた目を丸くして。……それから、しかし彼はまるで何てことないみたいな顔をして、いつもみたいに微笑んだ。

「そうか。……オレは、もっとずっと前から、お前さんの事が好きだよ」


本日はパン記念日。(ガウリナ)

2020-06-01 21:16:28 | スレイヤーズ二次創作
どもです。あきらです。
5月の「スレイヤーズ折り本アンソロ」にてネットプリントで登録させて頂いたガウリナSSを、6月になったので公開したいと思います~~(ぱちぱちぱち)

というわけでまず一作目です。ひたすらパンを食べるガウリナ。

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 ――香ばしい匂いがする。香ばしくて、それでいてほんのりと甘い匂い。
 焼きたてのパンの匂いというのは、幸せの匂いそのものだと思う。

「今日のパンはお替り自由だよ。パン記念日だからね」
「パン記念日? 初めて聞いたな」
 滞在三日目の宿。朝食に降りてきたオレ達に、食堂のおばちゃんは笑ってそう言った。
「本当? 太っ腹ね!」
 パッと顔を輝かせたリナに、しかしおばちゃんはハッとしたように慌てて付け加える。
「おっと、だけどアンタたちは五つまでにしてくんな。そうでないと他のお客の分がすぐになくなっちまうよ」
「ええ~?」
 不満げに頬を膨らませるリナは、しかし食い下がる事はせずにそのまま適当にカウンターの席に着く。オレもそれに倣った。
「はは、そう言われちゃ仕方がないな」
「ま、あたし達だけでパンの在庫無くしちゃったら他のお客さん、可哀想だもんね」
 肩を竦めて言う。オレもそれに同意見だ。
 実際、この店のパンは本当に旨かった。店主がパンに凝っているらしく、定期的に店内に並べられる焼きたてのパンはどれも違った味わいがあって、そのどれもが旨い。他の料理も旨いのだが、その中でもやはりパンの旨さは際立っていた。
 ――癖になる素朴な甘さのライ麦のパン、チーズたっぷりのパンに香ばしいバゲット、プレーンブレッドにもちもちのベーグル。バターたっぷりのクロワッサン。テーブルに並んだ果実のジャムや生クリームにも拘りが見える。
 オレ達は厳選して先に五種類選んでしまって、それから野菜サラダとスープを頼む。……うーん、やっぱりスクランブルエッグかポーチドエッグも頼むべきだろうか。

 ライ麦パンのトーストを一口、味わうようにゆっくりと噛んで、それからジャムをひと塗りしてからもう一口。ふわりと漂う小麦の匂い。
「……うむ、むむ……美味しいわね、やっぱり」
 唸るようにそう言ったリナの目は嬉しそうに輝いている。
「おう。旨いな」
「香ばしく焼けてぱりっとした表面と、中のふわふわ感……! なによりほんのり甘くて小麦の優しい味がする。それにこの木苺のジャムよ! 甘すぎず、それでいて酸味も強すぎず。これぞこだわりの味という奴ね……」
 熱く語るリナをよそに、オレもまだ作りたての熱を帯びたクロワッサンにかぶり付いた。さくりとした表面の歯触り、噛み締めればふんわりと形を変えて。バターの甘さに頬が緩む。――旨い。
 一口、二口、すぐに食べてしまって、もう二つ目に手を伸ばして。次をライ麦パンにしたのは、リナが目の前で旨そうに食べていたから、というのは言うまでもない。

「アンタたちは本当に美味しそうに食べてくれるねえ。旦那も喜ぶよ」
 新しく焼けたばかりのパンをカウンターの向こうに並べながら、おばちゃんがオレ達に声を掛けてくる。オレは四つ目のパンを食べ終わり、リナはグリーンサラダをつついている所だった。
「――どういたしまして。旦那さん、てあっちで鍋かき混ぜてる人?」
「そうそう。あの人が無類のパン好きでね」
「良いセンスしてるわ。どのパンもほんと美味しいもの」
 サラダも悪くない、と言い添えてリナはトマトを突き刺したフォークを口に運ぶ。
「そりゃありがとうねえ。……それにしても、朝からよく食べるねアンタたち」
 この食堂で飯を食うのも今日で三日目だ。オレ達の食事風景をおばちゃんも流石に見慣れたらしいが、呆れたような視線に苦笑する。
「あたし達は生きる事に全力なのよ。だから食べる事にも全力なわけ。ま、旅にはそれなりにエネルギーも必要になるし……」
 相変わらずの良く分からん理屈。リナよ、胸を張るのは良いが口元に粉チーズが付いてるぞ。
「食い意地張ってるだけじゃないのか」
「ガウリイっ!」
 ぱっと顔を上げてオレを睨むリナに肩を竦めれば、おばちゃんは噴き出して笑った。
「アハハッ、面白いねえアンタたち。ま、ゆっくりしてってよ」

 ひらひらと手を振っていなくなるおばちゃんを見送ってから、向き直って食事に再開する。ポタージュスープで口を湿らせて、今度はベーグルにかぶり付いて。
「うん、旨い……あ、リナ。そういえば」
「ん?」
 同じく最後のチーズパンを頬張るリナの、きょとんとした顔。その口元に。
「そこ、粉チーズ付いてるぞ。さっきサラダ食ってた時から」
「言うのが遅いわよ!?」
 おばちゃんにも見られたって事じゃない、と慌てるリナに頭を掻いた。確かにそうだ。
「ははは、すまんすまん」
「貴方ねえ……もう」
 小さく溜息。そして彼女は指で口の周りをぬぐって、その指をぺろりと舐めて見せた。そのピンク色の舌と濡れた指先に思わず見入る。――……。
「ガウリイ、どしたの?」
 呼びかけられてハッとした。――朝っぱらから何を考えているんだ、オレは。
「え、いや。……旨そうだなあと思って」
 首を傾げたリナは分かっていない。それでいい。
「は? ――あ、あげないわよ? 最後の一個なんだから」
 パッと手にしたチーズパンをオレから遠ざけるリナに苦笑する。
「分かってるって」
 なんだか気恥ずかしくなってしまって、オレはそれだけ言って残りのポタージュスープを飲み干した。