前回記事に続いて、折り本企画で期間限定登録していたガウリナSSの二作目公開です。いえーい。
無自覚だった気持ちを「自覚」するリナさんです。
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――最近のあたしは、なんだかおかしい。
何がどうおかしいのかと問われると、それはなんとも言葉にし辛いのだが。とにかく、おかしいったらおかしいのだ。急にむしゃくしゃしてやけ食いしたくなったり、訳もなく不安になったり。……そして、不意に胸が苦しくて、早鐘を打つ心臓の音に動揺したりする事もある。
それは一体何故なのか。その理由が、あたしにはなんとなく分かるような、だけど分かりたくないような。そんな、複雑な気持ちに苛まれているのだ、今のあたしは。
「リナ」
そのとき、不意に頭の上から降ってくる声。
「っひゃい!? ……な、なによガウリイ」
その聞き慣れたはずの声に、物思いに耽っていたせいか驚いてやけに大きなリアクションを返してしまって。あたしはなんだか妙な気恥ずかしさで顔が熱くなった。
――一体なんだってえのよ……。
「いや、なんかさっきからぼ~っとしてるから。……腹でも減ったのか?」
小首を傾げた自称保護者の失礼な物言いにムッとする。
「あのね。あなたと一緒にしないでくれる?」
ジト目で言い返せば、彼は朗らかに微笑む。
「はっはっは……失礼だぞリナ」
「どっちがよ!?」
思わず懐からツッコミ用スリッパを取り出したあたしに、ガウリイは噴き出してくすくすと笑い出す。
「すまんすまん、冗談だって。――ほら、髪に枯れ葉が付いてるぞ?」
この男の冗談は分かりにくい。
「葉っぱ? ああ、さっき森を抜けたから……、っ」
自然とあたしに向かって伸ばされた手に、気が付いたら息を呑んでいた。
「どうした?」
「ん。なんでも、ない」
「そうか」
触れたのは一瞬で。ひょいとあたしの髪から枯れ葉を摘まんで離れていった彼の指先は、その葉っぱをすぐに風に乗せて飛ばしてしまう。その何げない仕草から、何故だかあたしは目が離せない。
――なんでこんなに。あたしはドキドキなんてしているのだろう。
二人旅の道中。日差しに照らされた小道を歩き始めてから、それなりの時間が経っている。そろそろ次の街が見えてきても良さそうなものなのだが。まあ、文句を言っても仕方がないので、時々休憩を挟みながらも、あたしたちは歩みを止めない。
――二人旅。
あたしとガウリイが『旅の連れ』となってから、もう何年経ったのだろうか。誰かが隣を歩くのを、誰かに背中を預けて戦うことを、あたしはいつの間にか当たり前みたいに感じてしまっている。
彼はあたしの大事な旅の相棒で、だけど相変わらず彼は『自称保護者』。ずっと変わらない関係性。それがとても心地が良くて、それで良いと思っている。……はず、なんだけど。
「……ガウリイ」
「どうした?」
あたしの声に振り返ったガウリイは、相変わらず能天気そうな顔をしている。――なのに。そのアイスブルーの瞳が綺麗だな、とか。太陽の日差しに照らされた金色の髪に触れたいとか。良く分からない感情が次々に湧いてきて、あたしはなんだか堪らなくて顔を俯けた。
「ごめん、なんでもない……」
けど、そんな返答にあたしの『自称保護者』が黙っているわけがない。
「リナ」
顔を上げられないのに、彼の今しているであろう表情が分かってしまう。心配そうな顔、しているに違いない。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。どうしたら良いのか分からなくて。
「あの、さ……」
何かを言わなくてはいけない。そんなあたしの頭に、ぽふりと大きな手が触れた。そのままくしゃりと撫でられて、それに余計に胸が苦しくなった。
「無理しなくていい。何か悩んでるんなら教えて欲しいけど……言いたくないなら、聞かないから」
優しい声にぎゅっと唇を噛む。触れた掌の暖かさに涙がでそうな程に安心する。それなのに、その指先が触れた部分が熱くて堪らない。
「……ん、」
やめて欲しいのに、もっとして欲しい。子供扱いされるのは嫌で、だけどきっと心が離れたら泣きたい程哀しくなるのだろう。そんな複雑な感情の名を、あたしはきっと知っている。
――ああ、そうか。そうなのだ。
すとん、と急に納得がいった。顔を上げれば、ガウリイは微笑んだ。……あたしは、その笑みが好きだ。
「あのね、ガウリイ」
好き。あたしの『保護者』を自称する、この天然で優しくて、だけど誰よりも頼りになる相棒の事が、あたしは好きなのだ。――勿論、ずっと人間として、相棒として彼の事が好きだったけど、それだけじゃなくて。『恋』という感情を、あたしは今理解した。……いや、『自覚』したのだ。この気持ちを。近すぎて、直視出来ていなかった、この感情の正体を。
「……あたし、あなたの事が好きみたい。それに、今気づいたの」
気が付いたら、するりと口から言葉が滑り出た。それに驚いたのはあたしの方で。――なんでこんなすぐに言っちゃうかな!?
慌てるあたしを前に、ガウリイもまた目を丸くして。……それから、しかし彼はまるで何てことないみたいな顔をして、いつもみたいに微笑んだ。
「そうか。……オレは、もっとずっと前から、お前さんの事が好きだよ」
何がどうおかしいのかと問われると、それはなんとも言葉にし辛いのだが。とにかく、おかしいったらおかしいのだ。急にむしゃくしゃしてやけ食いしたくなったり、訳もなく不安になったり。……そして、不意に胸が苦しくて、早鐘を打つ心臓の音に動揺したりする事もある。
それは一体何故なのか。その理由が、あたしにはなんとなく分かるような、だけど分かりたくないような。そんな、複雑な気持ちに苛まれているのだ、今のあたしは。
「リナ」
そのとき、不意に頭の上から降ってくる声。
「っひゃい!? ……な、なによガウリイ」
その聞き慣れたはずの声に、物思いに耽っていたせいか驚いてやけに大きなリアクションを返してしまって。あたしはなんだか妙な気恥ずかしさで顔が熱くなった。
――一体なんだってえのよ……。
「いや、なんかさっきからぼ~っとしてるから。……腹でも減ったのか?」
小首を傾げた自称保護者の失礼な物言いにムッとする。
「あのね。あなたと一緒にしないでくれる?」
ジト目で言い返せば、彼は朗らかに微笑む。
「はっはっは……失礼だぞリナ」
「どっちがよ!?」
思わず懐からツッコミ用スリッパを取り出したあたしに、ガウリイは噴き出してくすくすと笑い出す。
「すまんすまん、冗談だって。――ほら、髪に枯れ葉が付いてるぞ?」
この男の冗談は分かりにくい。
「葉っぱ? ああ、さっき森を抜けたから……、っ」
自然とあたしに向かって伸ばされた手に、気が付いたら息を呑んでいた。
「どうした?」
「ん。なんでも、ない」
「そうか」
触れたのは一瞬で。ひょいとあたしの髪から枯れ葉を摘まんで離れていった彼の指先は、その葉っぱをすぐに風に乗せて飛ばしてしまう。その何げない仕草から、何故だかあたしは目が離せない。
――なんでこんなに。あたしはドキドキなんてしているのだろう。
二人旅の道中。日差しに照らされた小道を歩き始めてから、それなりの時間が経っている。そろそろ次の街が見えてきても良さそうなものなのだが。まあ、文句を言っても仕方がないので、時々休憩を挟みながらも、あたしたちは歩みを止めない。
――二人旅。
あたしとガウリイが『旅の連れ』となってから、もう何年経ったのだろうか。誰かが隣を歩くのを、誰かに背中を預けて戦うことを、あたしはいつの間にか当たり前みたいに感じてしまっている。
彼はあたしの大事な旅の相棒で、だけど相変わらず彼は『自称保護者』。ずっと変わらない関係性。それがとても心地が良くて、それで良いと思っている。……はず、なんだけど。
「……ガウリイ」
「どうした?」
あたしの声に振り返ったガウリイは、相変わらず能天気そうな顔をしている。――なのに。そのアイスブルーの瞳が綺麗だな、とか。太陽の日差しに照らされた金色の髪に触れたいとか。良く分からない感情が次々に湧いてきて、あたしはなんだか堪らなくて顔を俯けた。
「ごめん、なんでもない……」
けど、そんな返答にあたしの『自称保護者』が黙っているわけがない。
「リナ」
顔を上げられないのに、彼の今しているであろう表情が分かってしまう。心配そうな顔、しているに違いない。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。どうしたら良いのか分からなくて。
「あの、さ……」
何かを言わなくてはいけない。そんなあたしの頭に、ぽふりと大きな手が触れた。そのままくしゃりと撫でられて、それに余計に胸が苦しくなった。
「無理しなくていい。何か悩んでるんなら教えて欲しいけど……言いたくないなら、聞かないから」
優しい声にぎゅっと唇を噛む。触れた掌の暖かさに涙がでそうな程に安心する。それなのに、その指先が触れた部分が熱くて堪らない。
「……ん、」
やめて欲しいのに、もっとして欲しい。子供扱いされるのは嫌で、だけどきっと心が離れたら泣きたい程哀しくなるのだろう。そんな複雑な感情の名を、あたしはきっと知っている。
――ああ、そうか。そうなのだ。
すとん、と急に納得がいった。顔を上げれば、ガウリイは微笑んだ。……あたしは、その笑みが好きだ。
「あのね、ガウリイ」
好き。あたしの『保護者』を自称する、この天然で優しくて、だけど誰よりも頼りになる相棒の事が、あたしは好きなのだ。――勿論、ずっと人間として、相棒として彼の事が好きだったけど、それだけじゃなくて。『恋』という感情を、あたしは今理解した。……いや、『自覚』したのだ。この気持ちを。近すぎて、直視出来ていなかった、この感情の正体を。
「……あたし、あなたの事が好きみたい。それに、今気づいたの」
気が付いたら、するりと口から言葉が滑り出た。それに驚いたのはあたしの方で。――なんでこんなすぐに言っちゃうかな!?
慌てるあたしを前に、ガウリイもまた目を丸くして。……それから、しかし彼はまるで何てことないみたいな顔をして、いつもみたいに微笑んだ。
「そうか。……オレは、もっとずっと前から、お前さんの事が好きだよ」