ゆるい感じで。

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食事。(ゼロス)

2019-12-08 02:07:57 | スレイヤーズ二次創作
お久しぶりにSS更新。

Twitterのワンライ参加作品です。
お題『食事』

魔族の食事スタイルの話。
魔族してるゼロスくんが書きたくて…。16巻直前の感じかなあ?

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 ――『負の感情』というものにも色々と種類がある。怒りや悲しみ、嫉妬や恐怖。そして愛憎。それらは絶妙に混じり合い、干渉し合い、強い感情であればある程複雑だ。
「……今日のはえらく薄味でしたねえ」
 ぺろりと舌で薄い唇を舐めながら、獣神官ゼロスは小さく呟いた。その足元に転がる複数の男は、さっきまで絶望の感情を漂わせていたものの、今は既に何も感情を有していなかった。――つまり死んだのだ。
「テメェ、よくも……ッ」
 次に向けられた感情は鋭い憎しみ。そしてそれにありありと混じる怯え。さっきよりは余程マシだが、それでもゼロスにとってはそれは『薄味』だった。
「いやですね、仕掛けてきたのはそちらじゃないですか。盗賊さん達。……と言っても、もう残りは貴方だけですね」
「この、化け物が……!」
 訳あってヒトの姿で森を歩いていたゼロスを、カモと思い込んで襲ってきたのは相手の方だった。数で囲めばなんとかなる、などと。相手の力量も見ずに手を出すとはあまりにも愚かだ。

 生きとし生ける人間の天敵、人間の負の感情を喰らう者。世界の滅びを願う者。魔族という存在は『そういう風に』創られた。生存本能を有し、世界の繁栄と永続を願う人間。家畜の肉を喰らい川の魚を喰らう人間とまったく同じである。『何を望み、何を食べるのか』。それが違うという、ただそれだけだ。
 だからゼロスは、ヒトの絶望を喰らう。それが彼の食事スタイルである、というそれだけの話。
「さて、どうします? このまま僕に殺されたいですか? 何もかも捨てて逃げだしてくださるというなら、このまま見逃す事も検討しますけど……」
「……本当、か?」
 ゼロスの言葉にぱっと顔を上げた男の心は、見事に複雑な感情を描いていた。怒りと憎しみ、深い恐怖に混じった一点の希望と迷い。
 ――嗚呼、なんて甘美。小さな小さな希望が混じった絶望とは。
「…………、あっ」
「……残念。返事が遅いですね。検討しましたが、やっぱり見逃して後から復讐されたら怖いですし。ここでお仲間と一緒になって頂きましょう」
 にこりと微笑んで。ゼロスは絶望に染まる男に向かい、その手に持った杖を振るった。

   ◇

「はあー。最後はまあマシでしたけど、やっぱりちょっと薄味でしたね」
 宵闇に染まる森の中を歩きながら、ゼロスは一人道を行く。ずっと一人で居ると独り言が多くなるのは、人間に限らず魔族も同じだった。
 ――もっと、もっと複雑かつ甘美な負の感情を食したい。
 魔族であれば誰もが抱く食へのこだわり。インスタントよりきちんと素材と調理にこだわって、自分好みに味付けしたものを。彼にも仕事があるから、あまり勝手なことは出来ないのだが。
「……ああ、そういえば」
 ——リナ=インバース。彼女とその周りの人間達ならば。あの、どんな苦境を、絶望を与えられても立ち上がり、生きようと無様であろうともがいて見せる人間達ならば。
 ……きっと、甘美な負の感情を得られるに違いない。
「久しぶりに様子でも見に行ってみましょうかねえ」
 思いついた妙案に知らず興奮しながら、ゼロスは歩くテンポを速めるのだった。