越えてはいけない一線を越えた者たちの『事情』は、私には解らない。
「おじさん、あたし見てんの?」
そのセリフだけを、強烈に憶えている。
ブロック塀をぶち壊し、
空き地に乗り上げた、盗難車に集る野次馬に紛れて、
Oは一人の男性に、そう声をかけた。
およそ中学生には見えない、その容貌は、
高そうな、大人びた、真っ白なロングコートや、
念入りな化粧、丁寧に染められた髪のためだが、
なぜ、その現場を、彼女や私が見に行ったか。
その理由は『お察し』である。
ただ、その犯人は後に、相応の報いを受けた、と、私は思う。
理由にも何もならないが、時代は荒れていて、
まだまだ、未開だった頃の話だ。
Oがあの時、男性に声をかけたのは、
彼女が身につけている、
様々なものを買う資金を得るための、カモを探していたからだろうが、
彼女が『売った』もの。
買ったもの。
『払った』代償がどれほどのものなのか。
二、三度顔を合わせただけの私にはわからない。
ただ、あのセリフのせいで、あの場面が、
写真のように、脳裏に焼き付いている。
男性が目を背けるとOは、弾けるように笑った。
『たまり場』には文字通り、
様々な『事情』がたまり、
蠢いては、去っていった。
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