おそらくそれは『自由』ではなく、おそらくそれは『孤独』ではない。
「タバコは何吸ってんの?」
そうAが話しかけてきたことから、
私達の付き合いは始まった。
都心から、転校生としてやって来たAが、
例のごとく、型通り、みんなの前で自己紹介し、
隣に座ってすぐ、の話だ。
『悪過ぎて』それまでの中学校にいられなくなり、
私の住む町へ『飛ばされて』来た彼女は、
まだヤンキー全盛期の、
ズルズルと長いスカートを引きずる生徒たちの前に、
膝上スカート、ハイソックス、レイヤーカットの髪をなびかせて、
『外の風』を持って現れた。
なぜ、彼女が私を気に入って、
急に話しかけて来たのかはわからないが、
とにかく二人は仲良くなり。
同時に、私は他の同級生とは疎遠になり始めたのだった。
「大して仲良くもないヤツらと、迎合するのは気持ち悪い」
という、彼女の考え方に私は影響を受け、
Aの持つ、『外の風』に魅入られた。
流行りのファッション、ブランド、化粧品、ディスコ。
バブルに突入しようとしていた、かつての六本木が、
彼女のホームタウンだった。
彼女の周りでは、中学生が『親に与えられた』架空名義のカードを持ち歩き、
ホテルで遊び、移動はタクシーでするのだ。
カクテルを傾け、爆音に身を浸し、
つるむことを好まず、自由に遊ぶその姿は、
まるで違う世界の住人のようだった。
ホントかウソか、よくわからない話も多かったけれど。
少なくとも私が見たものには、間違いがなかった。
通学のために母親と、平日だけ暮らしている小さなアパートは、
昼間は母親不在のため、
Aと私が授業を『ばっくれて』遊ぶ、根城となった。
そして瞬く間に卒業の時がやってきて。
彼女は進学をせずに、地元に戻ることになった。
最後に
「これあげる」とAが、
どっさり、ブランドものの服を私に残していったのは。
年頃なのに、服の一枚も買って貰えない、『束の間の友人』への、
同情からだったのだろう。
全身で、全方位に敵意をむき出しにしていた彼女が、
どうして私に対しては優しかったのか。
今思い出してみても、彼女は『自分』のことを、あまり語らなかったのでわからない。
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