『怖い』を知らない怖さ。
Rの母親は『理想の家庭』の実現に、躍起になっていた。
手作りの服に手作りのお菓子。
小奇麗な家に、規則正しい生活。
優秀で従順な息子に、
スタイルが良く、美しい中学生の娘。
自身も高学歴で、
しかし、その娘Rは、あまりの窮屈さに息も出来ず、
もがくように出口を求めていた。
不自然なほど明るく、物怖じしない性格も、
それに拍車をかけて。
はっきりモノを言い過ぎることから、
集団から弾き出されたRは、
同じく、集団とは相入れない私や、
Nとつるむようになった。
その怖いもの知らずさから、
誘われればどこにでも顔を出し、
それぞれに少し持て余されながらも気にもせず、
その『世界』を楽しげに満喫する彼女に、
母親は怒り狂い、『たまり場』へ踏み込んでくること数回。
時には私の継母を引き連れて、
窓から乗り込んで来たこともあった。
ヒステリックに叫び、
なりふり構わず周囲を罵倒し、娘を引っ掴み...
「アタシが悪くなったのはerimaのせいだって、お母さんが言ってる」
だからアタシとは付き合ってないってコトにしてくれと、
R自ら、そう頼んできたこともあった。
「ああいう家庭の子だから、erimaがお前を引き込んだに決まっている」
と、母親が言っていると。
Rには悪気はなく、
単純に言われたことを私に伝えただけなので、
それはそれで「了解!」となったが、
ただ、あの母親の言ったことが、
『世間の偏見』の存在を私に教え、
それは今に至るまでの、
「世間の思う壺にはならない。
ああやっぱり、ああいう家の子だからと言われるような事は、絶対にしない」
という、意地を作ってくれた。
Rの、「erimaとはもう付き合っていない」という『嘘』に、
あの母親が騙されたのかどうかはわからないが、
熱しやすく、恋愛体質のRは、
私と同じ高校に進んでからも、
様々な「かっこいい!」人を追いかけては、学校中の噂になり、
次第に居づらくなったのか、進級前に辞めてしまった。
そして、家を出て。
その頃にはもう、詳しいことはわからなかったが、
ある日、ある筋の、情婦となって、
颯爽と、毛皮を羽織って会いに来たのを覚えている。
まだ、16か、17の頃の話だ。
次に会ったのは子供を二人産んだ後。
「違う男と遠くに逃げた」と連絡が来て、
ほとぼりのさめた頃。
結局、その後もまた、彼女は違う男と逃げて、
今はもう、何をしているかはわからないけれど、
風の噂では、実家に戻ったという話もあるから、
案外しれっと、『普通』にやっているのかもしれない。
あの、不思議なほどの、『快活さ』で。
もしかすれば、
『いつでも帰れる場所がある』ということが、
彼女の暴走をとめどないものにし、
けれど、やはり、元の場所に戻したのだろうか。
はたして。
帰る場所がない私には、わからない。
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