『普通』であることの、どれだけ難しいことか。
私が中学生だった頃。
友人Mの家はシングルマザーの母親と、歳の近い妹二人という家族構成で、
小さな、二間のボロアパートに住んでいた。
階下には、太った性格の悪い夫婦が住んでいて、
これがまた、私の継母と仲が良かったものだから厄介なのだけれど、
とにかく少しでも物音をたてれば、
彼らが下から天井を棒でガンガン突いてきて、
挙句の果てに、怒鳴り散らしにくるのだと、
Mを含めた三姉妹は怯えるように暮らしていた。
母親はめったに帰って来ず。
ときおり在宅の際に顔を合わせれば、
髪を真っ赤に染めた、気のいい、陽気な人なのはわかりはしても、
色々と、世間に溶け込むにはアレな人なのかなぁと、
14歳の私にも感じさせるような、独特の雰囲気を纏っていた。
そんなこともあってか、三姉妹はいずれも、
中学生時代から男と同棲を始め、
次々に母親のボロアパートから、旅立っていったのだった。
...旅立ったとは言っても、
やはりその先もボロアパートで。
時代はまだバブルを迎えていなかったから、
皆、似たようなものではあったけれど、
少なくとも彼女らの未来が明るいものとは、
お世辞にも思えない状況だった。
肉体労働者が住むアパートや、
工場従事者の寮が多く集まった町で。
それでも片親家庭は、まだ珍しかった時代の話だ。
Mと、Nと、私とR。
つるんでは遊び、それぞれの家庭の歪みを、
寄せ集めるように、増幅させていった仲間だったが、
子供たちの非行に、怒り狂う親たちの中でも、
変わらず、Mの母親だけは、無関心で、
家にも帰らない様子だった。
MはMで、少々だらしなく、お世辞にも頭が良いとは言えなかったが。
カラカラと陽気に笑う、コロコロと太った少女で。
大らかに人を受け入れる、そんな明るさを持っていた。
高校には進まず、男との同棲を続けたMとは、
16の時以来、顔を合わせていないが。
人伝に聞いた話では、どういう経緯か、風俗嬢になったようだ。
その後、どうしているのか、今は知る由もないけれど。
母親が若くして、亡くなってしまったことも、
同じく人伝に聞いた。
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