南から湿気をふくむ強風が吹き荒れるなか、
わたしは
左手に車の鍵
右手にはゴミ袋を握りしめて、
車道を歩いていた。
汗ばむ額をぬぐうと
どんよりとした灰色の空。
保育園までの道、
人ひとり通らず、風が揺らす小学校の木々の音だけがしていた。
わたしは、道を引き返した。
ある妄想をしたからだ。
もしここでわたしがトラックにでも跳ねられ
意識不明
もしくは死んでしまった場合。
謎が多すぎるからだ。
左手には車の鍵、右手にはゴミ袋。
自宅からは大分離れており、
目指す保育園にも近くない。
ポケットのない服に
ほかになにも携帯しておらず、
まったく手がかりがない。
この死体は、いったい何をしに
こんな夕方
千葉市指定のゴミ袋を二枚握りしめていたのか。
それを想うと
せめて何か身分の分かるものを。
と思って、車に引き返して、
とりあえず携帯電話を持った。
ゴミ袋は
置いてくるのを忘れた。
なぞのゴミ袋は
団地の不法投棄のごみを回収してやろうと思っていたんだが、
だれかが変わりにやってくれたため
用なしとなったのだ。
みなさんもゴミは所定のゴミ袋で
ちゃんと分別し、
指定の日にだそうね。