不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

L'Atleta dalla Profondita del Mare

2006-10-03 08:23:47 | アート・文化

「海からやってきたアスリート」。
クロアチアの海域の海底で発見されたブロンズ像は
1999年に引き上げられ、
修復技術では世界的に有名なフィレンツェの
Opificio delle Pietre Dureの全面的な協力の下
クロアチアで長年の修復作業が続けられてきた作品。
本格的に修復が始まってから6年、ようやく一般公開となり
クロアチアでの展示を経て
フィレンツェのメディチ・リッカルディ宮殿にて展示。
今回の海外出展が最初で最後の展示となり
その後はクロアチアでしか見られないという一品。

Atleta_croazia_01
全面真っ白な部屋の真ん中にポツリと置かれるブロンズ像。
その展示方法も抜群にいかしています。
照明が一切見えないように白い幕に包まれた異空間。

使用されているマテリアルの緻密な検査と
ブロンズ像の中に残っていた植物の痕跡などから
この作品が紀元前40-50年のものであることが確定。
古代ローマがジュリオ・チェーザレ
(ユリウス・カエサル)の統治下だった時代。
紀元前4世紀頃のギリシャ彫刻のコピーであるということも判明。

海底に深く眠り続けたブロンズ像は、
発見されたとき仰向けの状態で
背面を砂に覆われていたため、背面部の腐食が激しく、
特に右太腿は上薬が薄かったために腐食の進みが激しく崩落。
それに対して前面はフジツボのような貝類によって
一面厚く覆われていたためかえってダメージが少なかったよう。
塩素の除去から始まり、念入りに貝類の除去作業が続けられ
腐食した部分を補強したものの、
ブロンズ像自体の重さがすべて右足にかかってしまうため
像は自力で直立の姿勢を保つことができず、
内部に20箇所の支えのある支柱を導入。
これによって各部位に重さを拡散した上で
支柱によって直立の姿勢を維持。

古代ギリシャ・古代ローマでは頻繁にアスリートの像が作られ
各競技の優勝者を称えたり、
日々の肉体鍛錬の精進を促したとされています。
この像もそんな流れで作製され、
ローマが領土を拡張し征服を続けていく段階で
戦利品としてローマに持ち帰る途中、
何らかの事故で海底に沈んだものと推測。
Apoxyomenosとよばれるこの像は、競技そのものではなく
競技もしくは練習を終えたばかりの選手を表現したもの。
当時選手たちは全裸で競技や練習に挑み、
その際太陽光線から身を守るために全身に油を塗り、
時にはその上に砂を塗ったのだそう。
そして競技が終わったあとに金属へらのようなもので
全身の油と汗などをこそぎ取ってから入浴したといわれています。
その「こそぎ落とし」の瞬間を捕らえたものがApoxyomenos。

Atleta_croazia_04
残念ながら右手に握っているであろうと思われる
その金属へらは紛失しているので
ブロンズ像の若者が
今まさにどのような動作を行っているのかを確定するのは
非常に難しいといわれています。
右手で左手の油をこそぎ落としているのか
もしくは左手でまさに金属へらの汚れを落としているのか。

紛失している部分は
他には左手の小指と両目に挿入されていたと思われる眼球。
くちびると乳首部分は銅製で残りはブロンズ製。
腕と肩の部分の発達が著しく、
鼻や耳に怪我のあとが表現されていないことから
ボクサー以外の闘士であったと推測されています。

海底に眠る姿からは想像もできないまでに
きれいにオリジナルの姿を取り戻した
「海からやってきたアスリート」のブロンズ像は
2007年1月30日まで展示中。

Apoxyomenos
Apoxyomenos L'Atleta della Croazia
展示会場: Palazzo Medici Riccardi
展示会会期: 2006年9月30日から2007年1月30日
開館時間: 9:00-19:00 水曜定休
入場料: 5,00ユーロ

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