不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Venere di Urbino

2008-01-29 07:43:06 | アート・文化

Tiziano_urbino00
フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵する
Tiziano(ティツィアーノ)の
「Vene di Urbino(ウルビーノのヴィーナス)」。
3月には日本で初公開となります。

ヴェネツィアのルネッサンスを代表する
ティツィアーノが手がけた妖艶なこの作品は
当時のGuidobaldo II della Rovere
(カメリーノ公グイドバルド・デッラ・ローヴェレ)の
注文によるもので、
彼は自分の使いの者に
「ヴェネツィアからこの作品を持たずに戻ってくるな」
と命じたほど熱望し入れ込んでいた作品。
この絵が完成して納入される直前に
グイドバルドはウルビーノ公となったため
ウルビーノのヴィーナスと呼ばれるようになります。
1538年完成・納入。

1631年にVittoria della Rovere
(ヴィットリア・デッラ・ロヴェーレ)の遺産相続品のひとつとして
フィレンツェに到着し、ウフィツィ美術館所蔵となります。

ジョルジョーネの未完の「眠るヴィーナス」を
完成させたティツィアーノが
25年ぶりに同様の構図で横たわるヴィーナスを描いた作品で、
その後の西洋絵画史における
女性の裸体表現に大きな影響を与えたといわれています。

画面前面のベッドの上に長い髪を解いて横たわる女性は
はにかんでいるような表情とともにどこか挑発的な仕草の
どちらも持ち合わせているように描かれています。
非常にやわらかな曲線で描かれる女性の体のラインや、
ティツィアーノらしい色彩感覚で描かれる肌の柔らかさが特徴で
女神の美しさとともに官能性も十分に備えた裸婦像となっています。

横たわる裸体の女性の視線が
まっすぐに鑑賞者に向けられている点、
神話の世界での裸体表現ではなく、
日常の生活環境の中に女神が描かれている点が
それまでの裸婦像とは違った新しい時代への先がけとなっています。

この女性が右手に持っているのは
ヴィーナスがこの世に生まれたときに
一緒に地上に生まれたといわれるバラの花で
愛や結婚を象徴するものとして絵画作品の中にもよく描かれます。
また奥の窓際におかれた鉢植えはミルト(日本語では銀梅花)で
常緑低木でその実は香辛料としてもよく使われます。
常に緑色の葉をつけていることから永遠の愛の象徴とされ、
愛の女神ヴィーナスとも深いかかわりがあります。
奥の部屋では2人の女召使が長箪笥の中に
衣類を片付けているシーンが描かれています。
窓の向こうには薄曇りの夕暮れの空がわずかに描かれています。
ヴィーナスの足元で眠る犬は「従順」「忠誠」の象徴。
同時期(1536-1538)に同じくティツィアーノが描いていて
ウフィツィ美術館に所蔵されている
Ritratto di Eleonora Gonzaga della Rovere
(エレオノーラ・ゴンザガ・デッラ・ロヴェーレの肖像:グイドバルドの母)
に描かれる犬と同じ犬で、ロヴェーレ家の飼い犬です。

1996年の修復の結果、
ティツィアーノ独特の色彩の陰影が鮮やかに再現され、
女性の肌の色彩はもちろん、布地の色合いや
横たわるヴィーナスの左耳にゆれる
真珠のイヤリングの輝きまで美しさを取り戻しました。

この作品も詳細な部分が解明されておらず
様々な解釈が存在します。
モデルはヴェネツィアの高級娼婦であるとする説や
注文主の若い妻Giulia Varano(ジュリア・ヴァラーノ)である
とする説があります。
作品の中に描かれるバラやミルトなどの愛と結婚の象徴、
嫁入り道具である長箪笥などが描きこまれていることから
高級娼婦というよりはやはり依頼主の妻と考えるほうが妥当。
結婚の象徴が描きこまれているので
依頼主の結婚祝福の作品と解釈されることもありますが
結婚時期とずれていることなどからも
その可能性は非常に低いというのが最近の見方で
1536年に13歳で嫁いだ若い妻に
貞節と愛の情熱を教えるための
一種教育的な意味合いを持つ絵画である
という解釈も生まれています。
もちろん諸説混在する中、
現在もこの絵の解釈は定まっていません。