不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Nuovo Caravaggio scoperto

2010-07-20 18:07:21 | アート・文化

イタリアのみならず
日本も含め全世界でニュースになったので
目にした方も多いと思いますが、
ローマで新たなカラヴァッジョの作品かも
といわれる絵画が見つかりました。

没後400年のまさにその日の朝に
イタリアの各紙に取り上げられられました。

作品のテーマは「聖ロレンツォの殉教」。
ローマにあるイエズス教会(Chiesa del Gesu' di Roma)の
修道院から見つかり、修復が続けられていた作品です。
その保管状況の悪さから
当初からカラヴァッジョの作品ではないであろう
という見解が強いのも事実です。
もし本当にカラバッジョの作品であれば、
少なくとももう少し扱いがよかったのではないか
という意見もあります。

各紙に取り上げられた写真は
その作品の一部のみの公開になっています。
作品は1592年から1601年の
ローマ滞在期間中に描かれたもので
焼き網の上で殉教する聖人と
それを囲む3人の看守で構成されています。

修復された作品自体は非常によい出来で、美しく
各所にカラヴァッジョの様式を残しています。
たとえば鉄格子をつかむ聖人の右手は
ローマのPalazzo Barberini(バルベリーニ宮殿)所蔵の
「Oloferne decapitato da Giudetta
(ユディットに首を切られるホロフェルネス) 」の
ホロフェルネスの右手に非常によく似ているとか、
聖人の目に見られる恐怖や苦痛の表情が
現在ローマのChiesa di San Luigi dei Francesi
(サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会)に所蔵される
「聖マッテオの殉教(Martirio di San Matteo)」のなかで
恐怖に耐える聖人の表情と同じものが伺えるとか。

しかし、一方で
サン・ロレンツォの腰に巻かれた布地の質感が
あまりにも稚拙で
カラヴァッジョによるものとは思えないという意見や
人物の肌の質感もまるでなめし革のようで実感がなく
到底カラヴァッジョのレベルのものではないともいわれます。

またこの作品が保管されていた
ローマのイエズス会教会にある礼拝堂には
同じく聖ロレンツォの殉教をテーマにした
1603年のAgostino Campelli(アゴスティーノ・カンペッリ)作の
フレスコ画があり、
その作品ともエコーする部分が何点かあるといわれています。
この礼拝堂はもともとCrescenzi(クレシェンツィ家)の礼拝堂で
カラヴァッジョに「聖マッテオの殉教」を依頼した
Contarelli(コンタレッリ家)とも繋がりがあったといわれていますが、
フレスコ画は彼の作品でないことは明らかで、
カラヴァッジョの影響を受けた優秀な画家であれば
非常によく似た画風(カラヴァッジョ風)で、
ある程度のレベルの作品は
製作できるということの証にほかなりません。

カラヴァッジョとイエズス会との関係も取りざたされていますが、
そもそも宗教的な人物ではなかったカラヴァッジョが
ある特定の宗派と密接に結びつくことも考えにくく
実際彼はイエズス会との関係についての記述は一切残していません。
ただ、頻繁にイエズス教会に出入りしていたことは
Giovanni Baglione(ジョヴァンニ・バリオーネ)に起こされた
訴訟公判で認めており、
それは弟子でもあったバリオーネの
製作手伝いに行っていたからだと述べています。

今回話題になっている作品の画風は
確かにカラヴァッジョに近いものがあり、
彼のオリジナル作品である可能性も高いのですが
今後の詳細な分析と照合が必要です。
多くの専門家が
カラヴァッジョオリジナルであるという説には疑問を呈し
カラヴァッジョ派の作品であるという意見が多くなっているようです。
専門家は没後400年を華やかに飾るためだけの
早急な結論付けを控えるように警告を出しています。
多くの専門家は公開された写真だけで
未だ間近で作品を目にしていないこともあり
明言を避けるという雰囲気も出来上がっています。
はっきりするのはまだまだ先の話になりそうです。