夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『トム・オブ・フィンランド』

2019年08月14日 | 映画(た行)
『トム・オブ・フィンランド』(原題:Tom of Finland)
監督:ドメ・カルコスキ
出演:ペッカ・ストラング,ラウリ・ティルカネン,ジェシカ・グラボウスキー,
   タイスト・オクサネン,シェーマス・サージェント,ヤーコブ・オフテブロ他
 
淀川花火大会の日だった先週土曜日からダンナは9連休のお盆休み。
私の職場にはお盆休みというものはないけれど、それでも3連休初日。
まだ風邪をひきずっているからハシゴも本数少なめ、3本で妥協。
 
その1本目には時間的に合うからというだけで本作を選んだのですが、これが当たり。
というのか、この日の3本ハシゴはすべて大当たりで嬉しくなりました。
 
フィンランド/スウェーデン/デンマーク/ドイツ作品。
ハードゲイの所以もわかって、長年の疑問が軽やかに解けた印象。
レザースーツに身を包んだマッチョな男性って、
憧憬と愛情と敬意の表れだったんですね。なるほどとニッコリ。
って、そんな明るい作品でも軽い作品でもないんですけど、
しみじみ、良かったなぁと思える作品だったなぁ。
 
第二次世界大戦を闘い抜き、受勲したトウコ・ラクソネン。
帰還後は戦場のフラッシュバックに悩まされ、
心配する妹カイヤが誰かいい人を見つけて結婚すればいいのにと言うが、
ゲイのトウコには女性と結婚することなど考えられない。
フィンランドでは同性愛が法律で禁止されており、
トウコは欲望を抑え込んだままの鬱々とした日々が続く。
 
もともとピアノや絵を学んでいたトウコは、
あるとき欲望をひそかに解放する手段を思いつく。
それは逞しい男性たちの絵を描くこと。
軍人や警官、街で見かけたバイク乗りなどを想い、
さまざまな欲望をそのまま表現した絵をひたすら描くのだが……
 
法律で禁止されているからって、ゲイをやめろと言われても無理でしょ。
つらい人生を歩んできたんです、トウコさん。
フィンランド国内では無理だと思ってドイツへ行き、
そこで自分の絵を売ろうとしたら、すぐに興味を示すビジネスマンが。
意気投合してホテルで一夜明けると、自分の絵も金もパスポートもない。
そこからまた散々な目に遭って、なんとかフィンランドに帰るのです。
 
ここであきらめないのがエライとこ。
今度はアメリカの雑誌社へ自分の絵を送ります。
本名を明かすわけにもいかずに“Tom”とサイン。
絵はたいそう気に入られ、みごと雑誌の表紙を飾ることになるのですが、
雑誌の表紙を飾るにしてはペンネームが地味すぎると、
あてがわれたペンネームが“Tom of Finland”。
 
彼の絵はアンダーグラウンドの同性愛者コミュニティで大人気となり、
やがてアメリカに招待されるまでに。
招かれたロサンゼルスの屋敷ではゲイが大パーティーを繰り広げている。
そこに警察が押し入ったときのトウコの表情が面白い。
また捕まえられるのかと思いきや、警官たちは「失礼、コンビニ強盗を追跡中で」。
制服警官の姿を見たトウコは、思わず彼らを写真に撮り、後の絵のモデルに。
 
もちろん、フィンランドよりアメリカのほうが進んでいたとはいえ、
エイズが蔓延しはじめてからのゲイ追放デモは激しかった。
そのとき、トウコは「これは自分の責任だ」と言って、
コンドームの使用を訴えかけるとともに、自分の作品集を出版する決意をします。
彼の作品集を出版しようという出版社なんてどこもにもありません。
でも、1軒だけあったんですよね、小さな小さな宗教関係の出版社が。
宗教本の出版社がゲイのポルノまがいの作品を?
でもトウコは胸を張って答えます。「私にとっては神聖なものだ」。
 
エイズで死にゆく若者が、トウコに「後悔はしていないか」と聞かれて首を振り、
「僕は貴方から、命と愛情をもらった」と言うのを聞いたとき、涙が出ました。
 
ちょっと違って見えそうです。
私も愛情のたっぷりこもった目でハードゲイを見ることになりそう。

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