夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『存在のない子供たち』

2019年08月16日 | 映画(さ行)
『存在のない子供たち』(原題:Capharnaum)
監督:ナディーン・ラバキー
出演:ゼイン・アル・ラフィーア,ヨルダノス・シフェラウ,ボルワティフ・トレジャー・バンコレ,
   カウサル・アル・ハッダード,ファーディー・カーメル・ユーセフ,シドラ・イザーム他
 
シネ・リーブル梅田で大当たりの3本ハシゴの3本目。
今度はレバノン/フランス作品。
 
家を出る前にオンライン予約していたのは先の2本のみでした。
病み上がりともまだ言えないほどの病み中だったし、
『シークレット・スーパースター』の上映時間は150分だったから、
2本観たら疲れておしまいなんじゃないかと思って。
しかし2本とも良かったから疲れも感じず、
どうにも気になっていたこれも勢いで観ようかと。
結果、とてもつらくてしんどい作品でしたが、観てよかった。本当によかった。
いろんな人に観てほしいと強く思う作品です。
 
監督は女優でもあるナディーン・ラバキー。
本作にも弁護士役で出演しています。めちゃくちゃ美人。天は二物を与える。
 
12歳(ぐらい)の少年が両親を訴える。「僕を産んだ罪で」。
衝撃の幕開けです。
 
レバノンの首都ベイルートスラム街に暮らす少年ゼイン。
両親が出生届を出さなかったため、正確な誕生日も年齢もわからない。
そんな彼が人を刺し、逮捕される。
刑務所で彼の健康状態を調べた医師が、乳歯がないことからおよそ12歳と推定する。
被告人として裁判に出廷する一方、彼は刑務所から生放送中のTV番組に電話。
自分の両親を訴えるつもりであることを告白する。
 
場面は時をさかのぼり、ゼインがここへ至った状況を映し出します。
 
両親はやることだけはやって子供をつくり放題。
何人いるかわからないほどの子沢山で、学校に通わせる気などさらさらない。
弟妹たちの面倒をみるゼインは、朝から晩まで大家の店で働き、
そのおかげで家賃を免除してもらっている。
 
ゼインが特に可愛がっている妹サハルはまだ11歳だが、
大家はサハルに目をつけているらしい。
布団についたわずかな血からサハルが初潮を迎えたことを悟ったゼインは、
絶対にそのことを両親や大家に知られぬようにしろとサハルに言う。
もしも知られれば、サハルは両親から大家に差し出されてしまうにちがいない。
 
ゼインの努力もむなしく、サハルは鶏と引き換えに大家のもとへ。
憤るゼインは何もかもに絶望し、ひとりで家を飛び出す。
行くあてもなく街をさまよううち、エチオピア人難民の女性ラヒルと知り合う。
ラヒルは赤ん坊のヨナスを抱え、不法滞在中。
彼女が仕事をしている時間中、ゼインがヨナスの世話をするようになるのだが……。

ラヒルの家に泊めてもらうようになったばかりのゼインが、
彼女が金を隠している場所を知るシーンがあります。
ラヒルが留守にしている間に、ゼインはその金を盗んで逃げるんじゃないか。
そんな予感をさせるシーンもありました。でもゼインはそんなことはしない。
 
出先でほかの不法滞在者とともに捕まったラヒルが帰ってこない。
そうだと知る由もないゼインは、自分が生きるだけで精一杯のはずなのに、
ヨナスを抱きかかえてラヒルを探す。
慌てた様子も見せずに、ヨナスのために食料を求め、
かつて両親にやらされていた薬を売りさばく方法で稼いでもみせる。
だけど、せっかく稼いだ金を隠したまま、ラヒルの家が封鎖されてしまう。
もう辛くて辛くて、どうしてこんな可愛い子にこんな試練を与えるのか。
 
子供のことが可愛くないわけがないと言いたげな両親。
自分たちの貧困を嘆きわめいて見せるけれど、ヘドが出る。
ゼインの言うとおり、「心がない」。世話ができないなら産むな。
 
凄絶。
最後の、たった一度のゼインの笑顔に心が揺さぶられます。
 
なお、映画に登場する子供と似た境遇の、
演技経験のない子供たちがキャスティングされています。
ゼインを演じた少年はノルウェーに移住、サハルを演じた少女はベイルートの学校へ。
これだけの演技ができる彼らのこと、きっととても賢い。
優秀な成績を収めているようで、彼らのこれからの幸せを祈ってやみません。

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