夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『エンドロールのつづき』

2023年01月30日 | 映画(あ行)
『エンドロールのつづき』(原題:Last Film Show)
監督:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ,リチャー・ミーナー,バヴェーシュ・シュリマリ,ディペン・ラヴァル,
   キシャン・パルマー,パレッシュ・メタ,アルペシュ・タンク,ナレシュクマル・メタ他
 
なんばパークスシネマにて、前述の『ヒトラーのための虐殺会議』の次に。
 
インド/フランス作品。
パン・ナリン監督が自らの少年時代の実体験を基に描いた自伝的作品なのだそうです。
ナリン監督はインドの実力派と言われているそうだけど、私は知らないんだなぁ。
ネットで調べてもヒットするのは2本だけ。しかもタイトルが怪しすぎる。
『性の曼荼羅』(2001)と『花の谷 時空のエロス』(2005)って。劇場未公開だし。
 
しかし本作はめちゃめちゃよかった。
インド版『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)といったところかと思いますが、
私はこっちのほうが断然好き。なんとも愛らしく爽やかで切ない。
行ったこともない異国の話なのに、郷愁を感じます。
 
2010年、インド・グジャラート州の田舎町チャララ。
9歳の少年サマイは両親と妹の4人暮らし。
もとはカースト制度の頂点バラモンだった父親は、訳あって今はしがないチャイ売り。
サマイは父親の仕事を手伝い、列車が駅に停まると窓越しに乗客にチャイを売る。
 
ある日、映画嫌いのはずの父親が家族総出で映画を観に行くと言う。
サマイが映画に連れて行ってもらうのは5歳のとき以来で、
映画に連れて行くのは今日が最後だと言う父親。
 
家族で訪れた街の映画館“ギャラクシー座”で映画に魅せられたサマイは、
学校をさぼってギャラクシー座に忍び込むが、従業員に見つかって放り出される。
しょげるサマイに声をかけたのは、ギャラクシー座の映写技師ファザル。
ファザルはサマイが持参した弁当と引き換えに映写室に招き入れてくれて……。
 
少年の名前サマイには「時間」という意味があるのだそうです。
ファザルから「ご両親はどうして君をサマイと名づけたのかな」と問われ、
「お金も仕事もなかったパパとママには時間だけはあって、
そのときに僕が生まれたから」と答えます。すごくいい表情で。
 
そんなママのつくるお弁当は超絶美味しくて、ファザルは毎度舌鼓を打つ。
ママの料理する様子も素晴らしく、立ち上る湯気や具材を炒める音が楽しい。
 
サマイと悪ガキ仲間6人衆が最高。
駅舎の倉庫から盗み出した映画のフィルムをなんとか映し出そうと、
サマイの指示を受けて道具探し。娯楽のない村人たちも大喜び。
ただ、父親だけは映画をいかがわしいものとして喜びません。
怒ってばかりの父親だったからこそ、ラストには胸が熱くなる。
 
サマイが通う小学校の先生の言葉がなるほど。
今のインドには2つの階級しかない。英語を話せる層と英語を話せない層と
田舎の町を出て行くには英語が必須。
 
エンドロールでオマージュを捧げられる日本人映画監督は3人だったかな。
勅使河原宏と小津安二郎黒澤明
廃棄されて装身具に加工されたフィルムは彼らの化身。
 
心洗われる作品でした。すごくよかった。

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