角川文庫で、葉室麟著『秋月記』を読みました。直木賞を受賞した『蜩の記』では、いささか死を美化する傾向を感じましたが、本作ではそれほど濃厚ではなく、比較的素直に読むことができました。
筑前の小藩・秋月藩において、藩政に専横を極める家老の宮崎織部を除くべく、間小四郎ら若手の藩士が立ち上がります。それは、本藩である福岡藩に訴えるというものです。企ては成功したように見えましたが、小四郎は背後に策謀があり、自分たちは福岡藩に利用されたのではないかと考えはじめます。
このあたりの構造は、単純な善玉・悪玉ではなく、入り組んだ利害と人間関係に現れており、いかにも大人の物語です。一度はどうしようもない悪役に見えた元家老・宮崎織部に、小四郎が、実は重要な意味を持って再会するあたり、うまいなあと感心します。こういう逆説的表現は、山本周五郎『樅の木は残った』などで得意とするところでしょう。しかし、著者はもっと簡潔に、引き締まった物語とすることに成功しています。
作者は、どうやらほぼ同世代のようです。存命の作家の中では、最も注目している時代小説作家の一人です。『蜩の記』『銀漢の賦』に続き本書を読み、思わず引き込まれてしまいました。おもしろいです。
筑前の小藩・秋月藩において、藩政に専横を極める家老の宮崎織部を除くべく、間小四郎ら若手の藩士が立ち上がります。それは、本藩である福岡藩に訴えるというものです。企ては成功したように見えましたが、小四郎は背後に策謀があり、自分たちは福岡藩に利用されたのではないかと考えはじめます。
このあたりの構造は、単純な善玉・悪玉ではなく、入り組んだ利害と人間関係に現れており、いかにも大人の物語です。一度はどうしようもない悪役に見えた元家老・宮崎織部に、小四郎が、実は重要な意味を持って再会するあたり、うまいなあと感心します。こういう逆説的表現は、山本周五郎『樅の木は残った』などで得意とするところでしょう。しかし、著者はもっと簡潔に、引き締まった物語とすることに成功しています。
作者は、どうやらほぼ同世代のようです。存命の作家の中では、最も注目している時代小説作家の一人です。『蜩の記』『銀漢の賦』に続き本書を読み、思わず引き込まれてしまいました。おもしろいです。