電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

葉室麟『秋月記』を読む

2013年02月24日 06時04分02秒 | 読書
角川文庫で、葉室麟著『秋月記』を読みました。直木賞を受賞した『蜩の記』では、いささか死を美化する傾向を感じましたが、本作ではそれほど濃厚ではなく、比較的素直に読むことができました。

筑前の小藩・秋月藩において、藩政に専横を極める家老の宮崎織部を除くべく、間小四郎ら若手の藩士が立ち上がります。それは、本藩である福岡藩に訴えるというものです。企ては成功したように見えましたが、小四郎は背後に策謀があり、自分たちは福岡藩に利用されたのではないかと考えはじめます。

このあたりの構造は、単純な善玉・悪玉ではなく、入り組んだ利害と人間関係に現れており、いかにも大人の物語です。一度はどうしようもない悪役に見えた元家老・宮崎織部に、小四郎が、実は重要な意味を持って再会するあたり、うまいなあと感心します。こういう逆説的表現は、山本周五郎『樅の木は残った』などで得意とするところでしょう。しかし、著者はもっと簡潔に、引き締まった物語とすることに成功しています。

作者は、どうやらほぼ同世代のようです。存命の作家の中では、最も注目している時代小説作家の一人です。『蜩の記』『銀漢の賦』に続き本書を読み、思わず引き込まれてしまいました。おもしろいです。

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