映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

碁盤斬り

2024年06月04日 | 映画(か行)

武士って生きにくい・・・

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白石和彌監督、初の時代劇。
古典落語「柳田格之進」をもとにしています。

身に覚えのない罪を着せられた上に妻も失い、
故郷彦根藩を追われた浪人・柳田格之進(草なぎ剛)。
娘・お絹(清原果耶)とともに江戸の貧乏長屋で暮らしています。
実直な格之進は囲碁が得意で、その人柄を表わすように、嘘偽りのない勝負を心がけています。
そんなことがきっかけで格之進は、江戸の大店・萬屋の主(國村隼)と知り合い、
親交を深めていきます。

そんなところへ、旧知の藩士からかつての彦根での冤罪事件の真相を知らされ、
格之進は復讐を決意。

ところがそんな中、萬屋で大金の紛失事件が発生。
その時に居合わせた格之進に疑いがかかりますが・・・。

武士たるもの、常に清廉潔白でなければならない。
あらぬ疑いをかけられることこそが恥。
それは命をかけても晴らさなければならないこと。
そうした思想がバックボーンとなっているわけです。
そんなストイックな有り様が、草なぎ剛さんに合うんだなあ・・・。

ネタばらしになってしまうかもですが、
萬屋でお金を盗んだと疑いをかけられた格之進は、思わず切腹しようとしますが、
そこは娘・お絹がかろうじて引き留め、
それならばと自分から遊郭に身を売ってお金を作り、
そのお金を萬屋に渡すようにと言うのです。

そんなことをすればかえって自分の盗みを認めるようなモノなのでは?
と思ってしまうのですが・・・。
なんとしてもいざこざの中心に自分がいることに耐えられないということなのか。
それでも、自分は盗みなど働いていない、いつかきっと疑いを晴らす、
その時には番頭と主の首をいただく、と言い捨て、姿を消す格之進。

いやいや、格之進の覚悟もさることながら
武家の娘、お絹さんの決断がまたすごすぎます・・・。

ともあれ、なんとも武家だの武士だのは生きにくい。
こんなに肩肘張って生きなければならないのは本当に、つらそう・・・。

 

ところで「碁盤斬り」の題名の意味は、最後に分ります。
ウソ!!と思います。

そうそう、齊藤工さんの武士姿というのもなかなかイケてた。
敵役ですが。

 

<シネマフロンティアにて>

「碁盤斬り」

2024年/日本/129分

監督:白石和彌

脚本:加藤正人

出演:草なぎ剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢磨、齊藤工、國村隼、小泉今日子

 

ストイック度★★★★★

ハラハラ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「鴎外青春診療録控 千住に吹く風」山崎光夫

2024年06月03日 | 本(その他)

開業医見習いとしての森鴎外

 

 

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森林太郎(鷗外)は明治14年(1881)7月、満19歳で東大医学部を卒業。
同年12月に陸軍に出仕するまで、千住で開業医をしていた父の診療を手伝っていた。
卒業時の席次が8番と不本意なものだったため、
文部省派遣留学生としてドイツに行く希望はかなわなかった。
幼少時から抜群の秀才として周囲の期待を集め、
それに応えつづけた林太郎にとって、わずか半年足らずとはいえ、
例外的に足踏みの時代だったといえる。
本作は、自分の将来について迷い煩悶しつつも、
父とともに市井で庶民の診療に当たっていた林太郎が、
さまざまな患者に接しながら経験を積み、
人間的にも成長してゆく姿を虚実皮膜の間に描く連作小説集である。

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本作の主人公は、かの森鴎外であります。

明治14年。
作中は本名、森林太郎で表わされていますが、満19歳で東大医学部を卒業(!)。

その後進路が定かには決まらないまま、
開業医である父親の診療所で見習いとして働き始めます。
その後陸軍で軍医として働くまでの数ヶ月間の出来事を、
小説として表わしているわけです。

この診療所を訪れる患者たちの心の機微。
医師として患者に真剣に向き合う父親の姿に大いに学ぶ林太郎。
そして友人や周囲の人々の動向。
ここには実在の人物も登場するので、興味深いのです。
林太郎自身は本を読むことはもちろん大好きなのですが、
この時点では小説家になりたいなどとは思っていません。
むしろドイツ留学などして、もっと知識を身につけたいと思っていた。

明治という時代性も大いに感じさせられ、とても興味深く読みました。

 

<図書館蔵書にて>

「鴎外青春診療録控 千住に吹く風」山崎光夫 中央公論新社

満足度★★★.5

 


エンドロールのつづき

2024年06月01日 | 映画(あ行)

情熱が道を開く

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パン・ナリン監督自身の実話を基にしています。

インドの田舎町ニクラス、9歳のサマイ。
学校に通いながら、父のチャイ店を手伝っています。
父は厳格で、映画などは低俗なものと考えていますが、
信仰するカーリー女神の映画だけは特別として、家族で映画を見に行きます。

初めて経験する映画の世界にすっかり心を奪われてしまったサマイ。
それが忘れられず、後に映画館に忍び込みますが、
バレて追い出されてしまいます。
それを見た映写技師のファザルがサマイに声をかけます。
料理上手なサマイの母の作ったお弁当と引き換えに、
映写室から映画を見せてくれるというのです。

サマイは映写窓から様々な映画を見て圧倒され、自分も映画を作りたいと思うのです。

映写室から多くの映画を見て、映画に魅せられる・・・。
「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出しますが、
インドのこの作品、これはこれで実に面白い。

サマイは、映画は「光」が物語を紡ぐのだと思います。
映画館を離れても、色ガラスの破片や、色のついた空き瓶を通して
風景や人々を眺め、映画を思う。

サマイは頭が良くて、そして近所の子供たちのリーダー格でもあるのです。
仲間たちをも、映画の魅力にひきずり込んでしまいます。

驚くべきは、廃品の中から使えそうなものを寄りだして、
映写機のようなモノを創り上げてしまう。
はじめ彼は、フィルムに光を当ててそのままフィルムを動かしてみたのですが、
それだと全く「動く」映像にならないのです。

そのわけを教えてくれたのはファザルで、
フィルムのコマとコマの間に暗闇がなければならない。
私たちは気づかずに、映画の半分は暗闇を見ているのだ・・・と。
この話、私が知ったのは、なんの本を読んだ時だったっけ・・・? 
まあともかく、サマイはそこも工夫して、
なんとか映像が動くマシン(手回しですが)を作り上げます。
スバラシイ!!

 

サマイの学校の先生は言うのです。

「インドの身分の違いには二つある。英語が話せる者と、話せないもの」

「なにかになりたいのなら、この地を出なければならない」

・・・そうは言っても、チャイの売り上げで日銭を稼ぐ貧乏な自分の家。
そんなことはとてもムリと、サマイは思う・・・。

映画が好きで好きで・・・映画を作ってみたくて・・・。
でもどうして良いか分らない。
そんな少年の憧れ、挫折、何もかもがみずみずしく、そして力強いのでした。

いい作品だなあ・・・。

それと、サマイのお母さんが作るお弁当がと~ってもおいしそうでした!!

<Amazon prime videoにて>

「エンドロールのつづき」

2021年/インド・フランス/112分

監督・脚本:パン・ナリン

出演:バビン・ラバリ、リチャーミーナ、ディペン・ラバル、バベーシュ・シュリマリ

憧れ度★★★★☆

創意工夫度★★★★☆

満足度★★★★★


それいけ!ゲートボールさくら組

2024年05月31日 | 映画(さ行)

ほっこり

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76歳、織田桃次郎は、カレー店を営み、息子家族とともに暮らしています。

ある日、かつて高校ラグビーでマネージャーを務めていたサクラが経営する
デイサービス・桜ハウスが倒産の危機に瀕していることを知ります。

桃次郎は元ラグビー部の仲間を集め、サクラを助けようと相談を始めます。
銀行から立て直しの融資を得るためには、まずは加入者を増やす必要があります。
そのため試行錯誤の末、ゲートボール大会に出場して優勝し、
施設の知名度を上げようということに。

彼らは「チームさくら組」を結成し、高校時代に培ったチームワークで奮闘します。
しかし、彼らの前に悪徳ゼネコン企業の陰謀が立ちはだかる!!

良い感じにちょっと枯れた面々の、ほっこりする人情コメディです。

かつての鬼マネージャー(?)サクラは実はちょっと認知症で、
この度のゲートボール大会も若き日のラグビーの試合と混同しているようなのですが・・・。

でも周囲のみんなもそんなことを指摘したりはしない。
普通に皆の日常と溶け込んでいるのがなんともステキでした。

森次晃嗣さんの登場シーンでは、さりげなく少しアレンジした
「ウルトラセブン」のテーマ曲が流れたりして・・・。

そしてまた、故三遊亭円楽さんがゲートボール決勝戦の解説者役で出演されていて、
なんだか感慨深い。

<WOWOW視聴にて>

「それいけ!ゲートボールさくら組」

2023年/日本/107分

監督・脚本:野田孝則

出演:藤竜也、石倉三郎、大門正明、森次晃嗣

 

老人コメディ度★★★★☆

満足度★★★★☆


せかいのおきく

2024年05月29日 | 映画(さ行)

江戸のSDGs

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江戸時代末期。

武家育ちのおきく(黒木華)は、寺子屋で子供たちに読み書きを教えながら、
父(佐藤浩市)と2人で貧乏長屋に暮らしています。

ある雨の日、厠のひさしの下で雨宿りをすると、
紙くず拾いの中次(寛一郎)と、下肥買いの矢亮(池松壮亮)に出会います。
それから3人は少しずつ心を通わせるように。

ところがその後、お菊はある事件に巻き込まれ、
父を亡くし、自身は喉を切られて声を失ってしまいます・・・。

 

ほとんどがモノクロ、ごくわずか画面に色が差す部分もあります。

下肥買いという矢亮の商売。
作中では「汚わい屋」と呼ばれていましたが、
つまり人家の厠の糞尿をくみ取って買い上げ、
運搬し、農家へ肥料として売るのです。

糞尿を汲んでお金を払うと言うのにちょっと驚きました。
でも、このシステムのおかげで江戸の町はとても清潔だったと言いますね。
パリの町などは路地が糞尿にまみれていたといいますから・・・。
紙くず拾いの中次も、結局下肥買いのほうが儲かるので、
矢亮と組んで仕事をするようになります。

ともあれ、何もムダにしない江戸のSDGsをしっかり堪能させていただきました。

・・・と言うわけで、本作その糞尿のシーンが実に多い!! 
だから、これは白黒で良かった~と思う次第。
カラーはリアルすぎてちょっと恐い。
そして映像に匂いがなくて良かったなあ・・・。

おきくは、感情豊かで思い切りの良い性格。
ほとんど強情と言ってもいいくらい。
一応武家の娘ですが、すでに本人にはそんな自覚もなく、
汚わい屋の中次になんの差別も持たずに心惹かれていきます。
ところが、声を失ってしまったおきく。
おきくの思いを伝えるにはジェスチャーしかありません。
中次は読み書きができないのです・・・。
しかし2人にはそんなことはなんの障害にもなっていないというのも、いっそ心地よいですね。

佐藤浩市さんと寛一郎さんの親子共演も見所です。

 

<WOWOW視聴にて>

「せかいのおきく」

2023年/日本/89分

監督・脚本:阪本順治

出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、真木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司

 

SDGs度★★★★☆

ばっちい度★★★★★

満足度★★★★☆