映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

イコライザー THE FINAL

2024年05月18日 | 映画(あ行)

安住の地?

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イコライザーシリーズの最終章となる第3弾。
そういえば「イコライザー」は嫌いではなかったな
・・・と思ってこの度拝見。

デンゼル・ワシントン演じるロバート・マッコールは、言ってみれば闇の仕事請負人。
瞬時に周りの状況を把握し、空間や使える物体を最大限に活用、
そして最小のムダのない動きで相手を倒す。
相手は1人に限らず数人でも。
かかる時間は9秒・・・と言う凄腕なのですが、
そこのアクションが実にカッコ良くて、シビれます。

さて本作冒頭では、イタリアのシチリアにて、
そんな感じで一仕事を終えるマッコール。
しかしその後ほんの一時の油断で、背後から銃弾を受けてしまいます。
なんとかたどり着いた車の中で倒れ込んでしまったマッコール。
しかし彼は全く見ず知らずの警官に助けられ、医師の元に担ぎ込まれました。
マッコールはこの医師の元でしばらく療養することになります。

風光明媚な土地。
警官も医師も銃創を負ったマッコールには何かがあったことは一目瞭然なのに、
詮索することなく、やさしく親しげです。

他の土地の人々もいかにも純朴でやさしい。
マッコールは次第にこの土地が好きになり、
もう仕事は引退してここに住みたいと思うように・・・。

さてところがこの土地で、麻薬密輸組織が国際的テロ組織と手を組み、
大がかりな裏の流通網を築こうとしているのでした。
そのことに巻き込まれそうな人々を救うために、マッコールは立ち上がる・・・。

シチリア島と言えばマフィア発祥の地なので、
こんな恐ろしげな組織があるのも肯けます。
けれど多くの人々は、美しいこの土地で平和を望んで暮らしている。
そんな島の情緒もたっぷりで、私は気に入りました。

マッコールの正体をつかみながらも、彼に協力しようとするCIAエージェント・エマが
なんとダコタ・ファニング(お久しぶり!)で、これも興味深かったです。

<Amazon prime videoにて>

「イコライザー THE FINAL」

2023年/アメリカ/109分

監督:アントワン・フークア

出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、デビッド・デンマン、レモ・ジローネ

 

異国情緒度★★★★☆

サスペンス度★★★★☆

満足度★★★★☆


ロスト・フライト

2024年05月17日 | 映画(ら行)

闘う機長

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悪天候の落雷によってコントロールを失った航空機、
ブレイザー119便が、フィリピンのホロ島に不時着します。

機長のトランス、乗客ら17名は辛くも一命をとりとめましたが、
しかしこの島は凶暴な反政府ゲリラが支配する無法地帯。
おまけに乗客の中には、移送中の殺人犯ガスパールもいます。

ゲリラ組織は乗客たちを捕らえ人質にして
身代金をかすめ取ろうとして、乗客らを拉致します。

島内の偵察に出ていたトランス機長とガスパールは手を組み、
ゲリラ勢力と闘い、乗客を取り戻そうとしますが・・・。

単に航空機の墜落寸前のパニックものというだけでなく、
ゲリラ組織との戦いと、この島からの脱出サバイバルでもある
というなんともスリリングなストーリーで、ついのめり込んで見てしまいました。
こんな機長がいたらホントに心強いわあ・・・。

乗客の1人が移送中の殺人犯、でもその殺人犯の力を借りることになる
という筋立てがまたナイスでしたね。
彼には軍人経験があって、意外にも粗暴で残虐な男ではなかった、と。
最後に自己犠牲を払ったりもせず、ちょっと粋な終わり方だったのも気に入りました。

ところでこの飛行機、シンガポール発東京行きだったのに、
日本人が誰も乗っていなかった。
韓国人はかろうじていたのですが。
残念。

 

<Amazon prime videoにて>

「ロスト・フライト」

2022年/アメリカ/107分

監督:ジャン=フランソワ・リシエ

出演:ジェラルド・バトラー、マイク・コルター、ヨーソン・アン、ダニエラ・ビネダ

 

スリル度★★★★☆

満足度★★★.5


理想郷

2024年05月15日 | 映画(ら行)

さびれた村と移住者の軋轢

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「理想郷」という題名とは裏腹に、なんとも緊迫感に満ちたサスペンスとなっています。
スペインで実際に起きた事件を元に映画化したもの。

フランス人夫婦アントワーヌとオルガ。
スローライフを求めて、スペインの山岳地帯にある小さな村に移住してきます。

さびれたその村は、若い人は皆都会に出ていて、
残された者たちが貧困問題を抱えながら細々と暮らしています。
アントワーヌ夫妻の隣人の兄弟も同様の暮らし向き。
新参者の夫婦を嫌い、嫌がらせをエスカレートさせていきます。

そしてまた、村にとっては金銭的な利益となる風力発電のプロジェクトを巡り、
夫婦と村人の意見が対立。
隣人兄弟との軋轢はますます増大していき・・・。

片や自然豊かな地で有機野菜を作り、第二の人生を送ろうとするインテリ夫婦。
そしてもう片や、イヤでもこの地に生を受けて生きていくほかなかった
独身の兄弟とその母親。
この家族にとっては、趣味のように野菜を作ろうとする
お気楽なこの夫婦に我慢がならなかったでしょう。
もう少し家が離れていればまだ良かったのだけれど、
隣同士というのがいかにもマズい。
互いの様子がイヤでも目に入ってしまいます。

そこへ持って、風力発電のプロジェクト。
プロジェクトを受け入れれば、補助金が入る。
そのことだけが「希望」の地元の人々。

対して、せっかくの景観が風力発電のプロペラで台無しになることを恐れる新参者の夫婦。
しかしこの夫婦も、古民家をリフォームしたり有機野菜を売り物にしたりという
新たな都会人向けの需要で、村を活性化できると考えてはいるのです。

どこまで行っても折り合いがつかない。
夫婦がプロジェクトを反対しているために話が進展しないので、
村人、特に隣人兄弟の憎しみは増大していきます。

舞台が日本でも十分通用する話。
世界中似たような状況があふれているのだなあ・・・。

さてさて、物語の後半は、この夫婦の妻が主体となっていきます。
地元フランスで暮らす娘がやって来て、こんな所はもう引揚げるべきだと主張。
ただ父の言いなりになってこんな所までついてきただけだったのでは?
と母を問い詰めます。
この母子の壮絶な激論がまた強烈な見所となっていました。

けれど彼女は夫のいいなりになってこの地に来たわけではない。
彼女自身の主体性を見せるところがまた、本作を骨太のものにしています。

なかなかの力作でした。

<WOWOW視聴にて>

「理想郷」

2022年/スペイン・フランス/138分

監督:ロドリゴ・ソゴロイェン

脚本:ロドリゴ・ソゴロイェン、イサベル・ペーニャ

出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン

 

ヒリヒリ度★★★★★

満足度★★★★☆


猿の惑星 キングダム

2024年05月14日 | 映画(さ行)

凶悪なのは猿よりも・・・

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最近私は、この手のSFアクション超大作というような作品を
あまり見なくなってきているのですが、
このシリーズはずっと見てきているので、やはり見なければ、と。

「猿の惑星」創世記(ジェネシス)→新世紀(ライジング)→聖戦記(グレート・ウォー)
に続く第4弾です。

300年後の地球。
人類は退化し、高い知能と言語を得た猿たちが地球の新たな支配者として君臨していて、
中でもプロキシマス・シーザーは宗教的カリスマ性と強大な軍団を率いることで
巨大な帝国「キングダム」を築こうとしていました。

本作の主人公ノアは、そんな帝国からは少し離れた
山岳部の小さな集落に暮らしています。
彼らはワシを飼い慣らして生活する部族で、ノアは族長の息子なのでした。
ところが突然プロキシマス配下の一団が襲撃し、
父は殺され、他の村人はさらわれてしまいます。

ノアは村人を取り戻すため、プロキシマスの元へ向かうことに。
そんな中でノアは、年老いたオランウータンや、
人間の女性ノヴァと出会い同行することに。

人間は知性に欠け、言葉も話さないはずなのですが、
ノアはノヴァの目に知性のきらめきを感じます・・・。

 

ノアの部族は言ってみれば少数民族。
プロキシマスらからみれば取るに足らない貧しい田舎者。
ノアの村の一族は奴隷のように使役するために捕られ、連行されたのです。

猿の社会でも結局このように格差が生じているのも興味深いですね。
けれどノアの部族は自然と共に生きる誇り高い一族。
こうした設定がステキなのです。

そしてかつて人間が築いた都会の街並みは多くが崩れ去り緑に覆われて、
廃墟というよりもむしろ美しい光景を生み出しています。
そうした地上の様子がなんとも興味深い。

そして、ノアと旅の道連れになるノヴァは、実はしっかりとした知性を持つ「人間」。
始めはそのことを隠していましたが、次第に正体を現していきます。
彼女は何かの意図を持って、プロキシマスの元へ行こうとしている。
彼女の秘密とは一体何・・・?

と言うことなのですが、う~む、
結局一番凶悪のは「人間」なんだな、と私は思ったのでした。
ノアの村が無性に懐かしく居心地良く思えてしまいます。

それにしても今さらですが猿の表現が素晴らしいです。
今はもう特殊メイクではなくて、「パフォーマンスキャプチャー」なんですね。
猿の顔の表情、口元、なんの違和感もなく、感情が表現されます。
ストーリー、映像共に、思いのほか満足できました!

余談ではありますが、これまで創世記、新世紀、聖戦記と、
ステキに文字数をそろえ・韻を踏む題名で来たのに、
ここでいきなり「キングダム」になってしまったのは、いかにも残念。
なんとかそろえられなかったのかあ・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「猿の惑星 キングダム」

2024年/アメリカ/145分

監督:ウェス・ボール

出演:オーウェン・ティーブ、フレイヤ・アーラン、ケビン・デュランド、
   ピーター・メイロン、ウィリアム・H・メイシー

人類衰退度★★★★☆

自然回復度★★★★★

満足度★★★★☆


「時の娘」ジョセフィン・テイ 

2024年05月13日 | 本(ミステリ)

リチャード三世は本当に悪逆非道だったのか?

 

 

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薔薇戦争の昔、王位を奪うためにいたいけな王子を殺害したとして
悪名高いリチャード三世。
彼は本当に悪逆非道を尽くした悪人だったのか? 
退屈な入院生活を送るグラント警部は、
ふとしたことから手にした肖像画を見て疑問を抱いた。
警部はつれづれなるままに歴史書をひもとき、
純粋に文献のみからリチャード三世の素顔を推理する。
安楽椅子探偵ならぬベッド探偵登場! 
探偵小説史上に燦然と輝く歴史ミステリの名作。

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先に英国のリチャード三世に関連する映画「ロスト・キング」を見たのですが、
それに関連して、同じくリチャード三世を扱っている本作を読んでみました。

本作は1951年に発表されたものですが、
いまだに愛され、読み継がれている作品です。

 

「ロスト・キング」の中でも言われていますが、
リチャード三世というのは1400年代、まだ子どもの甥2人を殺害して王位に就いた、
悪逆非道な王、というのがイギリス人の多くの人の常識とされています。

骨折で入院中のグラント警部が、ふとしたきっかけからリチャード三世の肖像画を目にして、
この人物が本当に悪逆非道・残忍な人物であったのか?
と疑問を覚え、リチャード三世を調べ始めるのです。

入院中でしかも600年も前のこと、
協力者を得て様々な文献をあたるというのが最大できること。

・・・ということで、著者は「小説」という枠組みの中で、
実際の文献をあたり、歴史に刻まれた悪評高いリチャード三世の実像に迫っていくのです。

 

例えば日本だったら、「明智光秀はなぜ織田信長を裏切って本能寺の変が起きたのか」
という永遠の命題を解き明かす、
みたいな話を小説仕立てにする・・・という感じですね。

 

リチャード三世が亡くなってから人からの伝言などを記録したものは、参考にしない。
あくまでもリチャード三世存命の折、リアルタイムで記録したと思われる文献のみを参考にする。
そのようなコンセプトで調べてみれば、
そもそも幼い王子たちが行方不明になったり殺害されたという記録がない。

リチャード三世の醜聞はどうも後の王、ヘンリー7世側のねつ造らしい・・・というのです。
歴史好きにはたまらなく魅力的。

映画「ロスト・キング」の主人公の女性などは、
リチャード三世に肩入れするあまり、彼の墓所を探し始め、
ついに突き止めるという偉業を成し遂げました。
もしかすると本作も、そんな彼女の動機づけの一つだったのかも知れません。

 

ところで本作、私は初め図書館から文庫を借りたのです。
ところが、古い文庫本のなんと活字の小さいこと!!
む、ムリ・・・。
無理矢理読めないこともないけれど、ストレスばかりが大きくなりそう。
ということで、結局文庫を購入して読みました・・・。
グスン。
古典的作品でも新しい版であればちゃんと活字は大きくなっているので、
ありがたいことでございます。

 

「時の娘」ジョセフィン・テイ 小泉喜美子訳 早川書房

満足度★★★★☆