(「ハンバーガー」さえ自らに合うように変える)
高山:職人の世界では、よく「道を極める」と言いますね。この「求道」という感覚は、日本人に特有かもしれません。
柔道、剣道、空手道は武道で、茶道、華道は芸道ですが、料理でも、大工の技術でも「道」とつかなくても、そこに同質の修養、精神的態度がある。ホントに「どうして?」と思うぐらい(笑)、日本人は「学ぶ」ことが好きです。
日下:論理の世界では理屈に理屈を重ねますが、それを卒業して直感や悟性という感覚の世界に行き着く。
たとえば下町のベテランの職工さんが持っている“絞り”の技術、手作業の精緻(せいち)さは、コンピューター制御の機械でも真似ができない。それを支えているのは長年の経験で培ったカンです。日本人はこんなところからも、無意識にせよ、理性を超えた世界のあることを知っている。
*新幹線の先頭車先端部分のドーム型の成形はこの“へら絞り”といわれる加工技術によるものです。
高山:先ほどの「うまみ」の話にひきつけてそれを考えると、人間が味を感じるのは舌にある味蕾(みらい)という感覚細胞です。それが英語だと、舌(tongue)は“話す能力”を象徴している。おしゃべりの道具なんですね。味に関しては口蓋(こうがい:palate)で、「あなたはいいパロットを持っている」なんて言う。
しかし、口蓋に味蕾(みらい)はついていない(笑)。日本人も「舌足らず」とか「舌が回る」「二枚舌」とかいって、おしゃべりに関する表現がたくさんあるけれど、同時に「舌鼓を打つ」とか「舌が肥えている」などと味覚を感じるものだということがわかっている。
辞書で引いてみればわかるけど、彼らにとって「美味い、不味い」というのは上口蓋にフィットするかどうかという表現になっています。
日下:そうですか。面白いですね。
日本マクドナルドの創業者の藤田田(でん)さんから聞いた話があります。事業がスタートして間もない頃でしたが、藤田さんは、「アメリカ人の舌には味蕾がついていないんじゃないか。なんでこんなハンバーガーでも彼らは『美味い、美味い』と言って食べられるのか」と言う。そのハンバーガーチェーンを日本で展開しようとは、ひどい話ですよ(笑)。
ただ、藤田さんは、初めは物珍しさもあって売れるだろうが、このままでは日本では続かないとわかっていた。そこで、日本人の味覚に合うハンバーガーを日本マクドナルドで開発し、その分、米マクドナルド社に払うロイヤリティを値下げさせた。それどころか逆に、日本仕様のハンバーガーの開発費を取るぐらい逞(たくま)しかった。新聞はそれを「悪辣(あくらつ)」なんて書くんだけれどね(笑)。
藤田さんは、「日下さんに食べてもらわなくてもいいんです。若者にたくさん食べてもらって、彼らが年輩になるのを待ちます」と言った。たしかにハンバーガーは、いまや日本の食文化の一風景になった。
さらにハンバーガーを日本の食文化に取り入れ、すっかり“日本風”にしたのが「モスバーガー」です。創業者の櫻田慧(さくらださとし)氏は証券マンとして滞米中に、「より日本人に合ったものができるのではないか」と考えた。
帰国後に設立したのがモスフードサービスで、より質の高い食材を用いて、つくり置きはせずに、注文を受けてからつくる。やや値は張るけれど、日本人の味覚、嗜好に合うことをコンセプトに成功を収めた。テリヤキバーガーとかライスバーガーなんていうのは、「モスバーガー」の発明ですね。
ハンバーガー一つとっても、日本人は自らに合うように変えてしまう。
---owari---
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