(ウクライナの首都キエフの国家保安庁本部でAFPのインタビューに応じるオレクサンドル・クリムチュク氏(2019年3月6日撮影)。(c)Sergei SUPINSKY / AFP)
① ""大統領選目前、ロシアのサイバー攻撃に備えるウクライナ""
2019年3月26日 15:06
発信地:キエフ/ウクライナ [ ウクライナ, ロシア, ロシア・CIS, 米国, 北米 ]
【3月26日 AFP】今月31日に行われる大統領選挙を前に、ウクライナの首都キエフにある国家保安庁(SBU)の本部では、海外からのサイバー攻撃に備え、欧州連合(EU)との合同サイバーセキュリティー訓練が実施されている。
約100人の専門家が参加した訓練は、ウクライナ大統領選へのロシアの介入を阻止する取り組みの一環で、ハッカー役のEUの参加者がウクライナの中央選挙管理委員会を攻撃し、ウクライナの参加者がその攻撃を無効化させるシミュレーションなどが行われた。
SBUの職員によると、省庁など国家機関のコンピューターへの不正アクセスを試みる分散型サービス妨害(DDoS)攻撃やフィッシング攻撃が、ここ数か月増えている。SBU情報セキュリティー部門のオレクサンドル・クリムチュク(Oleksandr Klymchuk)氏は、「ロシアがサイバー攻撃を行っている」と指摘する。
ロシアは、米国やEUで実施された選挙に介入したと非難されている。ウクライナの大統領選でも、ロシアがメディアや自動投稿を行うソーシャルボットなどを使って偽情報を拡散し、影響を与えようとするのではないかとの疑念が欧米で広がっている。
ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が選挙介入の支援をしていると考えられているが、政府はハッキングや干渉を否定している。
ウクライナ選挙対策本部(Ukrainian Election Task Force)のヤクブ・カレンスキー(Jakub Kalensky)氏は、ロシア政府は特定の候補を支援しているわけではなく、大統領選全体の信用性を傷つけようとしているとの見方を示す。
ウクライナ選挙対策本部は、外国による選挙介入の試みを暴くために米シンクタンク「大西洋評議会(Atlantic Council)」の支援を受けて最近設立された団体で、ロシアは電力網や通信網、空港など主要インフラもサイバー攻撃の標的にする可能性があると警告する。
ウクライナとロシアの関係は、2014年にキエフで発生した一連の抗議活動で、ロシアの支援を受けていた政権が失脚したのをきっかけにずたずたになった。ロシアは、ウクライナ南部クリミア(Crimea)半島の併合や東部の分離派を支援することによりこれに対抗した。
👤この紛争では、これまでに約1万3000人が死亡している。
■狙いはポロシェンコ政権の失墜
ロシアによる中央選挙委員会に対するサイバー攻撃は最近になり数回行われており、今後はさらに増える可能性があるとSBUは予想している。
米国のカート・ボルカー(Kurt Volker)ウクライナ特使は、メディアや偽情報を通じたロシアの介入は「すでに行われている」と話す。同氏は先月AFPの取材に対し、ロシアはペトロ・ポロシェンコ(Petro Poroshenko)大統領を攻撃し、弱体化させようとしていると語った。
「ロシアはポロシェンコ大統領が権力の座から引きずり降ろされることを切に願っている。そうすれば、新政権とロシアを利するなんらかの取引を結ぶことができると期待していると思われる」
53歳のポロシェンコ大統領の勝利は、確実からは程遠い。世論調査では、俳優でコメディアンのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)氏(41)がリードしており、ポロシェンコ大統領がそれに続いている。
SBUのクリムチュク氏は、ボットネット(悪意のあるソフトウエアを使用して乗っ取ったコンピューターで構成されるネットワーク)は、ウクライナ国民に対立の芽を植え付け、パニックを引き起こす狙いがあると話す。
米フェイスブック(Facebook)は2016年の米大統領選で、ロシアによる選挙介入に十分に対応しなかったと批判された。このためフェイスブックは、ウクライナの選挙戦では、地元政府やNGOと協力し対策を取るとしており、外国人による選挙広告の掲載を認めない取り組みを先月から拡大しているという。
クリムチュク氏によるとフェイスブックは、SBUの要請を受け、ここ数か月間で約2000件のアカウントを閉鎖した。
ウクライナのサイバーセキュリティー専門家らは、北大西洋条約機構(NATO)や世界的企業による訓練を受けており、2014年よりもロシアのハッカーに対抗する準備は整っていると、クリムチュク氏は強調した。(c)AFP/Oleksandr SAVOCHENKO