① ""すばる望遠鏡 ; TOPIC 03 爆発現象が解き明かす宇宙の元素合成””
水素、ヘリウムに次いで軽い元素であるリチウム、金やプラチナに代表される鉄より重い元素―これらはいずれも、宇宙における生成現場が謎であった。
すばる望遠鏡は、こうした元素が宇宙における爆発現象で生成されることを示した。新星爆発は、白色矮(わい)星を伴う近接連星系において、白色矮星表面に降り積もったガスが爆発する現象である。高分散分光器HDSによる観測で、V339 Delphiniと呼ばれる新星爆発でリチウムが生成されている証拠が得られた。新星が、宇宙におけるリチウムの製造現場であるという新たな示唆が得られたのである。
- [ウェブリリース]新星爆発は宇宙のリチウム合成工場だった
- [参考文献]Tajitsu et al. 2015, Nature, 518, 7539, “Explosive Li production in the classical nova V339 Del(Nova Delphini 2013)”
新星爆発の想像図。2013年に現れた新星V339 Delphini(いるか座新星2013)でリチウムが大量に生成されていることが、HDS による観測から明らかになった。(クレジット:国立天文台)
鉄より重い元素のうち、素早い中性子捕獲反応(rプロセス)で作られる元素は、中性子星同士の合体で生まれるのであろうと考えられていた。すばる望遠鏡は重力波源GW170817に伴う光赤外線を超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)と、多天体近赤外撮像分光装置MOIRCSによって追跡観測することに成功し、その特徴からrプロセス元素が大量に生成された証拠をつかんだのである。
- [ウェブリリース]重力波天体が放つ光を初観測―日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場―
- [参考文献]Utsumi et al. 2017, PASJ, 69, 101, “J-GEM observations of an electromagnetic counterpart tothe neutron star merger GW170817”
- [参考文献]Tanaka et al. 2017, PASJ, 69, 102, “Kilonova from post-merger ejecta as an optical and nearinfrared counterpart of GW170817”
- [参考文献]Tominaga et al. 2018, PASJ, 70, 28, “Subaru Hyper Suprime-Cam survey for an opticalcounterpart of GW170817”
重力波天体GW170817の光赤外線対応天体。HSC撮影。すばる望遠鏡をはじめとする日本の望遠鏡群が行なった観測により、天体の明るさと色の時間変化を追跡することに成功し、その特徴からrプロセス元素が大量に生成された証拠をつかんだ。(クレジット:国立天文台)
宇宙で初めて生まれた星はどのようなものだったのか。それを探る一つの手段は、宇宙初期に生まれて現在まで生き残っている古い星を見つけ出し、その特徴を詳しく調べることである。すばる望遠鏡のHDSは、SDSS J0018-0939と呼ばれる星がまさにそうした星であることを明らかにした。この星は、宇宙の初代星が起こした超新星爆発でまき散らされたガスから生まれたのかもしれない。
- [ウェブリリース]天の川銀河の星の元素組成で探る宇宙初代の巨大質量星の痕跡
- [トピックス]宇宙ライター林公代の視点(15) : 宇宙のいちばん星
- [参考文献]Aoki et al. 2014, Science, 345, 912, “A chemical signature of first-generation very-massivestars”
初代の巨大質量星が起こす爆発の想像図。特異な元素組成を持つことがHDS観測で明らかになった小質量星SDSS J0018-0939は、爆発によって巨大質量星が放出した物質と周囲の水素から誕生したと考えられる。(クレジット:国立天文台)