① ""115億光年彼方の原始グレートウォールの内部に巨大銀河誕生の現場を発見””
2015/12/05
発表者
- 梅畑 豪紀(天文学教育研究センター/ヨーロッパ南天天文台 日本学術振興会特別研究員)
- 田村 陽一(天文学教育研究センター 助教)
- 河野 孝太郎(天文学教育研究センター 教授)
発表のポイント
- アルマ望遠鏡を用いて、115億光年彼方に、爆発的に星形成を行っている銀河(モンスター銀河)の9個からなる集団を発見した。
- モンスター銀河が、原始グレートウォールと呼ばれる宇宙最大の天体の内部で群れ集まって誕生していることを明らかにした。
- モンスター銀河がどのように生まれ、巨大銀河へ進化したのかを紐解く鍵となることが期待される。
図1. モンスター銀河の例。左はアステ望遠鏡によって撮影されたサブミリ波の画像で、1個の明るいモンスター銀河が存在しているように見えます。中央は今回、新たにアルマ望遠鏡によって得られた同じサブミリ波の画像です。60倍の解像度、10倍の感度を得たことで実は3個のモンスター銀河が近い範囲に存在していることがわかりました。右の図は同じ領域のすばる望遠鏡による可視光の画像です。モンスター銀河は全く見えていないか、見えていても非常に暗いことがわかります。
発表概要
表内容
(1)研究の背景 近年の研究によって、初期宇宙(注3)には極めて活発に星を生み出している銀河が存在することがわかってきました。我々の住む銀河系(すなわち天の川銀河)と比較して数百倍から数千倍もの勢いで星を作っているこのような銀河は、その活動の比類ない激しさからモンスター銀河と呼ばれています。これらモンスター銀河は、近くの宇宙に存在する巨大銀河の昔の姿だと目されており、銀河形成の歴史を紐解く上で重要な天体だと考えられています。
また、モンスター銀河はダークマター(注4)の分布を知る貴重な手がかりになると期待されています。現在の銀河形成理論では、ダークマターの密度の高い場所でモンスター銀河が誕生すると予想されています。このような予想を検証するためには、モンスター銀河がどのような場所で生み出されているのか、その現場をとらえることが必要になります。
(2)研究の内容 研究チームは、みずがめ座の一角にあるSSA22と呼ばれる天域に注目しました。この方向には、すばる望遠鏡やケック望遠鏡による観測によって、115億光年彼方に若い銀河の大集団が発見されています。この大集団はフィラメント状の立体構造を成していることが知られていて、「原始グレートウォール」だと考えられています。研究チームでは、この原始グレートウォールについて、モンスター銀河の徹底的な捜索を行いました。
モンスター銀河には研究者を悩ませる、ある特徴があります。それは、あまりに多くの塵に覆われていて、すばる望遠鏡で見ることができるような、目に見える光(可視光)ではその姿をあまりとらえられない、というものです。モンスター銀河を「見る」ためには、可視光ではなくサブミリ波(注5)と呼ばれる電磁波で観測することが有効になります。サブミリ波を使うことで、塵からの放射を捉え、モンスター銀河の姿を浮かび上がらせることができるのです。
これまでに、研究チームではアステ望遠鏡(注6)を用いて、この領域のサブミリ波の画像を取得していました。この画像から、どうやら原始グレートウォールの方向にモンスター銀河がいるらしい、と予想できました。
一方で、解像度、感度、ともに十分ではなかったため、それ以上の探査が難しい状況でした。そこで、より鮮明な画像を得るべく、南米チリに作られた最新鋭の電波望遠鏡であるアルマ望遠鏡を用いて、この領域を詳しく観測しました。
その結果、従来の観測と比較して60倍の解像度と10倍の感度を達成することができ、それぞれのモンスター銀河を明確に認識することが可能になりました(図1)。
そして、合計9個のモンスター銀河が原始グレートウォールの内部に群れ集まって存在していることを確認しました。モンスター銀河は希少な天体であり、1億光年四方の立方体の中に平均して0.1個程度しか存在しないことが知られています。今回発見されたモンスター銀河の集団はその数千倍のとても高い密度を示していました。さらに、原始グレートウォールの中でも中心部、フィラメントの交わる場所でこのモンスター銀河の集団は発見されました(図2)。
若い銀河の密度が高くなっているこのような場所は、ダークマターの密度もまた高くなっていることを意味しています。そのような特殊な環境において、多くのモンスター銀河が生まれていることを示した本研究結果は、現在の銀河形成理論による予想を裏付けるものだと言えます。また、原始グレートウォールがモンスター銀河、ひいてはその子孫となる巨大銀河の誕生の母体となっていることを示しています。
(3)今後に向けて 今回、研究チームは原始グレートウォールの中心部がモンスター銀河の誕生の現場であることを明らかにしました。このことは、同時に、モンスター銀河を道しるべとしてより遠方の宇宙における原始グレートウォールを探索していくことができる可能性を示しています。研究チームではアルマ望遠鏡やすばる望遠鏡を用いて、モンスター銀河と原始グレートウォールの関係をより詳しく調べていく予定です。
図2. 原始グレートウォールとモンスター銀河の想像図。約5億光年にわたって若い銀河がフィラメント状に分布した大集団である原始グレートウォールの中心部で、モンスター銀河がいくつも誕生していると考えられます。
発表雑誌
- 雑誌名
- The Astrophysical Journal Letters(オンライン版:日本時間12月4日)
- 論文タイトル
- ALMA Deep Field in SSA22: A concentration of dusty starbursts in a z=3.09 protocluster core
- 著者
- Hideki Umehata※, Yoichi Tamura, Kotaro Kohno, Rob J. Ivison, David M. Alexander, James. E. Geach, Bunyo Hatsukade, David H. Hughes, Soh Ikarashi, Yuta. Kato, Takuma Izumi, Ryohei Kawabe, Mariko Kubo, Minju. Lee, Bret. Lehmer, Ryu Makiya, Yuichi Matsuda, Kouichiro Nakanishi, Tomoki Saito, Ian R. Smail, Toru Yamada, Yuki Yamaguchi, and Min S. Yun
- DOI番号
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- 要約URL
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用語解説
- (注1)アルマ望遠鏡
- アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、ALMA)とは、東アジア、北米、欧州などの国際プロジェクトとして運用されている、巨大な電波望遠鏡です。水蒸気による影響を抑えるため、南米チリ共和国アタカマ砂漠、高度5000mの場所に設置されています。直径12mと7mのパラボラアンテナを66台つなげて、巨大な一つの望遠鏡として機能します。高い解像度と感度を活かして、近傍での星や惑星の誕生から遠方銀河の研究まで、さまざまな観測を行っています。↑
- (注2)原始グレートウォール
- 近くの宇宙では銀河は一様に分布しているわけではなく、群れ集まっている部分と空洞の部分が入り交じった、いわば蜘蛛の巣状の分布をしていることが知られています。長さにして5億光年を越えるこの宇宙最大の天体(あるいは大規模構造)はグレートウォールと呼ばれています。初期宇宙においても、同じくらいの大きさを持った若い銀河の群れが見つかってきています。これらはグレートウォールの先祖、原始グレートウォールだと考えられています。↑
- (注3)初期宇宙
- ここでは、宇宙137億年の歴史の初期、数十億年から100億年以上前の宇宙をさしています。↑
- (注4)ダークマター
- 暗黒物質とも呼ばれる未知の物質をさしています。宇宙に存在する物質の8割以上を占めると考えられていますが、いまだに直接検出には至っていません。↑
- (注5)サブミリ波
- 波長1mm前後の電磁波をここではサブミリ波と呼んでいます。本研究ではアステ望遠鏡、アルマ望遠鏡、どちらでも波長1.1mmによる観測を行いました。↑
- (注6)アステ望遠鏡
- 直径10mのサブミリ波望遠鏡で、アルマ望遠鏡と同様に水蒸気の少ないアタカマ砂漠に作られています。国立天文台・東京大学を中心として運営されています。↑