産経新聞 【北京=川越一】中国の習近平国家主席は、ベトナムへの訪問で中越関係の“リセット”を強調した。経済協力強化を望むベトナム側も表向きは友好関係をアピールしたが、国内では抗議の声が噴出。「伝統的な友好関係を固める旅」と訴えた習氏だが、反中感情を高める皮肉な結果となった。
現地からの報道によると、習氏の訪問直前から首都ハノイでは抗議活動が続いた。参加者は「スプラトリー(中国名・南沙)諸島とパラセル(同・西沙)諸島をベトナムに返せ!」などと訴える横断幕を掲げて抗議。5日は中国大使館周辺にバリケードが築かれ、道路が封鎖された。
しかし、3日にハノイ中心部で行われた抗議活動の参加者は「警官はほとんど抗議者を放っておいた。すぐに追い払われた昨年の反中デモと違った」と証言しており、ベトナム政府の対応にも変化が表れている。
中国の国際情報紙、環球時報(英語版)は5日付の評論記事で、ベトナムを「大国の対抗関係によって簡単に方向転換する国」と揶揄(やゆ)。「ベトナム政府は、中国の地域での影響力が外部の力で消されないことを深く理解できる」と存在感を誇示した。
ベトナムは南シナ海での米軍の行動について明確な支持を避けるなど、中国の顔色をうかがうが、ベトナムの中国文化専門家は「指導者は習氏の訪問を歓迎するかもしれないが、国民は違う」と反発。経済力で対立を封じ込める中国への反感が再び広がっている。