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ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス検査での不正をめぐり、アメリカ環境保護局(EPA)は20日、VWが、傘下の「アウディ」や「ポルシェ」での不正についても認めたことを明らかにしました。
アウディもポルシェも、VWグループの筆頭ブランド。販売台数と利益額を見ると、VWが470万台で約4000億円、アウディが135万台で約7000億円、ポルシェが16万台で約3600億円。アウディの圧倒的な利益額とポルシェの利益率の高さがうかがえます。
VWグループ一番の稼ぎ頭の「アウディ」や、利益率トップの「ポルシェ」にも不正があったというニュースは、VWグループの経営に大きな打撃を与えることが予想されます。
実は今回の事件は、単なるVWの不正だけでは片づけられないところがあります。この背景で絡み合う各国の思惑を見ていきましょう。
VW、中国市場での売り上げは堅調
不正発覚を受け、VWグループが発表した10月の世界販売台数は、前年同月比3.5%減。特にアメリカや欧州では販売台数が落ちました。
しかしVWの最大の市場である中国では3%増と、相変わらず好調です(11日付中国汽車工業協会発表)。
そもそも中国では不正が多いという国柄も手伝い、VWの不正問題はほとんど報道されていません。また不正発覚後の10月、メルケル独首相はVWの社長を伴って中国を訪問し、中国市場で打撃を受けないよう依頼したことが効いているようです。
中国にとっては、ドイツに恩を売ることができる機会になっているとも言えるでしょう。
好調な自動車会社はアメリカで訴えられる?
今回のVW不正問題の震源地はアメリカ。アメリカについては、興味深い指摘があります。英タイムズは10月、日産・ルノーのカルロス・ゴーン会長がEU加盟国の通商閣僚に送る書簡で、「アメリカがVWに厳しく対処するのは、ディーゼル車の競争力が優れた欧州自動車業界をけん制し、米自動車産業を保護するための措置だ」と主張したと報じました。
問題の背景には、特にアメリカの排ガス規制が厳しいということがあります。今回のVWも対象車も、欧州の規制はクリアしていました。
また、今回のVW騒動は、2009年のトヨタ・リコール事件と似ているという指摘もあります。トヨタが2008年に販売台数で世界一になった直後、アメリカでトヨタ車を運転中に急加速事故が発生。米メディアは事故の原因がトヨタ車にあると大々的に報道しました。結果としてトヨタは大規模なリコールに踏み切りましたが、急発進事故のほとんどが運転手のミスということが明らかになっています。
今回のアメリカでの不正発覚も、VWが2015年上半期に世界販売台数一位になった矢先のこと。真偽のほどは分かりませんが、アメリカが国内自動車産業を保護するという戦略的な意図があるのかもしれません。
VW不正は氷山の一角?
とはいえ、VWの問題もあります。今となっては、欧州で技術大国と呼べるのはドイツのみ。そのドイツが誇る自動車会社が、技術開発で規制をクリアするのではなく、安易な不正に走ったことは、ドイツが勤勉の美徳を失い、技術大国から転落していく予兆かもしれません。
技術力で勝負するのではなく、中国にすり寄って生き延びようという姿勢は情けなくも感じられます。
行き過ぎた利己主義や商売至上主義は失敗のもと
こうして見ると、中国、アメリカ、ドイツのそれぞれの国で、共通する問題があるようです。それは、「消費者を欺いてでも利益を得たい」という商売至上主義。また、自社や自国の会社の経営さえ好調であればいいという利己主義です。
自社や自国の利益を追求するのは当たり前のことですが、行き過ぎた商売至上主義や利己主義は顧客の信頼を失う結果につながります。
近江商人の経営哲学は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」だと言います。売り手だけでなく買い手の幸福を考え、さらに地域社会の発展に貢献する。この精神が、やはり商売の基本ではないでしょうか。(真)
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2015年9月27日付本欄 あなたの会社は大丈夫? VW問題から学ぶ2つの教訓
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