大石邦子「いのちの春」

父の木白木蓮の真っ白な花の向こうに見える青空、母が亡くなる日、この木の下に百円の缶ビールを木の根元に置いてきたのも、ボケ症状かと思っていたがそうでもないかもしれない。
次に咲く花は皐月、そして今日石楠花が咲いた。
いや、草木だけではない。縁側に何か蠢いている。近寄って見ると、ダンゴムシか青虫かよく分からないが、箒で触るとキュツと丸くなってしまう。
アッと胸を突かれた。虫もこうして身を守るのか。私達も今、丸くはなれないが必死で新型コロナから身を守っている。
箒で静かに出した虫はコンクリートの上を又這い出したが、蟻が四方から集まって来たが、虫は必至で逃げる。しかし、蟻の方が何百倍も早い。
エッ！まさか蟻に殺されるの！私は柄の長い箒で縁側に腹ばいになって蟻を追い払い虫を庭の方に逃がしてやった。
その後どうなったかは分からないが、何もかも動き始めたいのちの春。
今年我が家から出たのは3回、病院だけの完全自粛の日々であった。桜も見てない。友と連れ立ってもいない。全てコロナが収束してからね。
そんなところに、バイクにヘルメット姿で颯爽と詩人のノグちゃんがやってきた。
パイプ椅子を出すと、2m近く離して置いて、マスクの耳を傾けながらおしゃべり、久しぶりに笑い愚痴をいい、弱音を吐き、16歳からの語らい、帰宅後彼女から達筆なFAXが届いた。「十年ぶりぐらいおしゃべりしたね」
下半身の痺れでお風呂が欠かせない大石さん、何時までもお元気で！