トルストイの短編小説の中に『人にはどれだけの土地がいるか』という話があります。 皆さんの中にも知っている方がおられるでしょう。トルストイは多くの長編小説を残しましたが、短編小説の中でも名作を残しました。
当時、ロシアは少数の大地主と国民の大半が小作農に分かれていました。 他人の土地を借りて耕作する人には、いつか自分の土地で耕作したいという願いがあります。
ある日パフォムという農夫に、嬉しい知らせが聞こえてきました。ある情け深い大地主が、あるテストさえ通過すれば、希望する土地を与えるというのです。 パフォムが一番最初に訪れました。「地主様、どうすれば土地を持つことができますか?" "簡単だよ。 明日の朝、太陽が昇る時から始めて、日が暮れるまでに帰ってきたら、君が踏んだすべての土地をあげよう。回った所には穴を掘って表示をしておけばいいよ。 ただし、日が暮れる前までに戻らなければならない」。
パフォムは家に戻りました。ドキドキして眠れません。明日になると、自分も大地主になれます。どれほど胸をはずませたことでしょう。眠れずに、朝も食べなくてお弁当箱だけ持って、大地主と出発地点で会いました。 そして大地主と一緒に遠くまで広がっている土地を見ました。日が昇ると走り始めました。
炎天下の中を走り続けます。 息が止まりそうで、疲労困憊しますが、自分が踏む土地が自分のものになるんだと思ったら、そのぐらいは我慢できます。走り続けていくうちに「もう帰ろうか。いや、もう少しだけ」。そう思いながら進むと、もっと良い土地が見えるのです。それで少しずつ先へ行きます。日はだんだん傾いてきます。「ああもう戻らなきゃ」。向きを変えて出発地点に戻ります。一日中休まず走ったのでもう息が苦しくなってフラフラします。向こうを見ると、丘の上から大地主と彼の僕たちが、早く来いと歓声を上げています。パフォムは最後の力を振り絞って丘を駆け上がって行きました。そしてまるですべり込みする選手のように、出発地点に置いていた帽子に手を伸ばしました。ついに自分の土地を得た瞬間です。パフォムは人々の拍手の中、最も良い土地を得た人になりました。大地主が「パフォム、実に立派だった。あの広い土地は皆あなたのものだ」。ところがパフォムは起きません。「おい、もう起きなさい・・・」。パフォムは帽子に手が触れたその瞬間、心臓が止まって死んでしまいました。大地主は、「お前が横になるだけの土地はあんなに努力しなくても得られたのに・・・」と言いました。そしてパフォムの遺体が横になれるように穴を掘って埋めました。2mにもなりませんでした。