お互いに正座をし、おもむろに「美代子さんは、私の部屋で亡くなられ、遺骨として帰って来られませんので、せめてもの形見として、遺髪と胸に付けられておられた名札を持参致しました。」と言って、封筒の中よりそれを取り出して、お父さんに渡した。
「美代子、帰って来たか!」 ワッと涙々である。
美代子さんの生前の様子、亡くなる前の最後の言葉、遺体は似の島に送ったこと、私も負傷していたので、充分な手当が出来なかったことなどをお詫びした。
「この名札は、美代子が胸に付けていたのに間違いはありません。美代子、よく近本様の胸に抱かれて帰って来てくれた。」「近本様、よくぞ美代子を連れて来られました。
「いいえ、私の当然のことをしただけです。」
前田さんのご家族にお別れする時が来た。横川駅より長崎行きの汽車に乗った。
広島よ、色々な出来事があった。生死のことがあった。私の一生涯、決して忘れることは出来ない。
被爆でお亡くなりになられた方々、静かにお眠り下さい。
(完)
「美代子、帰って来たか!」 ワッと涙々である。
美代子さんの生前の様子、亡くなる前の最後の言葉、遺体は似の島に送ったこと、私も負傷していたので、充分な手当が出来なかったことなどをお詫びした。
「この名札は、美代子が胸に付けていたのに間違いはありません。美代子、よく近本様の胸に抱かれて帰って来てくれた。」「近本様、よくぞ美代子を連れて来られました。
「いいえ、私の当然のことをしただけです。」
前田さんのご家族にお別れする時が来た。横川駅より長崎行きの汽車に乗った。
広島よ、色々な出来事があった。生死のことがあった。私の一生涯、決して忘れることは出来ない。
被爆でお亡くなりになられた方々、静かにお眠り下さい。
(完)