何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

ココは全部、山 人生 ④

2018-08-23 19:33:03 | 
「ぜんぶ、ワンコ 山 ②」 「個々の累積の個々が全部 ③」より

ワンコ 今月のワンコお告げの本のタイトルを見た時には、
それがワンコの意思なのだろうかと驚き悲しかったのだけど、
とりあえずは恋愛に絡めたミステリーの体を装いながら、時間と記憶の捉え方について書かれているあたり、
さすがブッカー賞を取っただけのことはあるし、
今このタイミングで読むことができたのも意味があったと思えるから、
ワンコ ありがとうね

「終わりの感覚」(ジュリアン・ バーンズ 訳 土屋政雄)

本書はね、
高校時代の友人に、初めてできた恋人を奪われてしまった男の半生が描かれているんだよ
(いや、友人が奪った、というより、恋人がエリートに乗り換えた、という方が正しいと思われる)
友人と恋人の裏切り?、友人の自殺・・・・・、
それらに影響を受けながら、いや影響を受けないように注意深く生きてきた主人公は、
それなりに結婚し子供も設け、それなりに仕事も勤め上げ、
人生の最終盤にさしかかろうとした頃、
自殺した友人の遺品である日記が遺贈される可能性が生じるんだよ
しかも、その日記を主人公に託そうとしているのが、
主人公を裏切り友人の許へ走った恋人の母親だというから、謎なんだけど
この謎を解くために、
主人公が、記憶の糸を高校時代まで遡らせ、手繰り寄せて紡ぐ話が、本書なんだよ

本書は、主人公の高校時代の歴史の授業の場面から始まりるんだけど、
そこで繰り広げられる、歴史と記憶に関して印象的な言葉は、
そのまま人生にも当てはまるんだよ (『 』「終わりの感覚」より)

『歴史とは勝者の嘘の塊』
『(歴史とは)敗者の自己欺瞞の塊でもあることを忘れんようにな』
『個々の責任の累積、(以下は最終章の主人公の感想)その先は、大いなる混沌』

味わい深いだけでなく、ミステリーの要素もあるから、本書の顛末を書くことは控えるけれど、
主人公よりも、おそらく二回りほど若い年齢で本書を読んだおかげで、
しばし、これまでの人生を振り返ることができたことは、有難いことだと思うんだよ

『人生の終わりに近づくと―――いや、人生そのものでなく、その人生で何かを変える可能性がほぼなくなるころに近づくと―――人にはしばし立ち尽くす時間が与えられる。ほかに何か間違えたことはないか……。そう自らに問いかけるには十分な時間だ。』

平均寿命という意味では、まだ半分そこそこしか生きていないかもしれないけれど、
何かを(大きく)変える可能性は、ほぼ無いような気がする年代に差し掛かっているせいか、
せめて終わりの時に、間違えたと思う事が一つでも少ないように、とは思い始めている。

考えてみると、間違いばかりの人生のような気もするが、
その逆で、間違いを恐れるあまり、しっかり生きてこなかった気もするので、
主人公の、以下の嘆きは、身に堪える

『私は――人生を注意深く生きてきた私は――人生について何を知っているだろう。人生を勝ち取りもせず、失いもせず、ただ起こるに任せてきた私は? 人並みの野心を持ちながら、その実現をあまりにもはやくあきらめ、それでよしとしてきた私は? 傷つくことを避け、それを生き残る本能と呼んだ私は? 勘定をきちんと払い、できるだけ誰とでも仲良くし、恍惚も絶望もかつて小説で読んだだけの言葉に過ぎなくした私は? 自己叱責が決してほんとうの痛みにならない私は……? 私は特別な悔恨に堪えながら、これらのことを考えつづけなければならない。これまで傷つくことの避け方を知っていると思ってきた男が、まさにその理由から、いまとうとう傷つこうとしている。』

主人公は、間違えることを恐れ、傷つくことを避けるために、
できるだけの事、だけをし、
感情すらも、誰かのものを借り、
そうして、自分の記憶を自ら少しずつ塗り替えていった

『人生が長引くにつれ、私が語る「人生」に難癖をつける人は周囲に減り、「人生」は実は人生ではなく、単に人生についての私の物語にすぎないことが忘れられていく。それは他人も語るが、主として自分自身に語る物語だ』

その、自らに都合よく塗り替えられた記憶に従い、人生についての物語を終えられれば、
それなりに幸せなのだろうが、
そうそう上手くいくとは限らない
何時どのような所から、物語の違う側面が、自分すら気づかずにいた自分の人生が、白日のもとに晒されるかは、分からない

だから、『何かを変える可能性がほぼなくなる』前に、
「少し立ち止まれ!!」とワンコが言っているだと、思えたのだよ

ねぇ ワンコ
大枠では、もう何かを変える可能性は少ない年代かもしれないけれど、
その枠のなかで頑張ることで、良い時間を重ねることはできるよね ワンコ
その良い時間、ってのが、独りよがりなものでないように、
弱い私を見張っておいておくれよ ほったん

そんなことを、
又すこしユーツの虫に憑りつかれそうになっている今、思うことができたことに感謝しているよ 
ほったん
だから、’’終わりな感じ’’なんて言わないで、これからも本をお告げしてちょうだいね

お山については、つづくよ つづく