あの日の笑顔

　今年も３月１１日になりました。
　毎年来るんだけどね、２０１１年以降、ちょっと特別な日です。
　というか。
　２０１１年３月１１日のことは、結構細かく思い出せる。
　その一年前のことは、全く思い出せないけど。
　天気良かった。
　横浜の大桟橋からは富士山も見えて。
　午後になって、ちょっと雲が出てきたけど。
　短い碇泊の間に、荷物を上げ下ろししている船員さん達が、私が見ているのに気付くと手を振ってくれた。
　カメラを構えると、周りにも声をかけて、みんなで手を振ってくれた。
　いつかこの写真が、彼らに届くといいな、とか思いながら撮った。
　この次に両親が船に乗る時に、持って行ってもらったはず。
　こうして渡す写真には、必ず日付を入れてプリントする。
　故郷を離れて洋上で生活する彼らには、日付って大事な気がして。
　誰かと写真を見ながら、そう、この日は横浜にいたよ、って話ができる。
　出航した後、日本は大変なことになったんだよ、と思い出すかも知れない。
　地震の後、大津波警報が出たことを知った時、彼らは大丈夫かな、と心配になった。
　この写真、渡せなくなっちゃったらどうしよう、とか、ある意味どうでも良いことを思ったりした。
　遺影になっちゃうのかな、とか、まったく縁起でも無いことを考えたり。
　あの瞬間までは、楽しいできごともたくさんあった。
　たまには、それも思い出してあげないとね、なんだか３月１１日がかわいそうだ。
　いい日だったよ。
　だって、あの日の写真、笑顔ばかりだもん。