管理人は「中国人遺棄毒ガス被害賠償請求裁判」の「毒ガス問題を考える会」事務局長をしていた2004年6月に、毒ガス弾を遺棄したと東京地裁で証言をしてくれた元兵士二名と一緒に中国・吉林省敦化市沙河沿屯に行きました。
元陸軍技術下士官(陸軍工科学校。後に陸軍兵器学校卒業)小林さんが、沙河沿の草原に貨物列車から降ろし、野積みをした砲弾の木箱の中から、毒ガス弾の木箱だけを土中に埋めた場所を探しています。
右は小野寺利孝弁護士。
中国メディアと記者会見をする、関東軍第十五方面軍第二十軍大橋第十六野戦兵器廠勤務の元陸軍兵技曹長小林さん(右から二人目)と同軍曹故戸口さん。戸口さんの左隣は藤沢整弁護士と山森良一弁護士。
中国人記者の質問に答えて戸口さんは「毒ガス弾であろうと天皇陛下からお預かりした兵器であるから、上官の命令が無い限り絶対に埋めることはしません。」とキッパリと言われたことを思い出します。小林さんも、毒ガス弾を遺棄したと証言をされた他の元兵士たちも異口同音に「上官の命令」を強調していました。
命令について「日本陸海軍事典」は次のように解説をしています。
『命令とは、指揮権を有する者から部下に向かってある行為を指命する辞令をいう。すなわち命令は発令者の意思を表示し、かつ某程度までその施行の方法を定め、部下をして自己の任務を了得させ、その実行を強いるものである。換言すれば、下命者の意思は命令をもって部下に告知せられ、部下はこの命令により活動する。故に命令は軍の活動の原動力であって、命令の精神は部下に絶対の服従を要求するものでる。』
防衛省・防衛研究所研究員奥平 穣治氏は、『軍事組織における指揮命令関係の課題
――わが国の国際平和協力の一層の推進に向けて――』防衛研究所紀要第12 巻第2・3 合併号(2010 年3 月)において下記のように述べています。
『軍事的機能を遂行する組織の上位者と下位者の間における指揮命令関係は、服務関係の根幹をなすものであり、自衛隊員の服務も、諸外国の軍隊と同様に、通常の公務員関係より厳格な内容となっている。
本稿は、軍事組織(軍隊、自衛隊)の上位者と下位者の間における指揮命令関係(以下「指揮命令関係」という。)について、主要国の軍事法制における法制度を参考にして、わが国の自衛隊に関する防衛法制における法制度の課題を考察するものである。
軍事法制においては、軍人の人事、服務に関する事項が定められているが、そのうち服務関係とは、軍人の権利や義務、指揮命令関係、懲戒、刑罰などについてのものである。この中で指揮命令関係は、軍隊という組織の本質に根ざす面がある。軍隊が国家を防衛するという目的を達成するために人命を賭して戦闘行為を行う以上、上位者は時には死地に赴くことを下位者に対して命ずることがあるが、上位者には強い指揮権と、それと対をなす重い責任がある。軍人の服務を考える上で、指揮命令関係について検討することは、軍隊の本質を見つめ直す意義がある。
指揮命令関係は、自衛隊も軍事的機能を遂行する組織である以上、服務関係の根幹をなすものであるが、自衛隊法(昭和29 年法律第165 号)などに定める自衛官の服務も、諸外国の軍隊と同様に、通常の公務員関係より厳格な内容になっている。』
最後に奥平氏は『憲法解釈の変更については、これまでの政府見解との適合性や、憲法の法的安定性を確保するため、安易に行うことには問題があるが、考え方の転換を行うことで、多国籍軍の指揮権と自衛隊の関係の問題を解決するための一つの方法になるであろう。』と「解釈改憲」を提言しています。