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高嶋伸欣<教科書比較の私見②-1>児童生徒の社会的発言を保証する「請願権」 記述のお粗末さ!

2020年06月22日 | 学校教育

友人の川口重雄さんからのメールを転載します。

高嶋さんは、結びに>「請願権」についての授業実践の事例や、「請願権」についての比較資料など、情報を寄せて頂ければ幸いです。< と、述べられていますので、新宿区議会が「請願」と「陳情」について改善されていることを記述しました。

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各位 6月19日〔BCC、本日第2信〕

教科書2題。高嶋伸欣さんからです。

それでは。川口重雄拝

Subject: <教科書比較の私見②-1>児童生徒の社会的発言を保証する「請願権」記述のお粗末さ!

皆さま 髙嶋伸欣です

各地での取り組みによって作成された教科書比較資料を拝見しています。

大変な作業をされた様子が反映されていて、いろいろ学ばせて頂いています。ありがとうございます。

ただ残念ながら、私が数年来こだわり続けている「請願権」について、その正確な認識の定着とそれを的確に行使できる思考力と判断力の習得こそ主権者として極めて有効な資質である、との観点からの比較が見当たりません。

こうした観点でという以前に、「請願権」そのものに言及している事例がないようです。

念のために、改めて「請願権」について整理しておきます

1)「請願権」は憲法16条で「何人(なにひと)も」日本国内の官公署に対して希望・意見・要求等を自由に提示できることができると保証された基本 的人権の一つです。

2)基本的人権ですから、その権利の行使についての制約は最小限に留められるべきで、日本国憲法と同時(1947年5月3日)に施行された「請願法」では、氏名と住所(または居所)さえ記載してあれば良く、それ以外の条件を加えることは別途の法律(#)がある場合以外許されていません。#ここでいう「別途の法律」とは「国会法」と「地方自治法」のことでそれぞれ国会と地方議会の議会(議長宛て)への請願には、所属議員の紹介が必要と規定しています。この条件は憲法違反だとする意見が憲法学者の中にありますが、ほとんど議論はされていません。その一方で、この条件によって請願権の行使が著しく阻害されている状況にあります。

この問題については、複雑なので別途に提起するつもりです。

3)次に「請願権」についての認識で、最も知られていないのが「何人(なにひと)も」の意味です。

① 日本国憲法は国籍主義を原則にして、多くの条文で「国民は」としていますが、基本的人権の条項では「何人も」との規定が多数用いられています。従って、16条にいう「請願権」も「国民(日本国籍の者)」に限定することなく、「日本国内に住所を持つ在住者すべて」を意味しています。在住外国人も区別することなく、この権利を行使できることになります。

*後述しますが、現在の社会科教科書の大半は「請願権」を「国民の権利」の文脈の中で説明しています。憲法施行以来70余年にしてこの状況です

② 加えて、上記1)にいう「氏名・住所」を記載してあれば(書ければ)、官公署は請願として受理しなければならないという定めとこの「何人も」とを合わせ読むと、年齢制限がないことになります。

幼児は実際的ではないにして小学生ならば十分にあり得ると考えられます。選挙権の適用年齢が18歳に引き下げられ高校3年生も選挙権を行使できるようになった話題に引き付けられ、請願権の行使も20歳からだったのが18歳から可能になったと思っていたと話す教員や高校生もいます。今もそのように思い込まされている人は少なくないようです。

*小学校の社会科6年生の各社教科書では、「請願権」に触れていますが、小学生でも行使できる基本的人権であるという説明や示唆はありません。中・高の教科書の大半も同様です

3)さらに、請願の対象を憲法16条は「公務員」、請願法は「官公署」としていて(請願法では天皇宛の場合についても規定しています)、すべての官公署(官庁)に請願ができるとしています。

*「官公署」には一般の官庁以外に教育委員会・選挙管理委員会などの独立委員会やその他の各種組織も含まれますが、このことを明示した教科書は見当たりません。

4)もう一つほとんど意識されていない事柄ですが、地方自治体の「官公署」に請願をする場合、その官公署が管轄する地域内の居住者である必要はありません。全国どこの自治体・官公署に対しても、その自治体・官公署の担当業務等に関することであれば、「何人も」規制されることなく全国どこからでも請願文書の提出は可能です。

以上が「請願権」の骨子ですが、今現在、新型コロナ対策で学校教育は、2月26日の安倍首相による思い付きの「全国一斉休校要請」以来、混迷の中にあって、児童生徒が様々な声を上げています。けれども、それらを教育関係者やマスコミなどが「請願権」の行使と結び付けた助言や指導、報道をしたケースを見当たりません。「請願権」行使の機会が生かされていないのは、残念です。

その一方で、参議院議員選挙を目前にして都神奈川県教委は県立高校などに主権者教育の一環として模擬投票の実施などを指示したとのことです。選挙権のある高校3年生を想定して高投票率への誘導を期待してのことのようです。

けれども、政治や行政などに関心を向けるには、とって付けた間に合わせのその場しのぎの類を講じるのではなく、選挙権年齢になる以前からそうした機会を持つことになる「請願権」についての理解と請願を体験する実践の機会を、日ごろから学校現場などで用意しておくけば効果的ではないでしょうか。

それには教科書における「請願権」記述が正確で適切であることが不可欠です。改めて、2021年度用の中学公民教科書(見本本)を見てみると、各社版とも「請願権」の語は一応(索引にも)あります。

けれども、教育出版が「日本に住むすべての人が」としているだけで、他の東京書籍・帝国書院・日本文教出版・育鵬社・自由社はどれも「国民の権利」の一つという説明になっています。

この状況は現行版でもほぼ同じで、この記述状況は明らかに違憲状態です。執筆者・監修者や編集者の責任は当然ですが、検定官たちも長年にわたってこの状態を放置してきた責任が問われます。

教育出版と他社との記述の違いに気付く機会があったはずですから。教育出版の場合も、年齢制限がないことなどその他の説明はありません。現行版では「年齢、国籍を問わず、日本に住むすべての人に認められているこの権利を、請願権といいます」と説明しているので、見本本の記述は簡略になり残念です。

また東京書籍は、年齢制限がないことを示唆するものとして、重い喘息の持病のある中学生が歩きたばこ禁止の条例策定を求めて実現させた静岡市の実例を複数の図版を載せて紹介しています。さらに「中学生が政治に参加するには、ほかにどのような方法があるか、調べましょう」との設問を添えています。

東書は、この静岡市の事例の掲載を以前から掲載しています。本文の説明で「国籍に関係なくすべての国内在住者に認められている権利」とされていないのが惜しまれます。

繰り返しますが、日本国憲法が施行された1947年5月3日から70年余、この間に学校教育やマスコミを通じて、「請願権」の意義が啓発され、請願が全国各地で適切に実行されていたら、戦後の社会はどれだけ主権在民の理想に近づいていただろうかと、悔やまれます。

私も社会科担当教員でしたので、責任の一端は免れません。担当分野が異なっていたことと、私が30年間在籍していた筑波大学付属高校は着任した当時(東京教育大学付属高校)すでに、生徒が年度の半ばで受講している授業の教員に、授業改善の要望を提起しそれに教員が答える機会として、最低1時間の授業時間を使う権利を生徒側に認めていました。着任直後から生徒による厳しい批判や要望を受けたことで、私は鍛えられ
たのでした。

転勤がないままにそうしたことは当然のものとの思い込みがあったと、今にして気づいています。逆に今聞かされるのは、若手教員が先輩教員に「教員がデモに行ってもいいのですか?」と尋ねたとか、「教職員組合員が選挙になっても投票には半分も行っているかどうかなあ」という組合幹部の嘆きです。「日の丸・君が代」の強制・弾圧下で育った世代が教員にどんどんなってきている現在、主権者としての目を見開くきっかけが求められ、そこに「請願権」に着目する意味がまたあると思い、こだわり続けています。

*歴史教科書でも、日本国憲法制定の説明の中に、「請願権」の条項策定のことを触れてもらえたらと念じています。

ちなみに、教育出版以外の公民教科書が「請願権」を国民の権利として説明している点は、それらを採択して学校での使用を義務付けた教育委員会の行為が、最高裁大法廷判決(「旭川学力テスト事件」1976年5月21日)にいう「事実に反する知識を子どもたちに植え付ける教育を強制するものは、憲法に違反し人権侵害に当たる」旨の例示に該当しているといえます。

展示会のアンケートなどではこの点を指摘し、現行版による学習についての是正措置を求めるとともに、新たな採択においては同じ過ちを生じさせないようにとの指摘をして頂ければありがたいです。

*私自身は、教科書会社各社に、採択後の供給本(実際に来年4月に生徒に渡す教科書)印刷の前に、訂正申請で「請願権」の記述を適正なものとするように要望するつもりです。

「請願権」についての授業実践の事例や、「請願権」についての比較資料など、情報を寄せて頂ければ幸いです。

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新宿区役所正面玄関の「平和行進出発式」で新宿区長のメッセージを代読する総務課長。

管理人が初当選したのは1971年4月でした。当時は「請願文書」だけが議員に配布されてから各所管委員会で審査されており、それ以外の議長宛文書は全て議長の引き出しにしまわれていました。共産党区議団が提案してから「陳情」、「要望」、「要求」と表題は様々ありますが全ての文書は、各派幹事長会議に提出することになりました。現在は議会運営委員会理事会となっています。

地方自治法「(請願の提出)第126条 普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。」と定められていますが、新宿区議会の場合は紹介議員になるかどうかは、各会派の会議に諮って決めています。よって全会派の賛同を得るために各会派の控室を訪問して、紹介議員の依頼をしなければなりません。そのこともあって「請願」よりも殆どが「陳情」となっています。「陳情」であっても、各委員会では真摯な討議と議論が、事案によっては現地視察がなされています。

新宿区議会委員会条例「(傍聴の取扱)第16条 委員会は、傍聴することができる。」 常任委員会と特別委員会の傍聴席人数は限定されていましたが、1950年に戸塚町・諏訪町の町名が西早稲田になる住居表示条例が区民委員会に付託されました。戸塚町・諏訪町の町名を守る運動団体の陳情と西早稲田にする団体の陳情が付託され、夫々の団体から傍聴者が多数あって委員会室から溢れ出ました。委員長だった共産党の故渡辺保之議員は、審査する委員会室を予算・決算特別委員会が使用する大会議室に変更しました。その後、「新宿区議会委員会傍聴規則(傍聴人の数)第3条 報道関係者以外の傍聴人の数は、委員長が定める。」となり、傍聴者人数を議会事務局が事前に把握しますので、傍聴者が多い場合は、大会議室や広い委員会室で委員会が開かれるようになりました。

「(会議概要記録)第28条 委員長は、職員をして会議の概要、出席議員の氏名等必要な事項を記載した記録を作成させ、これに署名又は押印をしなければならない。」として、「会議概要記録」が作成されています。

「(撮影、録音等の許可)第6条 傍聴人が委員会室等において写真、映画等を撮影し、ラジオ・テレビ等の録音若しくは録画又は中継をしようとするときは、あらかじめ委員長の許可を受けなければならない。」となり、陳情した団体が、委員会傍聴を報告する必要があるため写真撮影の希望が増えましたので、「委員長は許可」して、自由に撮影が出来るようになりました。

議会運営委員会確認事項は「陳情については、原則として委員会に付託して審查を行いますが、 次の事項に該当するものについては、委員会に付託しない場合があり ます。この場合は、各会派に陳情書の写しを配付します。」そして(1)~(7)までが確認事項ですので、殆どは「陳情文書」として各所管委員会で審査されます。
(1)基本的人権を否定するなど、違法または明らかに公序良俗に反する行為を求めるもの。
⑵ 個人の秘密を暴露し、プライバシーを侵害すると考えられるも の。
⑶ 司法権の独立を侵す恐れのあるもの。
⑷ 私人(法人を含む)間の争いで、新宿区の事務に関係しない事項を願意とするもの。
(5)趣旨等が明確に記載されていないもの。
⑹ 区民(在勤•在学者等を含む)以外から提出されたもので、陳情内容が区民生活や区政に関連しないと思われるもの。
⑺ ⑴から⑹までのほか、委員会付託を行わないことが適当であると議長が認めるもの。

(了)

 

  

 

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